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仲の良かった親友の計画によって嘘告された俺。その話を聞いた親友の妹がブチギレた  作者: 白金豪


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第21話 折檻

(今村和美視点)


「それで和美。なにがあったんだ?」


 パパが私を背中へ隠しながら尋ねてくる。


「お、おい、親父。これは違うんだって」


「お前には聞いていない」


「…………っ」


 あれの顔が引きつった。


 さっきまで私の前で見せていた意地悪な笑みは、もう跡形も残っていない。


 腕を体の前で落ち着きなく動かしている。


 どうやって言い逃れしようか必死に考えているんだろう。


「和美、大丈夫?」


 ママも私のそばへ駆け寄ってくる。


 肩へ優しく手を置かれた途端、張り詰めていた体から少しだけ力が抜けた。


「うん。パパとママが来てくれたから」


「和哉になにかされたの?」


「私がリビングへ行けないように、ずっと目の前を塞いでた」


「塞いでいた?」


 パパの声が低くなる。


「なにのために?」


「今日、自分がしたことをパパとママに言わせないため」


「ち、違う!」


 あれが慌てて口を挟んでくる。


「俺はただ和美と話をしようとしただけだ!」


「話?」


「ああ! 兄妹なんだから、ちゃんと話し合うべきだろ? それなのに、こいつがいきなり大声を出して――」


「ウソつき!」


「ウソじゃねえ!」


「じゃあ、どうして通してくれなかったの?」


「それは……」


「パパとママに言わないって約束したら通すって言ったよね?」


「お前が俺の話を聞かないからだろ!」


「和哉」


 パパの声がさらに低くなった。


「今の話は本当か?」


「い、いや、その……」


「和美が私たちのところへ来ないよう、力づくで行く手を塞いだのかと聞いている」


「力づくってほどじゃねえよ。ただ前に立ってただけだ」


「どいてって何度も言ったのに、どいてくれなかった!」


「お前が余計なことを言おうとするからだろ!」


 あれが怒鳴る。


 ママが私の肩を抱き、自分の体へ引き寄せてくれた。


「和哉! 大きな声を出さないで!」


「だ、だって、母さん! 和美は都合のいいことしか話してねえんだよ!」


「都合のいいこと?」


「そうだよ! こいつは俺を悪者にしようとしてるんだ!」


「なら聞きましょう」


 ママが冷たい目をあれへ向ける。


「今日あなたは信吉君の家へ行ったの?」


「…………」


「答えなさい」


「い、行ったけど……」


「なにをしに?」


「ちょっと信吉と話をするためだよ」


「なにを話したの?」


「それは……和美に近づかないようにって……」


「どうして信吉君へそんなことを言う必要があるの?」


「俺の妹だからだよ!」


「私が誰と一緒にいるかは私が決める!」


「お前は黙ってろ!」


「和哉!」


 パパの怒号が玄関へ響く。


 あれがビクッと肩を跳ねさせた。


「和美に向かって、なんという口の利き方だ!」


「だ、だって、こいつが……」


「それだけじゃない!」


 私はママの腕へしがみつきながら、あれを睨む。


 怖い。


 今も少し体が震えている。


 でも、ここにはパパとママがいる。


 信吉さんだって言ってくれた。


 私は弱くない。


「この人、信吉さんを脅したの!」


「脅した?」


「言うことを聞かないと学校でどうなるか分かってるよなって」


「それは脅しじゃねえ! ちょっと忠告しただけだ!」


「同じでしょう!」


 ママの表情が険しくなる。


「信吉君は、あなたのことを親友だと思っていたのよ?」


「…………」


「その親友へ嘘告を仕掛けて傷つけたうえに、今度は学校でなにかすると脅したの?」


「だから脅してねえって!」


「それから……」


 言葉が喉につかえる。


 あれの右手が目に入った瞬間、また信吉さんの家での出来事が浮かんだ。


 私へ振り下ろされようとした拳。


 信吉さんが止めてくれなかったら。


「和美?」


 ママが心配そうに顔を覗き込んでくる。


「大丈夫。ゆっくりでいいから」


「……この人、私を殴ろうとしたの」


「なっ!?」


 パパが目を見開く。


「和哉、お前……」


「違う! 殴ってねえよ!」


「殴ろうとした! 信吉さんが拳を掴んで止めてくれたから当たらなかっただけ!」


「結果的に殴ってないんだからいいだろ!」


「いいわけないでしょう!」


 ママが怒鳴った。


 普段はほとんど大声を出さないママが。


 あれは驚いたように目を見開き、後ろへ一歩下がった。


