第43話 慰謝料
胸元に違和感を覚えて目が覚めた。
ファラが俺の胸をツンツンと突いていたようだ。俺が胸ばかり触るから興味を持ったのだろうか。
「おはよう、ファラ」
「おはよ」
お返しにイジってあげるが、特に反応は無かった。悲しい。
ミリアの方をイジってみる。
「んぅ」
もぞもぞし始めた。そうだよ。こんな反応だよ。ファラも、こんな反応になるまで後少しだ。
ファラにキスをして、右手でミリアの胸をイジる。あぁ、幸せだ。もうダンジョンなんて行かずに、ずっとこうしていようかな……。
「んん……はっ!? タカシさん!」
横向きに寝ていたので胸が寄せられ、いつもより揉み応えがあり、張り切ってしまったのがまずかったようで、起きてしまった。
残念だ……。
「いつもいつも、胸ばっかり! 何なんですか!」
「ごめん。分かったよ。じゃあ明日からは胸以外にするよ」
「そういうことじゃありません! 普通に起こしてください!」
「気が向いたらね。それより、おはよう」
「もぅっんむっ」
またモーモーミリアになりそうだったので、おはようのキスをして黙らせる。
「さて、今日はダンジョンだ。張り切って行こう!」
「おー」
「もーう!」
二人を起こしてあげて、ファラにパンツを穿かせる。この、何かいけない事をしているような気になるのが止められない。
着替え終わったところで、食堂に移動する。
道中、ミリアが説教のように色々言ってきていたが、スルーして食事をお願いして席に着く。
「しばらく人の作った料理を食べられないからね。ゆっくり食べてから出掛けよう」
「……」
「ん」
ミリアが怒っていて答えてくれないけど、その内機嫌も直してくれるだろう。
この世界に来て、こんなに静かな食事は初めてかもしれない。
「ミリア。このスープ美味しいね」
「ふんっ。昨日の晩と同じものですっ」
「このサラダ美味しいね」
「それも昨日の晩と同じものです!」
分かってるよ。ただ会話をしたいだけなんだよ。でも、怒っててもちゃんと答えてくれるミリアが可愛い。
「怒ってるミリアも可愛いね」
「怒らせないでください!」
「タカシ、なんでミリア怒ってる?」
「俺が胸揉んでキスしたから、だってさ」
原因は分かってます。無断揉み揉みに、無断キスだ。そりゃあ怒るよね。止める気はないけど。
「怒るのがわからない。タカシになら何されても良い」
「ありがとうなー。ファラ」
「もう! またそうやって!」
「ミリア。諦めて」
ファラの頭を撫でてあげるが、ミリアさんの怒りは更に深まる。まぁ、そうなるよね。
そうやってファラと二人でミリアをからかいつつ、食事が終わる。ファラは本気で言っているようだったが。
「よーし、そろそろ出発しようか」
「ん」
「ふんっ」
ミリアはまだ怒っているようなので、頭を撫でてあげつつ宿を出て出発する。
街を出ようとしたところで、ダンジョンの位置が分からない事に気が付いた……一番大事なことじゃん!
