第1話 世界最強の幼馴染
珍しく異世界ものに手を出しました。幼馴染が登場するのはいつも通りです。この作品、主人公は別に強いわけじゃない。強いのは幼馴染。しかしその幼馴染何か変…?
感想等送って頂けるとありがたいです!それでは第1話スタート!
悠人が目を覚ます。見知らぬ豪華な部屋。
手首には魔法の拘束具。部屋の扉は開かない。そこへ一人の少女が入ってくる。
「おはよ♡」幼馴染の彩乃だった。
悠人「なんで俺を閉じ込めるんだよ!」幼馴染は微笑むだけ。
彩乃「逃がさないから♡」なんでこんなことになったのか…そう考えながらあの日のことを思い出す。
頬に触れる風が心地よかった。見上げれば、どこまでも青い空。雲ひとつない晴天だった。
「……生きてる?」俺――神崎悠人は、草原のど真ん中でゆっくりと体を起こした。最後の記憶は、学校帰りだった。幼馴染と別れ、横断歩道を渡ろうとして――眩しいライトが視界を埋め尽くした。
そして、目を開けたら、この場所だ。
「ここ……どこだ?」辺りを見回す。
草原の向こうには巨大な城壁が見える。空には見たこともない鳥が飛び、遠くの山頂には、まるでファンタジー作品に出てくるような白い城が建っていた。どう考えても日本じゃない。
「まさか……異世界?」思わず口に出した瞬間だった。
『その通りです』頭の中に直接、女性の声が響く。
「うおっ!?」
『あなたは命を落としました。そして、新たな世界へ転生しました』
やっぱりか…漫画やラノベで散々読んできた展開だ。
まさか自分が体験する日が来るとは。
『この世界では自由に生きてください』
「能力とか、チートとかは?」
『ありません』
「え?」
『努力してください』
「えぇ!?」思わず叫んだ。いや、普通あるだろ!剣聖とか魔法とか、鑑定とか!
『ですが、あなたには一つだけ幸運があります』
「おっ!」
『大切な人が、あなたを待っています』
「大切な人?」
『それでは、良い人生を』そこで声は途切れた。
「……終わり?」あまりにも雑だ。神様ってもっと説明してくれるものじゃないのか。
「まあ、考えても仕方ないか…」俺は立ち上がり、城壁の見える街へ向かって歩き始めた。
異世界生活。チートはない。でも、平和に暮らせればそれでいい。冒険者になって、ほどほどに稼いで、美味い飯を食べて。そんなスローライフも悪くない。
――この時の俺は、まだ知らなかった。その考えが、街に入って五分で粉々になることを。
「……でっか」石造りの巨大な門をくぐると、そこには活気あふれる街並みが広がっていた。鎧姿の兵士。ローブを着た魔法使い。屋台から漂う香ばしい肉の匂い。完全に異世界だ。
「すげぇ……」少し興奮しながら歩いていると、周囲が急にざわつき始めた。
「おい……!」
「あのお方だ!」
「世界最強様がお通りになるぞ!」世界最強?
なんだその中二病みたいな二つ名。人混みが左右に割れていく。まるで王様でも来るかのように。俺も何となく端へ寄った。
そして、ゆっくりと、一台の白い馬車が止まる。
扉が開いた。中から現れたのは、一人の少女だった。
腰まで届く艶やかな黒髪。吸い込まれそうな蒼い瞳。
白と青を基調とした軍服のような衣装。
美しい。思わず息を呑むほどに。
……でも
「え……?」どこかで見た顔だった。
少女もこちらを見る。目が合った、その瞬間、彼女の表情が凍り付いた。
次の瞬間には、信じられないほど嬉しそうに笑っていた。
「……見つけた」その一言と同時に、少女は全力でこちらへ駆け出した。
「ちょ、え?」一直線。周囲の兵士も貴族も誰も止めない。
そして、ドンッ!
