第44話 ダンジョン
ダンジョンへの入口に入ると、体が浮いている感覚がある。
無重力空間ってこんな感じなのだろうか。何かフワフワしていて、地に足がついていないっていうのは怖いな。
ミリアとファラは手を繋いでいるから離れることはないだろうけど、真っ暗で肌の感触が分かる程度で何も見えない。
そんな時間も一分は無かっただろう。ゆっくりと光が見え始めて、周りが森であることが分かる。
どうやらダンジョンへの入場は完了したようだ。
しかし……これはひどいな。いきなり猪に囲まれているとか……。
10匹くらい居るな、ここは巣なのか?
「いきなりこんな状況とかあり得るんだな。猪だし、さっさと殲滅しよう」
「はい!」
「ん」
猪程度、武器で殴って倒せるくらいには強くなっているので、ジョブを僧侶に変えてサクサク倒していく。
「こんなもんか。それにしても、ここはどこだ? ミリア分かる?」
「私もダンジョン自体初めてなので、分からないです」
森の中だということしか分からない。東西南北何処に向かえば良いのだろうか。
サクサクとモンスターを倒しながら森の中を進んでいくこと数時間……良い事を思い付いた。
「どうしたんですか? 何かニヤニヤして怖いんですけど……」
「良い事を思い付いたんだよ。ファラ、協力してくれる?」
「ん」
ファラを呼び寄せて、背中に両手を当てて魔力を込めて少し浮かせてみる。
これくらいなら簡単に飛ばせそうなので、先に何をするのか説明をしておくか。
「ファラ、今から空を飛ばせてあげるから、どっちの方角に行けば森から出られるか、目視で確認してくれるか?」
「わかった」
「空を!?」
ミリアがすごく羨ましそうな顔をしてるけど、この中で一番軽いのはファラだ。ファラに空から場所を確認してもらうことにする。
別にミリアが重いってわけじゃないからね!
「いくよ?」
「ん」
「……いいな……」
魔力を一気に込めて二十メートルくらいだろうか。これ以上は上げられそうにない。
どうやら魔力の放出が届くのがこのくらいの距離らしい。
もうちょっと魔力が高ければ更に距離が延びるかもしれないな。今度実験してみよう。
「さすがタカシさんです。私も練習しなきゃ……」
「ミリアもすぐできるようになるさ。後でミリアも飛ばしてあげるね」
「ほんとですかっ!? やったー!」
高い所が好きなのだろうか。それとも魔法で空を飛ぶというのが嬉しいのだろうか。判断が難しいところだが、ミリアの喜ぶ顔が見られるなら、それだけで十分だ。
上空でクルクル回してあげると、手足を広げたりして楽しんでいるようだ。ちゃんと周りを確認しているのだろうか……。
ミリアが我慢出来無さそうだ。交代させる為、ファラを元の位置に下ろす。
「どうだった?」
「あっちに木がないところがある。こっちに川と山がある」
「そうか。ありがとうな」
頭を撫でてあげる。よし、次はミリアだな。
「ミリア。家を作るのに適している場所を何ヶ所か、あと、モンスターが強そうな場所を探してくれるか?」
「任せてください!」
空を飛べる事に興奮しているのだろうか。腰を低くして、今か今かと待ち構えている。
「それじゃ行くよ」
「はい! お願いします!」
「それと飛んでる間、パンツ見えてるから気を付けてね」
「え? あ、きゃあああああ」
下半身に注意を向けたところで、一気に飛ばしてあげた。
ファラのようにパンモロも良いけど、ミリアのように恥ずかしながら、隠しているけど見えているというのも良いな。
でも先に注意したから隠してやがる。惜しいことをした。
「ファラ、空は楽しかった?」
「うん。また飛びたい」
「そっか。また今度飛ばしてあげるね」
「たのしみ」
返事が違う時は本気でそう思っている時だというのが、こないだ分かった。
また今度、MPに余裕がある時にでも飛ばしてあげよう。
ミリアもクルクル回してあげ、ファラと同じくらいの時間を飛ばした後、下ろしてあげる。
「あぁ、もう終わりなんですね……」
「また今度飛ばしてあげるからさ。それより、どうだった?」
「はい! あぁ、えっと、何かあちらの方に家を建てるのに良さそうな場所がありましたが、その近くで誰か戦っているみたいでした。後は、何ヶ所か良さそうな場所がありましたけど、戦闘しながらだと、夜になってしまうかもしれない距離でした」
「なるほど。またさっき見たいな奴等だったら面倒だな」
「そ、そうですね……」
思い出したのだろうか、楽しそうだった顔がちょっと引きつってる。
「そういえばさ、ダンジョン内で死んじゃったらどうなるの?」
「ダンジョンの一部になると言われています」
「吸収されちゃうってこと?」
「そういうわけではないです。どういう原理なのか分からないですが、ダンジョンが消えてしまう時に、生きている人は強制的に外に出されてしまうんですが、亡骸はダンジョンと一緒に消えるそうです」
生のある人だけ強制的に外に出されるというのがよく分からないな。死人とはいえダンジョンからしたら異物ではないのだろうか。
思念で出来ているところだから、死んだ人の魂も思念となり、ダンジョンの一部として判断されるのだろうか? 分からないな。
分からない事を考えても仕方ない。死んだら終わりというのはどこでも変わらないんだ。死ななければ良い。
「なるほど。じゃあ、面倒な奴はダンジョン内で殺してしまえば証拠は残らないのか」
「殺……っ、そんな事をしたらダメですよ!?」
「分かってる。ミリアやファラが俺の傍に居る限り、そんなリスクは冒さないよ。ただ、そう思っただけさ」
「それなら良いんですが……さっきのタカシさんなら、やりそうっていうか……その、ダメですからねっ!」
心配してくれているのだろうか。人を殺して捕まったりしちゃったら離ればなれになっちゃうからね。そんなバカなことしないよ。
「とりあえず、誰か居るかもしれないけど、そっちの方に行ってみるか」
「分かりました。案内しますね!」
移動を開始すると、今まで戦った事のあるモンスターが次々に襲ってくる。これならレベルが上がるのも早そうだな。
基本的に一撃だから、ダンジョンに居る間に30を目標にじゃんじゃん狩ろう。
「もう少し先です」
「確かに何か聞こえるな。さっきから一時間くらい経過してるけど、そんなに長く戦うほど強いモンスターなのかな?」
「タカシさんがおかしいだけで、普通はそんなものなんです!」
いやいや、猪程度ならさっき俺が壊滅させたパーティーでも瞬殺だろう?