「優しい優しいミリア先生。一つお伺いしてもよろしいでしょうか」
「ふんっ。私はまだ怒ってるんですからね!」
「本当にごめんなさい。何をしたら許してくださいますか? 何でもしますから、許してください。お願いします」
「……じゃあ、もう、え、エッチなことはしないでください」
俺がこの世界で唯一楽しみにしている行為を辞めろと申すか。
「あぁ、それは無理だわ。さぁ、先を急ごう。ファラ、行こうか」
「ん? ん」
「え……」
ミリアはポカンとしたまま突っ立っている。ファラは何が起きたのか分からないようだったが、手を引いて、二人で歩いて行く。
「ファラ、ダンジョンの入口が何処にあるか知ってる?」
「しらない」
「そっか、それじゃあ冒険者っぽい人にでも聞いてみようか」
「ん」
手を繋いでミリアを放置したまま、ギルドの方へ歩き出す。
「タカシさん……?」
少しだけ距離を置いてミリアが付いてくるが、放置して冒険者風の男性に最近発見されたダンジョンの位置を聞く。
どうやらこの街の裏手にある山を少し上ったところにあるらしい。
「ファラ、ダンジョンに着くまでお菓子でも食べながら行こうか」
「っ……うん」
返事が違う。そこまでお菓子が好きなのか。
小さな焼き菓子が袋単位で売っている露店があったので、二人分買い、一つをファラに渡して、食べながら街を出る。
「タカシさん!」
気付かれないようにチラっとミリアを見たら、今にも泣きそうな顔で少し離れたところを付いてきている。
くぅ……。ミリアを無視するのが、ここまで心が痛いとは……。
あぁ……今すぐ抱きしめたい。この、ミリア用に買ったお菓子を好きなだけ食べさせてあげたい。
ミリアのことばかり考えていると、街の裏ということもあり、すぐに目標の山に到着した。
「タカシさぁん。返事してくださいよぉ……」
「タカシ、何でミリアにこたえないの?」
「ミリア、おいで」
「うわぁぁぁん……」
両手を広げたらミリアが飛び込んできた。
「もう……捨てられるのかと……思い……ました……」
「ミリアは俺の家族なんだから、そんなことしないよ。無視してごめんな」
少し無視してイジメるつもりだったが、やっぱり俺には無理だ。
抱きしめつつ優しく撫でてあげる。
「ほんとですよ……すごく……悲しかったんですからっ」
「ごめん。エッチな事するなとか言うからさ」
「だって……恥ずかしい……もん」
「ミリアの事大好きだから、触りたいんだよ」
「うぅ……」
これ以上続けても、何も進まないので、ミリアが落ち着いたところで離れて一息つく。
「もう、あんなことしないでくださいね……」
「分かったよ。ごめんね」
「私も少しは我慢します……」
「ありがとう。じゃあただ触るだけじゃなくて、ついでに気持ち良くさせてあげるね」
「もう! またそうやって! 折角妥協したのに台無しです!」
ミリアの調子も戻ったな。
今日から心を入れ替えてがんばろう。気持ち良くさせるために。
「そんなわけで、夜は覚悟しておいてね。さぁ、ダンジョンに行こう」
「もうやだぁ……」
「ん。たのしみ」
ミリアには先程買っておいたお菓子を渡して、山を登る。
ファラはお菓子に釣られたのか、俺の横に居たはずなのに、いつの間にかミリアの横に移動している。
ファラに振られ、寂しさに耐えながら歩いていると、菓子をハムスターのように口一杯に入れたファラが一つだけお菓子を食べさせてくれた。
「ん」
「あーん」
なかなか美味しいなこれ。じゃなくて、お前はさっき食べただろ! それはミリアのだろ!
ミリアはお姉さんをしているようで、お菓子のほとんどをファラに差し出していた。
お菓子を分けてあげるミリア、それを美味しそうに食べるファラ。姉妹みたいで、本当に良い組み合わせだな。
ほのぼの眺めていると、人だかりが出来ているところがあった。
おぉ、街の外で人に会うのは初めてだ。
「あそこがダンジョンの入口かな?」
「そのようですね。皆さんとても強そうです」
「おいしかった」
20から30人は居そうだな。4から5パーティー分か?
彼等は一緒にダンジョンに入って、中で合流するのだろうか。
「うん? 君達は……狩りにでも来たのか?」
集団の中央に居たリーダーらしきイケメンが話し掛けてきた。
「えぇ、ダンジョンに入ろうかと」
「……三人で? 既に仲間でも中に居るのか?」
「いえ、三人ですけど」
「ははは、三人じゃ無理だ。今からでも街に戻って、入れてくれるパーティーを探しな」
三人でダンジョンだってよ。
おいおい子どもじゃないか。
おい見ろよ、あの子可愛くね?
