表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/4

第3話 世界最強とお散歩

彩乃とお出かけする悠斗。色んな人の視線を浴びながらとある事件に巻き込まれる!?

第3話スタート!


地下室を出たあとも、俺の頭の中は整理できていなかった。

十五年間。彩乃は、たった一人で俺を待ち続けていた。

「……少し散歩してくる」考えを落ち着かせたくて、そう呟く。

「かしこまりました」メイドが一礼する。玄関を出ると、澄んだ空気が肺に流れ込んだ。

「やっぱり外は気持ち──」

「悠人様」門の前に立っていた騎士が一歩前へ出る。

「護衛をお付けいたします」

「いや、大丈夫です」

「大丈夫ではありません」即答だった。

「彩乃様より『悠人様を絶対に一人にしないように』との命令を受けております」

「いや、本当にその辺を歩くだけだから」

「では、その辺をご案内いたします」

「違うそうじゃない」俺が裏門へ向かうと、そこにも騎士。庭へ向かえば、植え込みの向こうから別の騎士。塀の近くまで行くと、見えない壁に手がぶつかった。

「いてっ!」淡い青色の膜が一瞬だけ浮かび上がる。

「魔法障壁です」騎士が説明する。

「外敵の侵入を防ぐ結界になります」

「……中から出ることは?」

「彩乃様の許可が必要です」

「屋根は?」見上げる。

すると、屋根の上で弓を構えた騎士と目が合った。

軽く会釈された。

「……」

空を見れば、巨大な飛竜が屋敷の周囲を旋回している。

「空まで?」

「はい」

「…………」俺は屋敷全体を見渡した。

高い城壁、何重にも張られた結界、数え切れないほどの騎士、空からの警戒。


これ…要塞じゃね?

「悠人」聞き慣れた声だった。振り返ると、彩乃が微笑みながら歩いてくる。白いワンピースが風に揺れる。

「一緒に散歩しよ?」

「……彩乃」

「なあに?」

「俺、監禁されてる?」彩乃はきょとんと首を傾げた。

「違うよ?」

「じゃあ何?」

「逃げられないようにしてるだけ♡」

「監禁と何が違うんだ!」思わず叫ぶ。

周囲の騎士たちは「また始まった」という顔をしていた。彩乃は少しだけ頬を膨らませる。

「悠人がいなくなったら嫌だから」

「だからってこれは過剰警備だろ!」

「普通だけど?」

「どこの世界の普通だ!」彩乃は不思議そうな顔をしている。どうやら本気で普通だと思っているらしい。

……駄目だ。価値観が違いすぎる。

「じゃあ街へ行こう?」

「街?」

「うん。悠人に見せたいものがいっぱいあるの」断れる空気ではなかった。

結局、俺は彩乃と一緒に街へ向かうことになった。


翌朝、巨大な城門を抜ける。すると、一瞬で周囲の空気が変わった。

「あっ……!」露店の店主が彩乃を見る。

「彩乃様だ!」その一言で、街中がざわついた。

「世界最強様!」

「彩乃様、おはようございます!」

「今日もお美しい!」歩くたびに、人々が自然と道を開けていく。子どもたちは笑顔で手を振り、大人たちは深々と頭を下げる。彩乃は一人ひとりに笑顔で手を振り返していた。

「人気者なんだな」

「みんな優しいから好き」そんな会話をしていると、視線が俺へ集まる。

「隣の男性は?」

「噂の……」

「あの方?」

「彩乃様が十五年間探していた人?」

「えっ、本当に?」ひそひそ。ひそひそ。居心地が悪い…

「めちゃくちゃ見られてるんだけど」

「当然だよ」彩乃は嬉しそうに笑う。

「だって、自慢したかったもん」

「何を!?」

「悠人を♡」

「やめて!」顔が熱くなる。そのときだった。

「彩乃様!」八百屋の店主らしき男性が駆け寄ってきた。

「この前は娘を助けていただき、本当にありがとうございました!」

「元気になった?」

「はい! 今では毎日走り回っています!」店主は涙ぐみながら頭を下げる。彩乃は優しく笑った。

「それならよかった」店主は今度は俺を見る。

「あなたが悠人様ですか!」

「え、はい」

「ありがとうございます!」

「……え?」

「彩乃様が笑ってくださるようになったのは、あなたのおかげです」そう言って何度も頭を下げた。

俺は返す言葉が見つからなかった。街を歩けば歩くほど分かる。

この世界で彩乃は、ただ強いだけじゃない。

人々に心から慕われている存在なんだ。


そんなことを考えていると──

ドォォォン!!

