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仲の良かった親友の計画によって嘘告された俺。その話を聞いた親友の妹がブチギレた  作者: 白金豪


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第28話 三人の土下座

 宮下さんが学校へ来なくなって一週間が経った。


「…………」


 朝の教室。


 自分の席へ向かう途中、なんとなく宮下さんの机が目に入った。


 今日も空いている。


 椅子は机の下へきっちり収まったまま横にカバンも掛かっていない。


 窓から差し込む光に照らされて天板の隅に薄く積もった埃が見える。


 もう七日も使われていないんだよな。


 少し前までは、あの席の周りに何人もクラスメイトが集まっていた。


 宮下さんが笑って。


 友人も笑って。


 俺が教室へ入る頃には大体いつも騒がしかった。


 残念ながら今は誰もいない。


 いつまでも見ていることじゃない。


 自分の席へ向かい、椅子を引く。


 座ってから机の横へカバンをかけ、中から教科書を取り出した。


 今日の一時間目は数学。


 教科書とノートを机に置いて、残りは机の中へしまっていく。


(あれ、筆箱……)


 カバンの底に手を入れる。


 あった。


「…………」


 準備を終えたところで教室の扉を見る。


 和美ちゃんは、まだ来ていない。


 今日も学校まで一緒に来た。


 昇降口で靴を履き替えてから、和美ちゃんは自分の教室へ荷物を置きに行った。


『すぐ行きますからね』


『そんなに急がなくていいよ』


『分かりました。待っていてくださいね』


 俺の返事、聞いてた?


 そう思うくらい念を押されてしまった。


 たぶん、もう少ししたら来てくれる。


 俺は数学の教科書を開いた。


 昨日、どこまでやったっけ。


 ページの端を指でめくる。


 見覚えのある数式。


 見覚えのある問題。


 でも解き方は、あまり見覚えがない。


 昨日の俺、ちゃんと授業を聞いていたんだろうか。


「……おい」


 近くで声がした。


「お前が先に言えよ」


「なんで俺なんだよ。お前が言い出したんだろ」


「いいから、早く」


「…………」


 顔を上げる。


 いつの間にか俺の席の近くに男子が三人立っていた。


 和哉と、いつもつるんでいた連中だ。


 あの屋上にもいた。


 宮下さんの告白を俺が信じた時、隠れていたところから出てきて笑った奴ら。


 声を思い出すだけで指先に少し力が入る。


「せーのでいくぞ」


「分かった」


「ちゃんとやれよ」


 なにを?


 そう聞く前に目の前の男子が膝を折った。


「え?」


 その後ろの男子もしゃがむ。


 さらに、その後ろも。


 机と机の間。


 俺の席の前から伸びる通路に三人が縦に並んだ。


 床へ両手をつく。


「「「すみませんでした!!!」」」


「…………」


 頭が下がった。


 三つ。


 一斉に教室の床へ額を押しつける。


「…………え?」


 いや、ちょっと待って。


 なにこれ?


「本当にすみませんでした!」


「俺たちが悪かったです!」


「許してください!」


 大きな声が続く。


 さっきまで話していたクラスメイトたちが、こっちを見た。


「え、なに?」


「土下座?」


「どうしたんだよ、あいつら」


 俺が聞きたい。


 なんで朝から自分の席の前で土下座を見せられているんだ。


 数学の問題より分からないぞ。


「…………」


 とりあえず教科書を閉じる。


 目の前には頭を下げた男子。


 その後ろにも男子。


 さらに後ろにも男子。


 きれいに並んでいる。


 順番待ちみたいだ。


「頼む、青木!」


「マジで反省してるから!」


「本当にごめん!」


 三人とも顔を上げようとしない。


 むしろ、さっきより低くなった。


 額を床へグリグリ擦りつけて何度も謝ってくる。


 そんなに擦ったら痛くないか?


