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仲の良かった親友の計画によって嘘告された俺。その話を聞いた親友の妹がブチギレた  作者: 白金豪


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第12話 股間蹴り

 二時間目終了後の休み時間。


 授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。


「…………」


 俺は席に座ったまま後ろのドアへ視線を向ける。


 和美ちゃんは次の休み時間も来ると言っていた。


 一時間目が終わった時は数分してから教室へ入ってきた。


 教室が別の階にあるんだから移動にはそれくらいかかるはずだ。


 そう思っていたのに。


「えっ?」


 チャイムが鳴り終わってから、まだ二分も経っていない。


 和美ちゃんが前よりも早く俺のクラスの教室に姿を見せた。


 走ってきたのか、少しだけ息を切らしている。


 片手を教室のドアに添えながら、すぐに俺を探し始める。


「和美ちゃん」


 俺が手を上げようとした、その時だった。


「な、なあ。和美、ちょっと話さないか?」


 和哉が素早く席を立ち、和美ちゃんの前に入った。


「…………」


 和美ちゃんの表情が一瞬で消える。


 さっき教室へ入ってきた時は俺を探しながら少し笑っていた。


 それなのに和哉が目の前へ現れた途端、口元から笑みが消えた。


「和美、頼むよ。ちょっとだけでいいから」


「…………」


「朝のこともあるしさ。俺たち、ちゃんと話した方がいいだろ?」


「…………」


 和美ちゃんは、なにも答えない。


 和哉の顔を見ようともしない。


 無視したまま体の向きを変えて和哉の横を通り抜けようとする。


「ま、待てよ!」


 和哉も横へ動き、再び和美ちゃんの前へ立った。


「…………」


「そんな露骨に避けることないだろ? 俺はただ話したいだけなんだよ」


 和美ちゃんが右へ進もうとする。


 和哉も右へ動く。


 今度は左。


 また和哉が左へ動く。


 完全に進路を塞いでいた。


「邪魔」


「やっと話してくれた……」


「どいて」


「話を聞いてくれたら、どくから」


「話すことない」


「俺にはあるんだよ」


「私はないから」


「和美、朝からずっとそんな調子じゃん。俺たち兄妹だろ?」


「…………」


 和美ちゃんの眉が、ぴくっと動く。


 でも、それ以上は何も言わなかった。


 和哉を避けるように大きく横へ動き、俺の方へ向かおうとする。


「だから待てって!」


 和哉が手を伸ばす。


 次の瞬間。


 ぎゅっ。


「っ!?」


 和哉の手が和美ちゃんの左手首を掴んだ。


「離して!」


 和美ちゃんが勢いよく振り返る。


 紫色の瞳で和哉を睨みつけ、掴まれた腕を強引に振り払おうとする。


 だけど和哉は意地でも手を離さなかった。


「俺の話を聞いてくれよ!」


「嫌だ! 今すぐ離して!」


「ほんの少しでいいから!」


「触らないで!」


 和美ちゃんが、もう1度強く腕を引く。


 和哉の指に力が入った。


「痛っ……!」


「和美が逃げるからだろ!」


「離してって言ってるでしょ!」


「っ!? そうはいかねぇぜ。話を聞いてくれるまでは離さないからな」


「最低……!」


 教室中の視線が二人へ集まる。


 さっきまで騒いでいたクラスメイトたちも少しずつ会話をやめていった。


「嫌がってないか?」


「あれ、流石に止めた方がいいんじゃ……」


 そんな声が聞こえてくる。


 和哉は気づいていないのか。


 それとも聞こえないふりをしているのか。


 和美ちゃんの手首を掴んだまま離そうとしなかった。


「朝のことは悪かったって思ってるよ! だけど、いきなりビンタすることないだろ?」


「そんなの知らない!」


「だって和美が話を聞かないから!」


「だから話したくないって言ってるでしょ!」


「俺たちは兄妹なんだぞ! ずっとこのままなんて無理だろ!」


「兄妹だからって、なにしても許されると思わないで!」


 和美ちゃんが腕を引く。


 それでも和哉の手は離れない。


「…………」


 さすがにやばいな。


 兄妹の問題だから。


 そう言って見ているだけで済ませられる状況じゃなかった。


 和美ちゃんは、はっきりと嫌がっている。


 離してほしいと何度も言っている。


 それなのに和哉は力づくで手首を掴み続けていた。


 周囲のクラスメイトたちもヤバいと分かりつつ動こうとしない。


 俺は反射的に席から立ち上がる。


 ガタンッ!


 椅子が後ろへ倒れそうになるほど大きな音を立てた。


「和美ちゃん!」


 助けないと。


 あの手を離させないと。


 俺は机の間を通り和美ちゃんのところへ向かおうとする。


「いい加減に――」


「キモいのよ! クズ!!」


 和美ちゃんの怒鳴り声が、教室中に響き渡った。


 同時に。


 ドゴッ!