地面が大きく揺れた。

悲鳴が上がる。

「魔物だー!!」街の入口から、巨大な黒い影が現れた。

四本足、真っ黒な外殻、赤く光る目。

高さは三階建ての家ほどもある。騎士たちの顔色が変わる。

「災厄級……!」

「総員戦闘!」


街が一瞬で戦場へと変わった。

巨大な魔物は、地面を揺らしながら街へ踏み込んできた。

「グオオオオオオオッ!!」咆哮だけで窓ガラスが震える。

「あ、あれは……!」

災厄級ベルガルドだ!」

「なんで王都に!?」人々は悲鳴を上げ、一斉に逃げ始める。

騎士団長が剣を抜いた。

「第一部隊、住民の避難! 第二部隊、迎撃準備!」

「「はっ!」」何十人もの騎士が一斉に動く。

しかし、その表情に余裕はなかった。

「団長……勝てますか?」若い騎士が震えた声で尋ねる。

「……時間を稼ぐ」その一言で十分だった。

勝てない。そう判断しているのだ。俺は思わず彩乃を見る。

「彩乃、逃げよう!」しかし、彼女は微動だにしない。

ただ静かに魔物を見つめていた。

「大丈夫」

「いや、大丈夫じゃ──」

「悠人」彩乃は優しく笑う。

「少しだけ待っててね」そう言うと、俺の前から一歩だけ前へ出た。それだけだった。

「……え?」剣も抜かない、杖も持たない、詠唱もしない。ベルガルドが彩乃を見つけ、巨大な腕を振り下ろす。

「危ない!!」誰もがそう叫んだ。次の瞬間。

彩乃が右手を軽く上げる。

「止まって」たった、その一言。

ズドォォォン!!振り下ろされた腕が、彩乃の目の前でぴたりと止まった。まるで見えない壁にぶつかったようだった。

「なっ……」騎士団長が目を見開く。

ベルガルドは怒り狂ったように暴れる。だが、一歩も動けない。彩乃は困ったように小さくため息をついた。

「暴れたら危ないよ」ぱちん。指を鳴らす。

その瞬間だった。

ズォンッ──

音すら遅れて聞こえた。

巨大なベルガルドの身体が、光の粒となって空へ溶けていく。悲鳴もない、断末魔もない。

ただ、一瞬。

数秒前までそこにいた災厄級の魔物は、跡形もなく消えていた。


静寂。誰も言葉を発しない。風だけが街を吹き抜ける。やがて、一人の子どもがぽつりと呟いた。

「……終わった?」その言葉をきっかけに、街中が歓声に包まれる。

「彩乃様ー!!」

「さすが世界最強様!」

「助かった!」

「ありがとうございます!」子どもたちが駆け寄り、大人たちも何度も頭を下げる。

彩乃は照れくさそうに笑いながら、一人ひとりに手を振っていた。

「怪我した人はいない?」その一言に、騎士たちはすぐ動き出す。

「負傷者確認!」

「建物の被害を調査!」

「はい!」俺だけが、その場に立ち尽くしていた。

「……彩乃」

「ん?」

「今、何した?」

「魔法だけど?」

「いやいやいや!」思わず両肩を掴む。

「魔法であんなことできるの!?」

「できるよ?」

「普通!?」

「うん」

「絶対普通じゃない!」俺が叫ぶと、近くにいた騎士団長が苦笑した。

「悠人様」

「は、はい」

「今ご覧になったのは、彩乃様だから可能なのです」

「え?」

「世界中を探しても、あの魔法を使える者は彩乃様しかおりません」周囲の騎士たちも大きく頷く。

「十年前、魔王も同じように消されました」

「竜王も」

「災厄級が現れても、彩乃様がおられれば安心です」俺は彩乃を見る。本人だけが、首をかしげていた。

「そんなに珍しい?」

「珍しいとかじゃなくて!」

「化け物だよ!」その瞬間一

街の空気が凍った。騎士たちの顔色が真っ青になる。

「あ……」しまった。勢いで言ってしまった。

恐る恐る彩乃を見る。彼女は少しだけ頬を膨らませていた。

「悠人」

「ご、ごめん」

「ひどい」

「いや、その……」

「化け物じゃなくて……女の子」ぷいっと横を向く。

怒っている……のか?その姿を見た騎士たちがざわつく。

「彩乃様が拗ねた……」

「貴重だ……」

「世界最強様にもあんな表情が……」周囲はなぜか感動していた。俺は慌てて頭を下げる。

「悪かった! 本当に!」彩乃は数秒黙っていたが、やがてくすっと笑う。

「許す♡」そう言って俺の腕に抱きついた。

「でも、お詫び」

「え?」

「今日はずっと手を繋ぐこと♡」

「なんでそうなる!」

「嫌?」

「いや……」街中の視線が一斉に集まる。

「…………」断れる空気じゃない。