あんな装備でダンジョンかよ。
何か色々言われている……ミリアとファラはやらねーぞ。
……まぁ、良い。こういう輩は無視に限る。さっさと入ろう。
「ミリア。ダンジョンって、どうやって入るの?」
「えっと」
「おいおい、入り方も分からないのに来たのかよ」
「自殺なら他所で……ってか可愛いのに、心中とか可哀想じゃねーか。やめろよな」
何だこいつら。いちいち腹立つな。
「ミリア、こいつら皆殺しにしていい?」
「ダメです! こっちです、行きましょう!」
「おい、聞いたか。こいつが俺等を皆殺しにするってよ」
「ひゅー、女の前だからって恰好付けちゃって」
人殺しなんかやったことないけど、今なら殺れる。
あれ? この世界での殺人って大丈夫なんだろうか。いや、ダメだろうな。
そんな事を考えていたが、ミリアに引っ張られて人垣をかき分けて前に進まされる。
――ガッ
途中、後ろについてきていたファラが俺の背にぶつかってきた。
「どうした、ファラ?」
「けられた」
「や、やめてください……」
「どうした、ミリア?」
「い、いえ、ちょっと体を触られただけです……大丈夫です」
ファラの方を向いたらミリア、ミリアの方を向いたらファラに手を出してくる。
「ちょ、ちょっと止めてくだ……いやっ。触らないで!」
「……タカシ以外、そこさわったらだめ」
何かエスカレートしてきたな……殺ろう。
「ミリア、ファラ、命令だ。何も言わず、障壁を張って前に走れ」
「っ……」
ミリアとファラの体が光って前に走ったのを確認して、ジョブを魔術士に変え、銀貨を30枚程取り出す。
「お? 金を出して許しを請うとか分かってんじゃねーか」
「お兄さん、女の為に金を出すとは、恰好良いねぇ」
「あ? ちげーよ。お前らの慰謝料だよ。ほれ、受け取れ」
バッと空中に投げ、空間魔術で制御する。
そのまま高速回転させつつ、最大速度で周辺に居る全員の肩や肘などの関節を目掛けて発射してやる。
皮系装備の奴には主に肩へ、鎧を着た奴には、鎧の継ぎ目や肘を狙って撃つ。
――ボガガガボボボガガボボガボッ!
「「ガアアアア」」
「「ウワアア」」
全員、無事慰謝料を受け取ってくれたようで、銀貨を受け取った場所を押さえて蹲っている。
「俺の女に手を出してくれたお返しだ。受け取っておけ」
「キ、キサマァ!」
「あ? 先に手を出したのはお前等だろうが。俺の実力不足で皆殺しに出来なくてすまんな」
「こんな……ことして、ただで……済むと思ってんのか……」
「うるせーよ雑魚共が。俺一人に全滅するようなパーティーが何言ってんだよ。それより、街に戻って、入れてくれるパーティーを探したらどうだ?」
あぁ、すっきりした。
「じゃあな」
「くそぉ! 待てよ!」
無視して前方を見ると、何か黒い鏡のような物があるところで、ミリアとファラが待っていた。
あれがダンジョンの入口なのか?
「お待たせ。これがダンジョンの入口?」
「え、あ、はい。そ、そうです」
「どうしたの?」
「い、いえ。ちょっと、その、タカシさん怖かったです……」
「だってファラを蹴ったり、ミリアに触れてきたじゃん。許せないじゃん」
そう、俺の大事な大事なファラを足蹴にしたんだ。許せるわけがない。
「それはそう……ですけど。ちょっとやりすぎじゃ……」
「いや、あれくらいしないと、ミリアやファラの方にまで襲ってくるかもしれないからさ。あれじゃ死なないから大丈夫だよ。腕に穴を開けただけだし」
「そうですか……」
「タカシ、かっこいい」
ありがとうファラ。撫でてあげよう。よしよし。
わざと格好良く喋ったつもりだったんだけど、滑ったのか、ミリアはちょっと引いたようだ。ごめんよ。よしよし。
「ミリア、引いた?」
「いえ、タカシさんは怒ると怖いことが分かりました。気を付けます……」
「大好きなミリアに怒ることはないよ。怒ってもエッチな事するだけだよ!」
「ありが……エッチなことはダメです!」
何か、怒らせないように怒らせないようにとミリアがぶつぶつ言ってるけど、怒っても怒らなくてもエッチな事はするから無駄だよ。
「さぁ、行こうか」
「はい」
「ん」
「これに入れば良いの?」
「そうです」
三人で手を繋ぎ、鏡の中に入っていく。




