第2話 過保護すぎる幼馴染
主人公である悠斗は様々な場所を彩乃に案内される。
そしてある場所を見つけた悠斗は一
第2話スタート!!
「……逃がさないよ♡」優しく微笑む彩乃を前に、俺は一歩も動けなかった。屋敷の外では騎士たちが庭を囲み、月明かりに照らされた鎧が静かに光っている。窓から飛び降りても、その先で捕まる未来しか見えない。
「彩乃……」
「どうしたの?」
「どうしたのじゃないだろ!俺、ただ散歩しようと──」
「嘘」即答だった。彩乃は俺の目を真っすぐ見つめる。
「悠人は昔から、嘘をつくと目が泳ぐ」
「……」図星だった。
「逃げようとしてた」
「……」否定できない。すると彩乃は怒るどころか、小さく息を吐き、そっと俺を抱き締めた。
「よかった……」
「え?」
「間に合って」震えていた。抱き締める腕も、声も。
「またいなくなるかと思った……」その言葉に胸が引っ掛かる。
「また……?」彩乃は一瞬だけ目を伏せた。
「……ううん」
「彩乃?」
「今日は休もう?」話を逸らすように笑う。
「明日、全部話すから」そう言って俺の額を軽く撫でると、彩乃は部屋を出ていった。残された俺は、結局一睡もできなかった。
翌朝。
「悠人様、お目覚めのお時間でございます」ノックとともに扉が開く。入ってきたのはメイド服を着た女性だった。
「朝食の準備が整っております」
「え、あ……ありがとうございます」ベッドから起き上がると、椅子には新品の服がきれいに畳まれていた。下着まで用意されている。
「サイズもぴったり……」
「彩乃様がお選びになりました」
「全部?」
「はい」少しだけ背筋が寒くなる。いや、幼馴染なんだから身長くらい分かるか。
……そう思うことにした。
着替えを済ませると、そのまま広い食堂へ案内される。長いテーブルには色鮮やかな料理が並び、焼きたてのパンの香りが漂っていた。その中央で彩乃が手を振る。
「おはよう、悠人♡」
「お、おはよう」俺が向かいの席へ座ろうとすると、
「こっち♡」彩乃が自分の隣の椅子を引いた。
「いや、向かいでいいだろ」
「と な り♡」有無を言わせない笑顔だった。
結局、隣へ座る。すると周囲の使用人たちがどこか安心したような表情になる。
「では朝食を」料理が運ばれてくる。一口食べた瞬間、思わず声が漏れた。
「うまっ!」
「よかった」嬉しそうに笑う彩乃。次の瞬間、彼女はパンを小さくちぎると、
「はい、あーん♡」
「いやいやいや!」俺は慌てて後ろへ下がる。
「自分で食べられる!」
「そう…」少し残念そうな彩乃。その瞬間、食堂中がざわついた。
「彩乃様が断られた……!?」
「初めて見た」
「奇跡だ……」
「何その反応!」思わずツッコミを入れると、彩乃がくすっと笑った。
「悠人は昔と変わらないね」その笑顔だけは、昔のままだった。
食後。庭園を歩きながら、俺はずっと気になっていたことを尋ねた。
「なあ」
「うん?」
「昨日言ってたよな」
「私が世界最強って?」
「……本当なのか?」彩乃は少しだけ空を見上げた。
「本当」
「どうやって?」
「努力した」
「いや、それだけじゃ分からない」しばらく沈黙が流れる。やがて彩乃は静かに話し始めた。
「悠人」
「事故の日、覚えてる?」
「あぁ…」
「私は、あの日……悠人より先に死んだの」
「……え?」予想もしなかった言葉だった。
「あなたと別れたあと、私は別の事故に巻き込まれた」頭が真っ白になる。
「目が覚めたら、この世界だった」
「じゃあ……」
「十五年前」十五年。その数字の重さに息を呑む。
