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仲の良かった親友の計画によって嘘告された俺。その話を聞いた親友の妹がブチギレた  作者: 白金豪


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第24話 和哉が退学した次の日

 昨日。


 和哉が学校を退学した。


「…………」


 担任の口からその話が出た瞬間、教室の空気が変わった。


 本当に分かりやすいくらいに。


『え?』


『マジで?』


『退学って……今村が?』


 そんな声があちこちから聞こえてきた。


 無理もない。


 和哉はクラスでも目立つ方だった。


 友達も多かったし、いつも誰かと一緒に騒いでいた。


 そんな和哉が突然いなくなる。


 しかも転校とかじゃない。


 退学。


 驚かない方がおかしい。


「…………」


「…………」


「…………」


 特に和哉といつもつるんでいた男子たち、あいつらの動揺は分かりやすかった。


 俺への嘘告に協力していた連中。


 屋上で俺を笑っていた奴らだ。


 担任が話している間も何度もお互いの顔を見ていた。


 明らかに落ち着きがない。


『え、なんで?』


『俺なにも聞いてねえんだけど』


『……なんでだよ』


 小声でそんなことを話している。


 まあ、そりゃそうなるよな。


 仲間がいきなり学校を辞めたんだから。


 あいつらは詳しい事情を聞かされていない。


 俺も全部知っているわけじゃないけど。


 和美ちゃんの家でなにかあった。


 それだけは分かっている。


 というか、なにかどころじゃない気もする。


 和美ちゃん、和哉の話になると、とんでもなく怖いからな……。


「…………」


 それと、もう一人。


 宮下さん。


 俺に嘘告してきた本人。


 宮下さんも様子がおかしかった。


 何度も髪を触ったり。


 机の中を確認したり。


 普段より明らかに落ち着きがない。


「…………」


 一度だけ目が合った。


「っ……」


 宮下さんはすぐに目を逸らした。

 

 どうしたのだろうか?


 和哉が退学したからって、あの日にされたことがなくなるわけじゃない。


 あの時の笑い声も。


 屋上で感じた恥ずかしさも。


 全部覚えている。


 だから和哉がいなくなったと聞いて。


 俺は――。


 ホッとした。


 これが一番大きかった。


 もう教室で顔を合わせなくていい。


 廊下ですれ違うこともない。


 後ろから声を掛けられることもない。


 またなにかされるんじゃないか。


 そんなことも考えなくていい。


 本当に安心した。


 安心したはずなのに。


「…………」


 胸の奥になにかが残っていた。


 なんだろう。


 この感じ。


 嬉しいとは少し違う。


 寂しいとも違う気がする。


 ただ。


 空いた。


 そんな感じ。


 俺は無意識に和哉の席を見た。


 当然、誰も座っていない。


 空っぽの椅子。


 その後ろに机があるだけ。


「…………」


 今は嫌いだ。


 それは間違いない。


 俺を傷つけた。


 許せないとも思っている。


 だけど少し前まで。


 あそこには親友が座っていた。


『信吉、購買行こうぜ』


『今日、帰りゲーセン寄らね?』


『お前またそれやってんの?』


『貸せって。俺がやってやるから』


 そんな声が聞こえていた。


 小学生の頃から知っていた。


 ずっと一緒だった。


 俺が一人でいる時に声を掛けてくれたこともあった。


 くだらないことで笑ったことだって何度もある。


 その全部がウソだったわけじゃない。


 ……たぶん。


 だから余計に嫌な感じだった。


 嫌いになった相手なのに。


 いなくなったら少しだけ寂しい。


 寂しいと思ったら、あいつにされたことを思い出して腹が立つ。


 腹が立ったら、いなくなって良かったと思う。


 でも昔のことを思い出す。


 自分でも面倒くさい。


 もっと単純に嫌いになれたら楽なのに。


 そんなことを考えていた。


 ――それが昨日。


 次の日。


「ふんふんふ〜ん♪」


「…………」


 朝。


 俺の家。


 なんだろう。


 昨日の俺の悩み忘れちゃいそう。


「ふんふん♪」


 キッチンから鼻歌が聞こえてくる。


 俺はリビングのソファに座ったまま、そっちへ視線を向けた。


 ピンク。


 めちゃくちゃピンク。


 和美ちゃんがピンク色のエプロンを着て俺の家のキッチンに立っている。


 制服姿の上からのピンク色のエプロン。


 めちゃくちゃ機嫌がいい。


 というか本当に気にしてないな。


 和哉、昨日、学校辞めたんだよね?


 君のお兄ちゃんだよね?