「うわっ!?」勢いよく抱きつかれ、そのまま俺は地面へ倒れ込んだ。少女は俺を強く抱き締める。震える声で、何度も何度も同じ言葉を繰り返した。
「やっと……」
「やっと会えた……」
「……悠人」その名前を呼ぶ声で、俺の記憶が一気によみがえる。
「……ま、まさか」少女は涙を浮かべながら微笑んだ。
「久しぶり」
「……彩乃?」その名前を口にした瞬間、少女はぱっと花が咲いたように笑った。
「うん!」たった一文字の返事。それだけで、目の前の少女が俺の知っている幼馴染だと確信した。
朝倉彩乃。家が隣同士で、小さい頃からずっと一緒だった女の子。学校でも、休日でも、気づけば隣にいた存在。最後に会ったのは――俺が事故に遭う数分前だ。
「なんで……彩乃がここに?」
「その話は後で」彩乃は俺の両手をぎゅっと握る。
まるで離したら消えてしまうものを掴むように。
「まずは無事でよかった……」
「いや、俺は状況が全然分からないんだけど」
「ふふっ♡」彼女は少し困ったように笑うと、俺の頬にそっと触れた。
「本当に悠人だ」
「……?」
「夢じゃない」その瞳は少し潤んでいた。まるで何年も探し続けた宝物を見つけたような顔だった。その様子に、周囲の人々は息を呑んでいる。
「世界最強様が……笑ってる」
「初めて見たぞ」
「相手はいったい何者なんだ?」ひそひそと囁き合う声が耳に入る。
世界最強様?彩乃が?
「お、おい…さっきから世界最強って聞こえるんだけど……」
「うん」彩乃はあっさり頷いた。
「私、この世界で一番強いよ」
「…………」いやいや…
「冗談だよな?」
「本当」
「証拠は?」その瞬間。近くで待機していた鎧姿の騎士が片膝をついた。
「朝倉彩乃様、本日の会議のお時間です」彩乃は首を横に振る。
「今日は中止」
「し、しかし……各国の王がお待ちに――」
「中止」その一言だけだった。
「……御意」騎士は深く頭を下げた。さらに周囲にいた兵士たちも、一斉に膝をつく。街中の人々までもが頭を下げ始めた。
「えぇぇぇぇ!?」俺だけが取り残されていた。
「彩乃、お前何者なんだよ!」
「あとで全部話す」
「いや今話して!」
「今は悠人と一緒にいたい」そう言うと、彩乃は自然な動作で俺の腕に抱きついた。
「えっ」
「行こ♡」
「いや近い近い近い!」
「嫌?」
「そういう問題じゃなくて!」昔から距離は近いほうだった。でもこれは近すぎる。腕に柔らかい感触が伝わってきて、まともに前を向けない。
周囲からは「おお……」というどよめきまで起きている。
「世界最強様が男と……」
「信じられん……」
「恋人か?」
「殺されるぞ、あいつ」
「その最後の物騒な予想やめてくれ!」
思わずツッコミを入れると、彩乃がくすっと笑った。
「悠人、昔と変わらないね」
「変わったのはお前だよ!」彩乃は少しだけ寂しそうに目を伏せた。
「……そうかな」
「昔はもっと普通だったろ?」
「うん」
「今は?」彼女は俺の目を真っすぐ見つめる。
そして、穏やかな笑顔で答えた。
「悠人以外には興味ない」
「…………」言葉の意味は分かる。
でも、その場の空気が一瞬で凍った。兵士も騎士も、街の人も。全員が信じられないものを見るような目でこちらを見ている。俺だけが事情を知らない。そして、その視線には羨望だけでなく、どこか怯えも混じっていた。
――世界最強が、俺だけを見ている。
「さ、帰ろう」彩乃は当たり前のように俺の手を握った。
「帰るって……どこに?」
「私の家」
「いや、宿とか探したいんだけど」
「必要ないよ」
「でも――」
「私が全部用意するから」有無を言わせない口調だった。そのまま連れて行かれた先は、街の中心にそびえ立つ白亜の城――ではなく、その隣に建てられた巨大な屋敷だった。
門が開く。中には数十人もの使用人が整列していた。
「「「お帰りなさいませ、彩乃様」」」