「最初は弱かったよ」彩乃は苦笑する。
「魔物から逃げ回って、毎日泣いてた」
「彩乃が……?」
「でも、生きなきゃって思った」剣を覚えた。魔法を覚えた。何度も倒れた。何度も傷ついた。
仲間を失い、魔王軍と戦い、竜を討ち、世界を救った。その積み重ねの果てに、誰も敵わない存在になった。
「そこまでして……」
「悠人に会いたかったから」迷いのない答えだった。「神様が言ったの」
『大切な人が、あなたを待っています』
「だから信じた」
「いつか絶対に来るって」
「十五年間、毎日街へ出て探した」俺は言葉を失う。
十五年。それは、俺にとって一瞬だった時間。
でも彩乃は、その長い年月を一人で生き抜いてきたのだ。
「だから昨日……」
「見つけた瞬間、本当に嬉しかった」彩乃は少しだけ涙ぐみながら笑った。
「夢じゃなかった」胸の奥が少し痛む。
その後、彩乃は屋敷を案内してくれた。広すぎる庭園。何千冊も本が並ぶ図書館。訓練場。温室。
厨房だけでも俺の家くらいありそうだ。
歩いていると、一人の騎士が駆け寄ってきた。
「彩乃様」
「どうしたの?」
「本日は各国首脳との会議がございます」
「あ」彩乃は俺を見た。
「忘れてた」
「……延期で」騎士の表情が固まる。
「し、しかし各国の王がお待ちで──」
「延期」
「……承知いたしました」深く頭を下げて去っていく。俺は思わず叫んだ。
「俺のせい!?」
「うん」
「うんじゃない!」
「悠人のほうが大事」
「いやいやいや!」
「世界より」
「比較対象がおかしい!」彩乃は首をかしげる。
「私には普通だけど」普通じゃない。絶対に。
午後。街へ買い物に出ることになった。彩乃が隣を歩くだけで、人々が道を開けていく。
「あれが世界最強様……」
「隣の男は?」
「恋人?」
「婚約者か?」ひそひそ声が聞こえる。
「違う違う!」慌てて否定する俺。
そのとき、一人の青年貴族が馬から降りてきた。
「彩乃様!」金髪の整った青年だった。
「本日こそ、私との婚約を──」
「ごめんなさい」彩乃は笑顔で遮る。
「興味ない」
「なっ……!」青年は俺を睨んだ。
「では、その男は何なのです!」彩乃は迷わなかった。俺の手を握る。
「私の一番大切な人」街が静まり返る。青年も、兵士も、商人も、誰一人として言葉を発しない。俺だけが固まっていた。
「彩乃、それ誤解を──」
「誤解じゃないよ」にこっと笑う。
その笑顔を見て、周囲の人々は「ああ、本気なんだ」と悟ったような表情になった。
帰宅後。地下へ続く階段は、屋敷の豪華さとは対照的に静かだった。
石造りの壁に等間隔で魔法灯が灯り、薄く青白い光が足元を照らしている。
「地下なんてあったんだ……」
案内役のメイドは慌てた様子で一歩前に出る。
「ゆ、悠人様。こちらは彩乃様の私室に近い場所ですので……」
「見るとまずいのか?」
「い、いえ、その……」歯切れが悪い。その反応が逆に気になってしまう。
「ちょっとだけ見てみるよ」
「あっ、悠人様!」
制止する声を背に、俺は扉へ手を掛けた。重厚な扉は、意外なほどあっさりと開いた。
「……え?」部屋へ足を踏み入れた瞬間、言葉を失った。壁一面に飾られていたのは、数え切れないほどの絵画。そのどれにも描かれているのは、一人の少年。
「……俺?」
制服姿で笑っている俺。
ランドセルを背負った俺。
夏祭りでりんご飴を食べる俺。
運動会で転んで笑われている俺。
海ではしゃぐ俺。
文化祭で友達と写真を撮る俺。
どれも覚えのある景色だった。