「……分かったよ」俺が手を差し出すと、彩乃はぱあっと花が咲くような笑顔になった。

「えへへ♡」その笑顔を見た街の人たちは、また優しく笑い始める。誰かが小さく呟いた。

「やっと……彩乃様が、本当に幸せそうに笑ってる」その言葉は、歓声に紛れて彩乃には届かなかった。

けれど俺の耳には、はっきりと残っていた。


街での買い物を終え、屋敷へ戻る頃には夕日が街並みを赤く染めていた。

「今日は楽しかったね♡」彩乃は俺と繋いだ手を嬉しそうに揺らしている。

「……まあ、色々ありすぎたけどな」

「また行こう?」

「今度は魔物が出ない日に頼む」

「ふふっ」彩乃が笑った、その時だった。

「彩乃様」低い声が背後から響く。振り向くと、全身を黒いローブで包んだ男が道の真ん中に立っていた。

顔は銀色の仮面で隠され、年齢も表情も分からない。

それなのに、周囲の空気だけが重くなる。

騎士たちは一斉に剣を抜いた。

「何者だ!」

「悠人様の前から下がれ!」男は騎士たちを一瞥することもなく、真っ直ぐ彩乃だけを見つめる。

「久しぶりだな」彩乃の笑顔が消えた。

「……何しに来たの」初めて見る表情だった。冷たく、感情を押し殺した声。俺は思わず息を呑む。

「ただ挨拶に来ただけだ」男は静かに笑う。

「そして、その少年を見に」

「悠人には関係ない」

「本当に?」男の視線が俺へ向く。ぞくり、と背筋が震えた。まるで心の中まで見透かされているようだった。

「君が悠人か」

「……あんた誰だ?」

「ただの昔馴染みさ」男は肩をすくめる。

「もっとも、彩乃は私を嫌っているようだが」

「当たり前」彩乃が一歩前へ出る。

「帰って」

「相変わらず冷たい」男は苦笑した。

「だが、いつまで隠し続ける?」

「…………」

「君はまだ、この少年に話していない」

「やめて」彩乃の声が少しだけ震えた。

「世界を救うために、何を失ったのかを」

「え?」思わず彩乃を見る。

何を失った?彩乃は目を伏せたまま何も答えない。

男は俺へ視線を戻す。

「悠人」

「……」

「彼女は英雄だ」

「それは知ってる」

「違う」男は首を横に振る。

「英雄とは、代償を払う者だ」静寂が流れる。

「君は知らない」

「十五年間、彼女が何を捨ててきたのか」

「もういい」彩乃の魔力がゆっくりと溢れ始める。

空気が震えた。

街灯が揺れる。周囲の騎士たちは慌てて距離を取る。

「彩乃様……!」

「本気ですか……!」男はため息をついた。

「やれやれ」

「まだ話す時ではないか」

そう言うと、足元に黒い魔法陣が浮かび上がる。

「待て!」俺が叫ぶより早く、男の姿は闇に溶けるように消えた。残ったのは静寂だけ。しばらく誰も口を開かなかった。

やがて彩乃が深呼吸をして、無理やり笑顔を作る。

「帰ろっか♡」いつもの声だった。

でも、その笑顔は少しだけぎこちなかった。屋敷へ戻る道中。

俺は何度も話しかけようとした。

「彩乃」

「ん?」

「さっきの奴……」

「知らなくていいよ」笑っている。だけど、その笑顔はどこか寂しかった。

「全部、そのうち話すから」

「……本当に?」

「うん」彩乃は俺の手を少し強く握る。

「もう少しだけ、待って」

その一言以上、俺は聞くことができなかった。


その夜。眠れなかった俺は、部屋を出て廊下を歩いていた。

屋敷は静まり返っている。

窓から月明かりが差し込み、長い廊下を青白く照らしていた。

「……水でも飲もうかな」そう思って階段を下りようとした時。

コツン。

何かが足に当たった。

「ん?」足元を見る。白い封筒だった。

誰かが落としたのかと思い拾い上げる。

表には、丁寧な文字でこう書かれていた。

『悠人様へ』封を開ける。中には一枚の紙。そこには短く書かれていた。


明日の夜、零時。中庭へ一人で来てください。

彩乃様には、決して知られないように。

あなたが知るべき真実があります。


送り主の名前はない。俺は紙を見つめたまま動けなかった。

「……誰なんだ?」

窓の外では、月だけが静かに輝いていた。


彩乃強いですね。これは騎士団長さんの出番なし。そして現れた謎の人物。彩乃が15年間捨ててきたものとは…?

第4話お楽しみに!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