 床だって、別にきれいじゃないぞ。


 ついさっき、俺も上履きで歩いたところなんだけど。


「……あのさ」


「はいっ!」


 一番前の男子が返事をした。


 屋上で俺を笑っていた時とは、ずいぶん違う声だった。


「どうして土下座してるの?」


 率直に聞いてみた。


 謝るなら謝るで、まず話をすればいいと思う。


 突然こんなことをされても、こっちは困る。


「それは……」


 一番前の男子の声が止まった。


 後ろの二人も黙る。


 さっきまで、あんなに勢いよく謝っていたのに。


「嘘告のこと?」


「そ、そう! それ!」


「だったら、普通に言えば……」


「違う、いや、違わないんだけど!」


 どっちなんだよ。


 一番前の男子が少しだけ顔を浮かせる。


 俺と目が合いそうになると、すぐに床へ戻した。


「宮下が……」


「宮下さん?」


「学校に来なくなっただろ」


「うん」


「それで、俺たちもやばいと思って……」


「…………」


 後ろの男子が慌てて続ける。


「そ、そうなんだよ! 今村も学校辞めたし、宮下もずっと休んでるし!」


「次、俺たちなんじゃないかって!」


「だから、許してもらおうと思って!」


 必死だった。


 声が少し裏返っている。


「俺たち、もう余計なことしないから!」


「お前にも近づかない!」


「だから、頼む!」


「…………」


 ふーん。そういうことね。


 ようやく分かった。


 俺がどれだけ嫌な思いをしたか。


 あの日から、どんな気持ちで学校へ来ていたか。


 それを考えて、謝りに来たわけじゃないんだ。


 和哉がいなくなった。


 宮下さんも来なくなった。


 それで自分たちも同じことになるかもしれないと思った。


 怖くなったから俺のところへ謝りに来た。


 なるほどなるほど。


「頼むよ、青木……」


 下げられた頭を見る。


 ここまでされているのに嬉しくなかった。


 胸のつかえが取れる感じもしない。


 ただ少し冷めた。


 ちゃんと悪いと思って来たのかもしれないって、ほんの少しでも思った自分がバカみたいだ。


「俺たち学校辞めたくないんだよ」


「親にも絶対怒られるし……」


「お前からも、あの妹に言ってくれないか?」


 和美ちゃんのことか。


 やっぱり怖いわけか。


「俺たちのことは、もういいって」


「頼む!」


「青木が許してくれたって分かれば、あの子も……」


「…………」


 勝手に話を進めないでほしい。


 俺は、まだ許すなんて言っていない。


 和美ちゃんになにか伝えるとも言っていない。


 それに和哉や宮下さんのことで俺が全部知っていると思われても困る。


 俺だって分からないことばかりだ。


 それでも必死に頭を下げる三人を見ていたら、不思議と少しだけ意地悪をしたくなった。


「そうかもね」


 ぽつりと言う。


 三人の肩がピクッと動いた。


「次は君たちかもね」


「え!?」


 一番前の男子が勢いよく顔を上げた。


 後ろの二人も続く。


「それって、どういうことだよ?」


「な、なあ。教えてくれよ」


「なにか知ってるのか?」


 全員、目を見開いていた。


 顔色が悪い。


 口元も引きつっている。


 困ったような。


 怯えたような。


 そんな目で俺を見ている。


「俺たち、なにされるんだ?」


「学校に言われるのか?」


「待ってくれよ。俺、親に知られたら……」


 知らないよ。


 本当に知らない。


 俺は、なにかする予定なんてない。


 誰かになにかを頼んだわけでもない。


 ただ、こいつらが勝手に想像して、勝手に怖がっているだけだ。


「青木!」


 名前を呼ばれる。


「なあ、なんとか言ってくれって!」


「…………」


 あの時は、なにも言えなかった。


 声が出なかった。


 顔を上げることもできなかった。


 でも今は違う。


「さあね」


 俺は椅子を引いた。


「自分で考えたら」


「待っ……」


 席から立ち上がる。


 手前の男子が慌てて体を起こしかけたので、俺は少し横へずれた。


 そのまま教室の出口に向かう。


「青木、話はまだ……」


 俺はもう終わりなんだけど。


 これ以上、近くにいてほしくない。


 謝っているようで、ずっと自分たちの心配ばかり。


 そんな話を朝から聞き続けるのは疲れる。


「なあ、頼むよ!」


「どういう意味なんだよ、さっきの!」


 後ろから声が飛んでくる。


 振り返らなかった。


「…………」


 廊下へ出る。


 俺は小さく息を吐く。


 少し嫌な言い方をしたかもしれない。


 でも今から戻って安心させてあげたいとは思わなかった。


 自分がなにをしたのか。


 どうして次は自分たちかもしれないと思うのか。


 それくらいは自分で考えて欲しい。


「……さて」


 和美ちゃんも、もう少ししたら来るだろう。


 先にトイレを済ませておこう。


 来てくれた直後に「ちょっとトイレ」って席を立つのも、なんとなく恥ずかしいし。


 いや、別に恥ずかしがることじゃないんだけど。


 分かってる。


 分かってるけど、できれば今のうちに済ませておきたい。


 教室からは、まだ男子たちの声が聞こえていた。


 俺はそっちに戻らず、そのままトイレへ向かうのだった。


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