「なんで……」さらに奥へ進む。
今度は写真だった。魔法で映し出されたような鮮明な一枚一枚。
小学生の頃。
中学生の頃。
高校へ入学した日。俺が知らないはずの写真まである。
「これ……どうやって撮ったんだ?」写真の横には小さな日付と一言。
『初めて眼鏡を掛けた日。少し照れていた。』
『体育祭。リレーで一位。すごく嬉しそう。』
『今日は寝不足みたい。ちゃんと寝てね。』思わず息を呑む。部屋の中央には大きな本棚。一冊を手に取る。表紙には丁寧な字で書かれていた。
『悠人成長記録 一冊目』恐る恐る開く。
『五歳。ピーマンが苦手。ハンバーグなら食べられる。』
『七歳。虫は平気。でも注射は苦手。』
『十歳。ゲームで負けると少しだけ拗ねる。』
『十二歳。宿題は最後の日まで残すタイプ。』
『十五歳。最近ブラックコーヒーを飲めるようになって嬉しそうだった。』
「……なんだ、これ」本棚には同じ装丁の本が何十冊も並んでいた。隣には別の棚。
『好きだったお菓子』
『好きな色』
『好きな漫画』
『好きなゲーム』
『好きな飲み物』
『誕生日一覧』
『家族構成』
『将来の夢』
『よく見る夢』俺に関する情報ばかりだった。
しかも、一つひとつが驚くほど細かい。
「…………」背筋を冷たいものが走る。その時だった。
「見つかっちゃった♡」後ろから聞き慣れた声がした。振り返ると、彩乃が少し照れくさそうに立っていた。
「彩乃……」
「入っちゃったんだ♡」怒っている様子はない。
むしろ、秘密の日記を見られてしまった少女のように頬をかいている。俺はゆっくりと部屋を見回した。
「これ……全部、お前が?」
「うん♡」あまりにもあっさりした返事だった。
「この写真も?」
「神様にお願いしたの」
「お願い?」彩乃は一枚の写真を優しく撫でる。
「この世界へ来たばかりの頃、悠人の顔を忘れるのが怖くて…」その横顔は少し寂しそうだった。
「だから、一日だけ会わせてくださいってお願いしたの」
「……」
「神様は会わせてはくれなかったけど、その代わりに悠人の様子だけ見せてくれた」
だから、この写真がある。
だから、この絵がある。
だから、この記録がある。
彩乃は本棚から一冊の日記を取り出す。
「最初はね?」
「顔を忘れないためだけだったの」ページをめくる。
そこには幼い字で書かれた言葉が並んでいた。
『今日も会えなかった。』
『明日は来るかな。』
『まだ待ってる。』
『きっと約束は本当。』ページが進むにつれ、字も大人びていく。
『今年も来なかった。』
『十五歳になったら来ると思った。』
『二十歳かな。』
『何年でも待つ。』
『私は諦めない。』最後のページ。そこには今日の日付が書かれていた。
『やっと見つけた。』
『もう絶対に離さない。』俺はゆっくりと本を閉じた。
「……これ、全部」彩乃は少し恥ずかしそうに笑う。
「十五年分♡」その笑顔は昔と何も変わらない。
だけど、その「十五年」という言葉だけが、途方もなく重く胸に響いていた。
地下室を出て、
悠人「少し散歩してくる」玄関へ。
門番「護衛が付きます」
裏門。
騎士「こちらへ」
塀、結界、屋根、魔法障壁。
屋敷全体が一
要塞だった。
そこへ彩乃。
「一緒に散歩しよ?」笑顔。
悠人(これ監禁じゃなくて”逃げられない環境”じゃねぇか……)
地下室には悠斗コレクションがいっぱいあります。異世界とはいえ、神様がお願い聞いてくれたお陰で彩乃は今報われている。…だが世界最強という肩書きは窮屈なものだと思いませんか?第3話お楽しみに!!!!