さすがにこんなに長く戦うとか、パーティーが弱いか、モンスターが強いかだろう。
「ミリアだって俺と同じくらい強いじゃん。モンスター一撃で倒しちゃうし」
「私は……タカシさんが居るからであって、私が努力して手に入れた強さじゃないっていうか……」
「俺無しじゃ生きていけないって? 嬉しい事言ってくれるなぁ。よしよし」
「もう! そんなこと言ってないです! でも、こんなに強くなったのはタカシさんのお陰ですし……ありがとうございます」
「タカシのおかげ」
ファラもありがとうな。よしよし。
イチャイチャしながら進んでいると、戦闘しているパーティーが視界に入ってきた。
六人で戦っているみたいだな。相手はハーピーの集団か。
全員剣や槍、爪などを装備しているから、魔術士は居ないみたいだから、飛んでいる相手には時間が掛かるのだろう。
そうやって戦っている姿を見ていると、ふと気付いたことがある。
耳……獣耳に尻尾だ!
コスプレじゃないだろうし、いわゆる獣人というやつだろうか。
猫二人に兎と狸、後は何だろうか、狼? 犬? みたいな奴と、熊みたいにデカい奴が居る。服装と顔から、男が三人、女が三人のようだ。
彼等の周囲にはハーピーやバタフライの死体が沢山転がっているから、群れに遭遇して今まで戦っていたのだろう。
魔術士が居ないだけで、飛んでいるモンスター相手だとここまで時間が掛かるのか。
「魔術士が居ないみたいだね」
「獣人は魔力がかなり低いので、魔法が使える人はほとんど居ません」
「何でパーティーに魔術士入れないんだろうね? そのせいで、あんなに苦労してるのに」
「獣人だけのパーティーなんて聞いたことありませんし……確かに魔術士を入れないのは非効率的で、それにすごく危険です」
全員獣人というのは、珍しいパーティー構成らしい。
魔術士が居ないと、空を飛んでいるモンスターに対して、弓しか攻撃手段がないから面倒なんだよな。
攻撃が当たらない間に仲間呼ばれたら、いつまで経っても戦闘が終わらない。
それに、回復も出来ないし、もう逃げるしかないよな。でも、モンスターも馬鹿じゃない。逃げたら、当然追ってくるだろう。
……悪循環だな。
なるほど。その結果、今の彼等の状態になっているというわけか。
ミリアの言う通り、非効率的だな。
そんな状況、誰でも想像できるだろうに……何で魔術士を入れないのだろうか? 何か理由でもあるのだろうか。気になる……。
「タカシさん! ボーっとしてましたけど、また考え事ですか? 実験?」
「いや、魔術士入れない理由って何だろうなーって考えた」
「ダンジョンで魔術士を入れないなんて考えられないので、私には分かりません。そんなことより、どうしますか? あの方達、かなり疲弊してるみたいですが……」
「そうだね、本人達しか分からないし、考えたって意味ないか。どうしようか……」
割り込んでモンスターを一掃するのは簡単だ。
しかし、横から割り込んで来た奴等を、相手側が良しとしてくれるかどうかなんだよな。
別に苦戦しているわけではなく、疲れているだけのようだから、あんまり手を出し過ぎると揉めるだろう。
「あぁ、危ない! 助けましょうよ、タカシさん!」
熊のような奴がハーピーの群れから攻撃を受けて膝を付いてしまい、それを見たミリアが懇願してくる。
「……分かったよ。ファラ、俺とミリアが前方で敵を抑える。その間に、全員に治癒を掛けてあげて」
「ん。わかった」
「タカシさん、行きましょう!」
「分かった分かった」
三人で駆け出し、まずは飛んでいるモンスターをミリアと二人で燃やし尽くす。
ファラは熊のような奴に治癒を掛け、他の獣人達にも治癒を掛けて回っている。偉いぞ。
「っ……! 助太刀、感謝します!」
「おおー、すごーい。ありがとーう!」
犬のような奴がリーダーだろうか? お礼を言われ、それに続き、狸のような子が驚きながらお礼を言ってきた。
……こいつ全然疲れてなさそうなくらい元気なんだが。
ミリアと二人でさくっと狩り終わると、獣人達も安堵したらしく、全員座り込んだ。
「ふぅ。こんなもんか」
「いやー、小さいのにすごいね君達! さっきのは魔法? すごいすごい!」
「どうも。それじゃ、俺達は先を急ぐので」
「えぇ!? ちょっと待ってよ! まだお礼も言ってないのに!