「和美はあなたの妹なのよ!?」


「わ、分かってるよ」


「なにがあっても守らないといけない妹へ本気で拳を振り上げたの!?」


「ほ、本気じゃねえって。ちょっと脅かそうとしただけで――」


「お前……」


 パパが握り拳を作る。


「和美を殴ろうとしたのか?」


「ち、違う! 今のは言葉のあやで……」


「私がなんて言ったか覚えているな?」


「…………」


「和美へ近づくな。声を掛けるな。絶対に触れるな。もし約束を破ったら許さない。そう言ったよな?」


「で、でも……」


「お前は次の日に約束を破った」


「は、話くらいいいだろ!」


「信吉君の家まで押しかけたうえ、和美へ拳を振り上げた」


「だ、だから当たってねえって!」


「今も和美が助けを求めるまで、ここで行く手を塞いでいた」


「それは親父たちに余計なことを言わせないためで――」


「十分だ」


 パパが短く言う。


 その瞬間。


 玄関の空気が変わった。


 さっきまで必死に言い訳を続けていたあれも、流石になにかを感じたらしい。


「お、親父?」


 パパがゆっくりとあれへ近づいていく。


 あれも同じだけ後ろへ下がった。


「和哉〜! 貴様〜〜!」


「ひっ!?」


 パパが勢いよく詰め寄る。


「ちょ、ちょっと待――」


 ブンッ!


 パパは迷うことなく全力で拳を振り抜いた。


「ふごっ!?」


 拳が、あれの顔へ直撃する。


 あれの体が床から浮いた。


 クルクル。


 まるで漫画みたいにクルクルと宙を舞う。


「ガハッ!?」


 そのまま背中から玄関の床へ落下した。


 ドゴンッ!


 鈍い音が家中へ響く。


「いってぇ! ぐあっ!?」


 あれは強打した背中を両手で押さえ、床の上をゴロゴロと転がった。


「背中! 背中が割れる!」


「背骨はそんな簡単に割れないわよ」


 ママが冷たく言い放つ。


「全く。和美を怖がらせやがって」


 パパは床に倒れているあれを見下ろす。


 心配する素振りすら見せない。


 それどころか、また起き上がってきたら殴りかかりそうな雰囲気だった。


「約束を破るから、こうなるんだぞ」


「……」


 あれから返事はない。未だに背中を押さえて顔を歪める。


「和哉」


 パパが声を掛ける。


「お前の更生について今まで以上に真剣に考えることにした」


「こ、更生?」


 ようやく、あれからの返答。


「ああ。この家に置いておいても、和美へ迷惑をかけるだけだからな」


「ちょ、ちょっと待て。なんの話だよ?」


 あれは言葉を返すだけで精一杯な様子だ。


「お前の更生のために私の知り合いへ預けようと思う」


「は、はぁ?」


「長期で行って修行してこい。もちろん学校は退学させる。高校は義務教育ではないからな。問題ないだろう」


 パパはそれだけ言い残すと、両手をパンパンと叩いた。


 まるで汚れでも払うみたいに。


 そのまま床の上で動けないあれへ背中を向け、リビングへ戻っていく。


「私も異論はありませんから」


 ママも冷たく言い放つ。


「和美、行きましょ!」


「うん!」


 ママが私の手を握る。


 私はその手を握り返し、一緒にリビングへ向かった。


「お、おい! ちょっと待ってくれよ!」


 後ろから情けない声が聞こえる。


 誰も振り返らない。


「せめて起こしてくれ! 背中が痛くて立てねえんだよ!」


「…………」


「母さん! 和美! 親父〜!」


 あれは家族の誰からも心配されず、玄関で痛みに苦しんでいる。


 自業自得。


 人を傷つけて笑って。


 信吉さんを脅して。


 私まで怖がらせた。


 こうなったのは全部あれ自身のせい。


「…………」


 それにしても。


 これで、あれが学校から消えるのか〜。


 いいじゃん!


 すごくいい!


 信吉さんのためにしかならない!


 教室へ行っても、あれに睨まれない。


 休み時間も邪魔されない。


 嘘告のことを思い出す原因だって一つ減る。


 邪魔者が消えれば信吉さんの心も少しは安定すると思う。


 それって最高じゃん!


「和美?」


「なんでもないよ、ママ」


「そう? 少し笑っているように見えたけど」


「これでもう怖い思いをしなくていいと思ったら安心しただけ」


「そうね。もう大丈夫よ。安心しなさい」


「うん!」


 私は満足しながら玄関とリビングをつなぐ扉へ手をかける。


「待って! せめて湿布を持ってきてくれ〜!」


「…………」


 最後までうるさい。


 私はあれの声を遮るように扉を閉めるのだった。


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