 俺ですら少し複雑な気分になったんだけど。


「よしっ」


 和美ちゃんが楽しそうになにかを混ぜている。


「…………」


 まあ、和美ちゃんからすれば当然なのかもしれない。


 あれだけ怒っていたし。


 和哉のことを完全に拒絶していた。


 俺が知らないところでもなにかあったのかもしれない。


「なんでこうなったんだろ……」


 俺は小さく呟く。


 和美ちゃんがいつもよりかなり早く迎えに来てくれた。


 それ自体はいい。


 いや毎朝迎えに来てもらうのも申し訳ないんだけど。


 問題はその後。


『信吉さん、朝ご飯は食べましたか?』


『まだだよ』


『え?』


『ん?』


『まだなんですか?』


『う、うん』


『なにを食べる予定だったんですか?』


『バナナ』


『…………』


 あの時の和美ちゃんの顔は忘れられない。


『バナナ?』


『うん』


『だけ?』


『うん』


『…………』


『…………』


『私が作ります』


『え?』


『私が作ります!』


『いや、でも学校――』


『まだ時間あります!』


『和美ちゃん?』


『キッチン借りますね!』


 なぜかカバンの中からピンク色のエプロンが出てきた。


 なんで持ってるの?


 そう聞こうとした。


『えへへ』


 嬉しそうにエプロンを広げる和美ちゃんを見たら聞けなかった。


 聞いたら負けな気がした。


 そして現在に至る。


「…………」


 俺はソファ。


 和美ちゃんはキッチン。


 俺の朝ご飯を作ってくれている。


 なにこれ?


 新婚?


「っ!」


 いやいやいやいや!


 なに考えてんだ俺!


 違う!


 和美ちゃんが朝ご飯を作ってるだけ!


 それだけだから!


「…………」


 ピンクのエプロン。


 似合ってるな……。


 腰の辺りで結ばれたリボン。


 料理をするたびに揺れるピンク色の髪。


 時々、食器の音が聞こえる。


「ふんふん♪」


 鼻歌。


 楽しそう。


 俺の朝ご飯を作るのって、そんなに楽しいのかな。


 なんか恥ずかしくなってきた。


 俺はテレビをつけて気を紛らわす。


 朝のニュースが流れている。


「…………」


 内容が全然頭に入ってこない。


 後ろが気になる。


 すごく気になる。


 チラッ。


 やっぱり楽しそう。


 視線を戻す。


 また気になる。


 チラッ。


 和美ちゃんが冷蔵庫を開けている。


 戻す。


 俺なにしてるんだろう。


「信吉さん」


「は、はいっ!?」


 思わず声が裏返った。


 キッチンから和美ちゃんがこっちを見ている。


「どうしたんですか?」


「な、なんでもないよ」


「そうですか?」


「うん」


「なら良かったです」


 ニコッ。


 笑った。


「っ……」


 ダメだ。


 朝から破壊力が高い。


「信吉さん、あと少しでできますからね」


「分かった。ありがとう!」


「は〜い!」


 和美ちゃんは元気よく返事をする。


「楽しみにしていてくださいね!」


 パチッ。


 俺に向かってウインクした。


「っ!?」


 ドクン。


 心臓が跳ねる。


 いや待って。


 今のは反則。


「…………」


 俺はゆっくり顔を逸らした。


 テレビ。


 テレビを見よう。


 ニュース。


 ニュースに集中するんだ。


『続いて、今日の天気です――』


「…………」


『西日本では――』


「…………」


 全然入ってこない。


 さっきのウインクしか頭に残ってない。


「ふんふん♪」


 本人は何事もなかったみたいに料理へ戻ってるし。


「…………」


 ずるい。


 本当にずるい。


 こっちはこんなにドキドキしてるのに。


 俺はソファの背もたれに体を預けた。


 昨日まで俺の頭の中には和哉のことが残っていた。


 親友だった。


 裏切られた。


 嫌いになった。


 いなくなった。


 いろんな感情がごちゃごちゃになっていた。


「信吉さ〜ん」


「ん?」


「お箸ってここで合ってます?」


「あ、うん。そこだよ」


「ありがとうございます!」


 今はそれどころじゃない。


 俺の家のキッチンでピンク色のエプロンを着た女の子が俺のために朝ご飯を作ってくれている。


 その女の子は俺なんかの朝ご飯を作るだけで、こんなに楽しそうにしてくれている。


「…………」


 俺は少しだけ口元を緩めた。


 昨日のことを忘れたわけじゃない。


 たぶん和哉のことを完全に割り切れる日も、すぐには来ない。


 それでも、こういう朝があるなら、少しくらい前を向いてもいいのかもしれない。


 俺はそんなことを考えながら和美ちゃんの朝ご飯が完成するのを待つのだった。


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