↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仲の良かった親友の計画によって嘘告された俺。その話を聞いた親友の妹がブチギレた  作者: 白金豪


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/33

第22話 珍しく学校を休んだ和哉

「今村は今日は休みだ」


 朝のホームルーム。


 出席確認を終えた担任が思い出したようにそう告げた。


「えっ、和哉が?」


「珍しくね?」


「昨日まで普通に来てたよな?」


 教室のあちこちから驚いた声が上がる。


 特に和哉とよく一緒にいる友人たちは揃って後ろの空席へ顔を向けていた。


「先生、今村って体調不良ですか?」


「家庭の事情としか聞いていない。詳しいことは先生にも分からん」


「マジか。メッセージ送っても返ってこねえんだよな」


「俺も。昨日の夜から既読つかない」


「スマホ壊れたんじゃね?」


「和哉がスマホなしで耐えられるわけないだろ」


「それもそうか」


 周りが騒ぐ中、俺も和哉の席を見る。


「…………」


 机の横にカバンはかかっていない。


 椅子もきれいに机の下へ収まっている。


 本当に休みらしい。


 和哉が学校を休んだところなんて今まで見たことがなかった。


 小学生の頃から多少の熱があっても学校へ来る奴だった。


『家にいても暇だから』


 そんなことを言いながら、いつも通り友達と騒いでいた。


 高校へ入ってからも皆勤だったはずだ。


 昨夜、俺の家へ来た和哉と揉めたけど、その後になにがあったのかまでは知らない。


 和美ちゃんは無事に帰れただろうか。


 帰宅したら連絡してほしいとメッセージを送った。


 少しして『無事に家へ着きました!』と返ってきたから安心はしていた。


 その後に家でなにか起きたのかな。


「連絡は以上だ」


 担任が出席簿を閉じる。


「もうすぐ授業が始まるから準備しておけよ」


 そう言い残し、教室を出ていった。


「…………」


 俺はもう一度、誰も座っていない席へ目を向けた。


 いつもなら朝から誰かと話している。


 たまに俺のところにも来て肩を組んできた。


 少し前までは、それが当たり前だった。


 うるさいと思う日もあったけど嫌ではなかった。


 でも今は。


「休みか……」


 正直に言えば少しだけ安心している。


 和哉が教室にいない。


 それだけで肩の力が抜けていた。


 視線を感じることもない。


 急に話しかけられる心配もない。


 昨日のように和美ちゃんへなにかすることもない。


 こんなふうに思ってしまう自分が少し嫌だった。


 ずっと親友だった奴が休んでいるのに心配より安心の方が大きいなんて。


「…………」


 でも、それだけのことをされたんだ。


 無理に心配する必要もない。


 そう思うことにした。


「信吉さ〜ん!」


「っ!?」


 聞き慣れた声が教室へ響く。


 扉の方を見ると和美ちゃんが立っていた。


 俺と目が合った瞬間らぱっと表情を明るくする。


 そのまま教室へ入り、小走りで俺の席までやってきた。


「おはようございます!」


「おはよう」


「すぐに来ちゃいました!」


「走ってきたの?」


「廊下は走っていませんよ」


「本当?」


「早歩きです」


「ほとんど同じじゃない?」


「全然違います」


 和美ちゃんが胸を張る。


 少し息が弾んでいるから途中まで走っていた気がする。


 でも楽しそうだから追及はしないでおこう。


「信吉さん、私がいない間は大丈夫でしたか?」


「うん。なにもなかったよ」


「変な人に絡まれませんでした?」


「変な人って?」


「最近、信吉さんへ近づいてきた人とか」


 そう言いながら和美ちゃんが教室の前方へ視線を向ける。


 その先には宮下さんの席があった。


 宮下さんは友達と話すこともなく俯いている。


「今日は話しかけられてないよ」


「そうですか。よかったです」


 和美ちゃんが満足そうにうなずいた。


「あっ、そうだ」


「どうしました?」


「今日、和哉は休みみたいだね」


「そうですね」


「朝、先生から家庭の事情って聞いたけど……和美ちゃんはなにか知ってる?」


「さあ、どうでしょう」


「えっ?」


 和美ちゃんが意味深な笑みを浮かべる。


 口元はニコニコしているのに、なにかを隠している顔だった。


「知ってるの?」


「どう思いますか?」


「知ってそう」


「ふふっ」


「なにかあったの?」


「今は秘密です」


「今は?」


「はい。そのうち分かると思いますよ♪」


「余計に気になるんだけど」


「いいことだと思います」


「俺にとって?」


「もちろんです」


 和美ちゃんの笑みがさらに深くなる。


 絶対になにか知っている。


 昨夜、帰宅した後になにかあったんだ。


 和哉は俺の家まで来て和美ちゃんを殴ろうとした。


 それが両親に知られたのかもしれない。


 でも和美ちゃんの機嫌がいいなら悪い結果にはなっていないはずだ。


「ふんふん♪」


 和美ちゃんが鼻歌を歌い始める。


 本当に機嫌がいい。


「和美ちゃん?」


「はい?」


「どこに行くの?」


 和美ちゃんが俺の席から離れていく。