「お゛っ!?」


 鈍い音がした。


 和美ちゃんの右足が和哉の股間を勢いよく蹴り上げていた。


「…………」


 和哉の体が固まる。


 目が大きく見開かれ、口が半開きになった。


 手首を掴んでいた指から一気に力が抜ける。


「お……おぉ……」


 和哉の顔から、みるみる血の気が引いていく。


 その場にいた男子たちが一斉に自分の股間を守るような姿勢になった。


「うわっ……」


「あれは痛い……」


「見てるだけで痛くなってきた」


 和哉の膝が、がくがくと震え始める。


「くぅぅ〜〜……」


 股間を両手で押さえながら、ゆっくりと前へ屈んでいく。


「お、お、お……や、やべ〜〜……」


 情けない声を漏らし、そのまま床へ崩れ落ちる。


 両膝を床につき、額が床へ触れそうなほど身体を丸めている。


「い、痛ぇ……おぉ……」


 いつもなら髪型が崩れることを気にする和哉が、今は床へ頬をつけていた。


「だ、大丈夫か!」


「お、おい!」


 友人たちが慌てて和哉へ駆け寄る。


「聞こえるか?」


「しっかりしろ!」


「保健室に行くか?」


「立てる?」


「む、無理……今は無理……」


 和哉は体を丸めたまま、首を横に振った。


「や、やべえ……」


「なにがやばいんだ?」


「……キ……キンタマ……潰れたかも」


「えっ!?」


「ま、マジで!?」


「救急車呼んだ方がいいんじゃないか!?」


「いや、先生だろ! 先に先生呼べ!」


「だ、誰か保健室行ってこい!」


 友人たちが一斉に騒ぎ始める。


 誰かが和哉の肩を揺らそうとして、他の男子に止められていた。


「動かすな! なんか危ないかもしれないだろ!」


「じゃあ、どうすればいいんだよ!」


「俺に聞くなよ!」


「男子なんだから分かるだろ!」


「男子でも分からねえよ!」


 教室の後ろが一気に大騒ぎになる。


 女子たちは気まずそうに顔を逸らしながらも心配そうに様子を見ていた。


「今村君、大丈夫なの?」


「妹さん、思い切り蹴ってたよね……」


「でも、嫌がってたのに手を離さなかったし」


「自業自得じゃない?」


「それはそうだけど……痛そう」


 色々な声が聞こえてくる。


 俺も途中まで近づいたまま、どうすればいいか分からず立ち止まっていた。


「…………」


 助けに入るつもりだった。


 だけど俺が何かをする前に全部終わってしまった。


 和美ちゃんは強い。


 思っていた以上に、ずっと強い。


「…………」


 和美ちゃんが掴まれていた左手首を見る。


 和哉の指の痕が、うっすらと赤く残っていた。


「本当に気持ち悪い……」


 吐き捨てるように呟き、ブレザーの袖で手首を何度も拭う。


 その顔には嫌悪感がはっきりと浮かんでいた。


「和美ちゃん」


 俺が声をかけようとする。


 その瞬間。


 和美ちゃんが教室の中を見回した。


 何かを探すように、あちこちへ視線を動かす。


 やがて俺と目が合った。


「あ!」


 さっきまでの冷たい表情が一瞬で消える。


「信吉さ〜ん♪」


「えっ……」


 和美ちゃんが、ご機嫌な満面の笑みを浮かべて甘い声を出す。


 紫色の瞳が輝き、頬が嬉しそうに緩んでいる。


 声までさっきとは全然違った。


 床で悶絶している和哉には目もくれない。


 心配そうに囲んでいる男子たちも、ざわついているクラスメイトたちも気にしない。


 和美ちゃんは軽い足取りで俺のところへ向かってくる。


「信吉さん!」


 和美ちゃんは俺の目の前まで来る。


「約束どおり来ました!」


「う、うん。来てくれてありがとう」


「今回はもっと早く来られましたよ」


「そうだね」


「少しでも長く信吉さんと一緒にいたかったので!」


「えっ?」


「あっ……」


 和美ちゃんの顔が赤くなる。


「ち、違います! 信吉さんを守る時間を少しでも長くしたかったという意味です!」


「そ、そういうことね」


「はい! そういうことです!」


 和美ちゃんが、誤魔化すように何度も頷く。


 俺の後ろでは和哉がまだ床に崩れ落ちていた。


 友人たちが必死に声をかけている。


 それでも和美ちゃんは一度も振り返らない。


 俺だけを見つめ、嬉しそうに笑っていた。


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