狸っぽい子が面倒そうな子だったので、さっさと立ち去ろうとしたら引き留められた。やっぱりそうですよね。
「いえ、お気にせず。では」
「ちょちょちょーっと待った! ね? 少しだけ!」
「タカシさん、何でそんなに急いでるんですか?」
またか……ミリアの悪い癖だな。こないだカッシュの前でやらかしたの、もう忘れたのか?
でも、空気を読まずキョトンとしているミリアも大好きだけどな。まぁ、お仕置きはするけど。
「お兄さん、タカシって言うんだね! さっきはありがとーう!」
あーあ、名前まで知られちゃったよ。
ジッとミリアを見ると、ハッと何かに気が付いたようで、両手を口に当てて、申し訳なさそうにこちらを見ている。
「いえいえ、本当に気にしないでください。俺はこれから、この子に用事が出来たので先を急ぎます。ダンジョン攻略がんばってくださいね。ではでは」
「ひぃ……」
狸娘に別れを告げた後、ミリアの頭をポンポンしながら、ファラの手を引いて歩き出す。ミリアは、何を意味するか理解したらしい。プルプル震えている。
「タカシ様、どうかお待ちください。何かお礼になる物をご用意させていただきますので」
リーダー格らしい犬の人が、片膝を突いて恭しく引き留めてきた。
「そういうのを期待して戦闘に割り込んだんじゃないので、本当に気にしないでください」
「いえ、それでは我々の気が済みません」
「うーん、俺等はこの先で日が沈む前にやらないといけない事があるんですよ。それに、そちらの皆さんも疲れているようですし」
「確かに……お恥ずかしい。かれこれ数時間ずっとモンスターと戦っておりましたので」
見る限り、全員満身創痍だよな。治癒は施してあげたけど、疲れは取れないのだろう。歩くのもキツそうだ。
「じゃあ、俺等は先を急ぎますので」
「あの! 何度も申し訳ありません。この先で……何かあるのですか?」
「この先に野宿場所として良い場所があったので、日が沈む前に寝床を作らないといけないんですよ」
「なるほど……確かに、もうそんなに時間は無さそうですね。引き留めてしまい、申し訳ない」
この犬の人、貴族とか位の高い人なのだろうか。言葉遣いもそうだが、姿勢も良い。
そのせいもあり、ついつい余計な事まで喋ってしまった。
「それじゃ、またどこかで」
「はい。誠にありがとうございました」
今度こそ本当に分かれを告げ、歩き出す。
獣人達が見えなくなったところで、ミリアの頭をポンポンしてあげる。
「ひっ……」
「ミリアちゃん。こないだ、街の門で空気読まずに変な事口走ったの覚えてるかなー?」
「ひゃ……い。覚えてましゅ」
「お仕置き確定な」
「あぅ……ごめんなさい……」
今日は素直だな。まぁ、二度目だし流石に分かるか。
「タカシ、ミリアに何するの?」
「エッチな事だよ」
「うぅ……許してくださぃ……」
何しようか悩む。裸を見たり、胸を触ったりするのはいつもの事だし。そろそろ次のステップにでも……いや、まだ時間はある。その時にシチュエーションで決めよう。
「ファラもする」
「そっかそっか。ファラもするか。じゃあ三人で楽しもうなー」
「ん。たのしみ」
「もう……やだ……」
モンスターを倒しつつ、心躍ることを考えながら進んでいると、川辺の少し開けたところに出た。
「ん? ここがミリアの言ってた場所?」
「はい……」
お仕置きを恐れているのか、あれからずっとミリアのテンションが下がり続けている。
さっさとお仕置きをして、解放してあげよう。
「それじゃ、俺はここに家を建てるから、ミリアとファラは周りに土魔法で囲いを作る練習な」
「はい……」
「ん」
こないだと同じ間取りの家を作る。二度目なので、コツをつかんだようだ。精度が上がっている。
ただの土というより、石のようにザラザラ感が無くなった。
なるほど。土ではなく、石、更には磨き上げた石のようにイメージすれば風呂釜も作れそうだな。
ダンジョンには入ったばかりだし、まだまだ精度を上げる練習はできそうだ。次からは意識してやってみよう。
何とか日が落ちる前に落ち着く場所を確保できた。
今夜は長い夜になりそうだ……。ふふ。




