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仲の良かった親友の計画によって嘘告された俺。その話を聞いた親友の妹がブチギレた  作者: 白金豪


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第18話 和哉の訪問

 ピーンポーン。


 突然インターフォンの音がリビングに響いた。


「…………」


「…………」


 俺に膝まくらされる和美ちゃんと目が合う。


 さっきまで気持ちよさそうに目を細めていたのに今はものすごく不満そうだった。


 俺の手は和美ちゃんのピンク色の髪に乗ったまま止まっている。


「誰でしょうね?」


「さあ……」


「出なくてもいいんじゃないですか?」


「いや、そういうわけにはいかないよ」


「でも今は私の頭を撫でている途中ですよ?」


「それは分かってるけど」


 ピーンポーン。


 もう一度鳴った。


 どうやら出るまで待つつもりらしい。


「ごめん。和美ちゃん、行かないと」


「えっ、嫌です」


 和美ちゃんが悲しそうな表情を浮かべる。


 それだけじゃない。


 俺が立ち上がれないようにするつもりなのか、両手で俺の腰へ抱きついてきた。


「ちょ、和美ちゃん?」


「あと少しだけです」


「来客だから」


「居留守を使いましょう」


「明らかに家の中に人がいるって分かると思うよ」


「気のせいです」


「電気もついてるし、さっきまで話し声もしてたから」


「テレビの音です」


「無理があるって」


「むぅ……」


 和美ちゃんが俺の膝へ頬を押しつける。


 本当に離れたくないらしい。


 こんなことをされると俺まで立ち上がりたくなくなってくる。


 だけど、またインターフォンを鳴らされるのも困る。


「ごめん。お願い」


「…………」


「すぐ戻ってくるから」


「絶対ですか?」


「絶対だよ」


「戻ってきたら続きをしてくれますか?」


「分かった。するから」


「頭も撫でてくれますか?」


「撫でるよ」


「手も握ってくれますか?」


「注文が増えてない?」


「待たされる分の追加です」


「まだ待たせてもいないんだけど」


「先払いです」


「はいはい。分かったよ」


「……仕方ありませんね」


 和美ちゃんは名残惜しそうに俺の腰から手を離した。


 俺の膝からゆっくり頭を上げ、ソファへ座り直す。


 それでも俺の服の裾は掴んだままだった。


「和美ちゃん?」


「…………」


「これだと行けないよ」


「分かっています」


 そう言いながらも離してくれない。


 数秒経ってから、ようやく指が離れた。


「ちょっと待っててね」


「は〜〜い」


 ものすごく不満そうな返事を背中で聞きながら俺はリビングを出た。


 誰だろう。


 宅配便でも来る予定があったかな。


 そんなことを考えながら廊下を進み、玄関へ向かう。


「は〜〜い」


 鍵を開け、自宅のドアを開いた。


「…………え?」


 目の前に立っていたのは和哉だった。


 片手をポケットへ突っ込み、苛立ったような顔で俺を見ている。


「よう、信吉」


「あ、ああ……」


 思わず声が詰まった。


 どうして和哉がここにいるんだ。


 前までなら家まで来られても、なんとも思わなかった。


 何度も遊びに来たことがある。


 俺だって和哉の家へ何度も行った。


 でも今は違う。


 こいつが俺を笑いものにした。


 嘘の告白を計画して宮下さんに実行させた。


 そのことを思い出しただけで胸の奥が重くなる。


「な、なにか用?」


「ああ。話がある」


「話?」


「いきなりだが今日から和美に関わるな」


「えっ?」


 一瞬なにを言われたのか分からなかった。


「だから、もう和美に近づくなって言ってんだよ」


「な、なんでだよ」


 俺は理由を尋ねる。


「いいから関わるな」


「そ、それは納得できない。理由を言えよ」


「お前に理由を話す必要なんかねえよ」


 和哉が俺へ一歩近づく。


 反射的に下がりそうになったけど、なんとか踏みとどまった。


「和美は俺の妹だ。兄の俺が関わるなって言ってるんだから、黙って言うことを聞け」


「でも和美ちゃんが誰と関わるかは和美ちゃんが決めることだろ」


「あ?」


 和哉の目つきが変わった。


 怖い。


 正直、今すぐドアを閉めたい。


 和哉と喧嘩をしたことなんて一度もない。


 今まで言い合いになったことすら、ほとんどなかった。