 てっきり近くの椅子へ座るのかと思ったけど向かっている方向が違った。


「少し用事を済ませてきます」


「用事?」


「すぐに戻りますから待っててくださいね」


「う、うん」


 和美ちゃんが向かった先には宮下さんがいる。


 教室にいた何人かも、それに気づいたようだった。


 話し声が少しずつ小さくなる。


「…………」


 宮下さんは、まだ俯いている。


 近づいてくる和美ちゃんに気づいていないらしい。


 和美ちゃんは宮下さんの机の横で足を止めた。


「宮下さん」


「っ!?」


 名前を呼ばれ、宮下さんの肩が跳ねる。


 恐る恐る顔を上げた。


「な、なに?」


「少しだけいいですか?」


「…………」


「信吉さんには聞かれたくない話なので」


 和美ちゃんが腰を曲げ、宮下さんへ顔を近づける。


 手で口元を隠すようにしながら耳元でなにかを囁いた。


「…………」


 ここからでは内容まで聞き取れない。


 すぐに終わると思ったけど和美ちゃんは何度か言葉を続けている。


 宮下さんの表情が少しずつ変わっていった。


 最初は気まずそうに目を逸らしていただけ。


 でも途中から顔から血の気が引いていく。


「えっ……」


 宮下さんが即座に和美ちゃんへ振り返る。


「え、そ、それは本当なの?」


 その声だけは俺の席まで聞こえた。


 和美ちゃんは答えない。


 ただニコニコと笑っている。


「ちょっと待って。私はそこまでされるようなことは――」


「そういうことですから〜」


「ま、待って!」


 和美ちゃんは宮下さんの言葉を最後まで聞かず、こちらへ戻ってくる。


 足取りが軽い。


 なにかをやり遂げたような満面の笑みを浮かべ、小走りで俺の席へ帰ってきた。


「お待たせしました、信吉さん」


「う、うん」


「どうしました?」


「いや……」


 和美ちゃんの後ろへ目を向ける。


 宮下さんは顔を青ざめさせたまま机の上に置いていた手を強く握っていた。


 さっきまで俯いていたのに、今は和美ちゃんの背中をじっと見つめている。


「なにを話したの?」


 気になって尋ねる。


「大したことじゃないですよ」


「でも宮下さんの顔色が変わってたけど」


「少し困らせることを言っただけです」


「困らせること?」


「はい」


「どんなこと?」


「秘密です」


「また秘密?」


「この件は信吉さんには関係のないことですから」


「そ、そっか」


 なにを言ったんだろう。


 宮下さんがあれだけ動揺するようなこと。


 和哉の欠席とも関係があるのかもしれない。


「…………」


 もう一度、宮下さんを見る。


 目が合いそうになった瞬間、宮下さんは慌てて俯いた。


「信吉さん」


「ん?」


「今、誰を見ていますか?」


「み。宮下さんだけど」


「どうしてですか?」


「いや様子が気になって」


「気にしなくていいです」


 和美ちゃんが俺と宮下さんの間へ移動する。


 視界を完全に塞がれた。


「和美ちゃん、見えないよ」


「見えなくしていますから」


「やっぱりわざとなんだ」


「今は私と話しているんです。ほかの女の人を見ないでください」


「そんなこと言われても……」


「私を見てください」


 和美ちゃんが顔を近づける。


 紫色の瞳がまっすぐ俺を見つめていた。


「ち、近いよ」


「これなら私だけ見えますよね?」


「見えるけど」


「では問題ありません」


「あると思うよ」


「ありません」


 和美ちゃんは満足そうに笑い、近くにあった空席の椅子を俺のそばへ引き寄せる。


 そのまま隣へ座った。


「信吉さんは気にしなくていいですから、ほかのことを話しましょう!」


「強引に話題を逸らしたね」


「なんのお話をしますか?」


「俺の質問は無視?」


「今日の放課後について話しましょう」


「放課後?」


「はい。今日も信吉さんの家へ行っていいですよね?」


「それはいいけど」


「やった!」


 和美ちゃんが両手を合わせる。


「昨日は邪魔が入ってしまいましたからね。今日は、その分もゆっくり過ごしたいです」


「確かに大変だったからな」


「それに今日は邪魔する人も来ないと思いますから」


「…………」


 やっぱりなにか知っている。


「和美ちゃん。和哉になにが――」


「信吉さん。今日のお昼は何を食べますか?」


「話題の変え方が強引すぎるよ」


「購買のパンですか?」


「まだ決まってないけど」


「そうですか。なら一緒に食べましょう!」


「決定なんだ」


「はい。決定です」


 なにを聞いても和哉のことには答えてくれそうにない。


 宮下さんへなにを言ったのかも気になる。


 でも。


「信吉さん?」


「なんでもないよ」


「本当ですか?」


「うん。お昼、一緒に食べようか」


「はい!」


 和美ちゃんが満面の笑みを浮かべる。


 その顔を見ていたら、これ以上追及する気もなくなってしまった。


 少なくとも和美ちゃんはいつも通り元気だ。


 俺の教室にも来てくれた。


 それだけで今は十分だった。


 俺は深く追及せず和美ちゃんとの会話を続ける。


 一方、宮下さんは何度も不安そうにこちらを見ていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。