その全員が、一斉に頭を下げる。
俺は思わず小声で尋ねた。
「……ここ、お前ん家?」
「うん」
「でかすぎない?」
「そう?」本人は本気で不思議そうな顔をしている。
どうやら感覚が麻痺しているらしい。
食堂に案内されると、長いテーブルいっぱいに料理が並んでいた。肉料理、魚料理、見たこともない果物。
高級ホテルのビュッフェでも、ここまで豪華ではないだろう。
「全部食べていいよ」
「いや、こんなに食えるわけないって」
「じゃあ新しく作らせる」
「そういう意味じゃない!」彩乃は少し首をかしげる。
「悠人、前より遠慮するようになった?」
「普通は遠慮するんだよ!」その言葉に、彼女は少しだけ寂しそうに笑った。
「……そうだよね」その表情を見た瞬間、胸が少し痛んだ。彩乃は昔から、俺の何気ない一言で落ち込むことがあった。
でも今は違う。彼女は世界最強。
そんな人物が、俺の一言で表情を曇らせている。
妙な違和感が胸に残った。
夕食後、使用人に案内された部屋は、一人で住むには広すぎるほどだった。大きなベッド。暖炉。本棚。専用の浴室まである。
「今日からここが悠人の部屋」
「今日から?」
「うん」
「……俺、いつまでここにいる予定なの?」彩乃は少しだけ考え込むような仕草をした。
「ずっと」
「……え?」
「ずっと一緒♡」冗談を言っているようには見えなかった。そのまま彼女は部屋を出ていく。扉が閉まる。
静寂。
「……」何かがおかしい。再会できたのは嬉しい。
でも、話があまりにも勝手に進みすぎている。
世界最強。豪邸。
“ずっと一緒”
どれも普通じゃない。俺は窓の外を見た。庭には騎士が巡回している。
「……いやいや」考えすぎだ。きっと彩乃も久しぶりの再会で舞い上がっているだけ。明日になれば落ち着くだろう。そう思ってベッドに腰掛けた、その時だった。
――ガチャ。部屋の扉が開く。
「眠れそう?」彩乃だった。
「ノックぐらいしてくれ……」
「心配だったから」彼女はベッドの隣に腰を下ろす。
「何か困ったことある?」
「いや……特には」
「本当に?」
「うん」
「嘘」その一言に、思わず肩が跳ねた。彩乃は優しく微笑んでいる。
なのに、その笑顔が少しだけ怖く見えた。
「悠人」
「……なんだ?」
「逃げようとしてるでしょ」
「っ!」心臓が止まりそうになった。図星だった。
この部屋に入ってから、俺は窓の高さや廊下の位置を確認していた。今夜、屋敷を抜け出そうと考えていたのだ。
「なんで……」分かったんだ…?
「顔に書いてある」彩乃はくすりと笑う。
「昔からそうだった」その笑顔は懐かしい。
だけど、その瞳だけは笑っていなかった。
「今日は逃げないで…」
「彩乃……」
「お願い」そう言い残して、彼女は部屋を出ていった。
深夜。屋敷は静まり返っていた。俺はそっと窓を開ける。二階だが、下には木がある。飛び移れば何とかなる。
「よし……」窓枠に足をかけた。その瞬間。
「どこへ行くの?」背後から、静かな声が響く。
全身が凍りついた。振り返る。月明かりの中。
扉の前に立つ彩乃が、優しく微笑んでいた。
「悠人」一歩。また一歩と近づいてくる。
「言ったよね?」逃げ場はない。窓の外にも、廊下にも。いつの間にか気配が現れ、騎士たちが屋敷を取り囲んでいた。彩乃は俺の目の前まで来ると、そっと両手で俺の頬を包む。そして、安心させるように優しく微笑んだ。
「逃がさないよ♡」その一言だけで、俺は理解した。
――この異世界で一番危険なのは、魔王でも魔物でもない。俺の幼馴染だった。
その事実が、この世界ではどれほど大きな意味を持つのか。
この時の俺は、まだ理解していなかった。
だいぶ自分的にも好みな幼馴染が出来上がりました。主人公は普通の人間なので幼馴染には勝てません。さて、主人公はこの屋敷から逃げ出せるのか。第2話お楽しみに!