「信吉、お前さ。自分の立場、分かってる?」


「立場って……」


「俺の言うことを聞かないと、どうなるか分かってるよな?」


 和哉が声を低くする。


「学校でこれ以上ひどい目に遭いたくないだろ?」


「それって……」


「別に脅してるわけじゃねえよ。ただ、お前のために忠告してやってるだけだ」


 ウソだ。


 どう聞いても脅している。


 また、なにかをするつもりなのか。


 嘘告みたいに、みんなで俺を笑うつもりなのか。


 そう考えた瞬間、手のひらに汗がにじんだ。


「分かったら、もう和美とは――」


「なにをふざけたことを言ってるの?」


「っ!?」


 背後から聞こえてきた声に俺は振り返った。


 廊下に和美ちゃんが立っている。


 さっきまでの甘えた表情はどこにもなかった。


 紫色の瞳が、まっすぐ和哉を睨んでいる。


「か、和美……どうしてここにいるんだよ」


「信吉さんの家にいるから。見て分からない? それに昨日の私のパパとママとの話を聞いてなかったの?」


「お前、帰ったんじゃなかったのか?」


「放課後や休みの日は信吉さんの家で過ごしてもいいって許可をもらったから直帰しない。それだけ」


「はぁ!?」


 和哉が間の抜けた声を上げる。


 和美ちゃんは俺の隣まで来ると、服の袖をぎゅっと掴んだ。


「それより今の話はなに?」


「い、いや、これは……」


「信吉さんに私と関わるなって言ってたよね?」


「それは兄としてだな――」


「ふざけてるの?」


 和美ちゃんの声が低くなる。


「誰と一緒にいるかは私が決める。あれに決めることなんて死んでもして欲しくない」


「あれって呼ぶな!」


「私も嫌なんだけど!」


「か、和美……」


「どうせ信吉さんを脅して無理やり私から遠ざけようとしたんでしょ?本当に最低。卑怯者。自分じゃどうにもできないからって信吉さんを怖がらせるなんて!」


「俺はお前のために――」


「私のため? どこが?」


 和美ちゃんが俺の袖を掴んだまま、さらに前へ出る。


「私、パパとママに言ってたよね? 顔も見たくないし、声も聞きたくないって」


「同じ家に住んでる兄妹なんだから、いつまでもそんなこと言ってられねえだろ!」


「だからって信吉さんの家まで来るって。パパに近づくなって言われたこと、もう忘れたの?」


「うるせえな!」


 和哉の顔が赤くなっていく。


「本当にウザい! クズ! 信吉さんに迷惑をかけるくらいなら消えちゃえ!!」


「お前、いい加減にしろよ!」


 和哉の声のトーンが下がり冷たくなる。


 次の瞬間。


 右手が強く握られた。


 拳が上がる。


 その拳が向かっている先は俺じゃない。


 和美ちゃんだ。


 まずい。


「キャッ!?」


 和美ちゃんが小さく悲鳴を上げ、両目を強く瞑る。


「おい!」


 考えるより先に体が動いた。


 俺は和美ちゃんの前へ出る。


 振り下ろされる直前だった和哉の拳を右手で掴んだ。


「は!?」


 和哉の動きが止まる。


 俺の手の中に和哉の拳がある。


 腕が震えた。


 怖いからなのか、力を入れているからなのか、自分でも分からない。


 だけど絶対に離したくなかった。


「……信吉さん?」


 和美ちゃんが恐る恐る両目を開ける。


 不安そうな声で俺の名前を呟いた。


「なにしてるんだよ、和哉」


「お、お前……」


「やりすぎだ」


「離せよ」


「嫌だね」


「あ?」


「和美ちゃんを傷つけるなら俺が許さない」


 自分でも驚くくらい、はっきり声が出た。


 和哉が信じられないものを見るような目で俺を見ている。


 俺だって信じられない。


 足は震えている。


 逃げたい気持ちも消えていない。


 それでも引くわけにはいかない。


「和美ちゃんは俺が守る」


 ギリッ。


 力の限り掴んでいる拳を握り締める。


「っ!?」


 和哉の顔が僅かに歪んだ。


「い、痛ぇよ。離せ!」


 和哉は抵抗するように叫ぶ。


 俺は和哉を無視して握り続ける。


「ちっ……」


 和哉は空いている手で俺の腕を払う。


 俺は拳から手を離した。


 和哉がすぐに数歩下がる。


「きょ、今日のところは、このくらいで勘弁してやるよ」


「…………」


「じゃ、じゃあな!」


 誰も引き止めていないのに和哉は慌てて背中を向けた。


 そのまま廊下を走り、階段を下りていく。


 何度も足をもつれさせながら、逃げるように去っていった。


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