第9話 勉強会C
このダンジョンの地形は上空から見ると、“A”のような形になっており、現在は横棒の左端に居る。
ミリア達がダンジョンに入ってすぐ、目印に進もうとしたという“一本だけ目立つ木”は、“A”の頂点の部分にあるので、そこに向かって山を下り、森を踏破することにした。
このまま、ミリア達が通ってきた道順に北上しても良いのだが、既にモンスターを討伐している為、狩りにならないためだ。
「よし、モンスターが出てきたら、マリーが精霊魔法を使って討伐してみてくれ。使い方は分かるな?」
「はい! 神官の修行時代に聞いたことがありますので!」
皆にはマリーをフォローするよう指示し、戦闘を開始する。
まだレベル的に、風の精霊魔法しか使う事ができないようだが、威力はそこそこだな。一撃ではないにしても、モンスターを次々に切り刻んで行動不能にしている。
行動不能になったモンスターを、張り切っているラン、ミュウ、パル、パロがトドメをさす形だ。
「おい、マリー。精霊は出さないのか?」
「そうでした! 顕現せよ、ウインドスピリッツ!」
――バシュウッ!
精霊魔法を使えるのが嬉しいのか、モンスターを魔法だけで狩り続けていたので、精霊を出させてみる。
すると、何やら精霊と会話をしている。
「どうしたんだ? 精霊が何か言っていたのか?」
「ええと、精霊さんが、魔法を覚えたのなら私と自分の魔法を合成して使えば、更に強くなると教えてくれました!」
「そうか。じゃあ、精霊と相談して使い方をマスターしろ」
「はい! がんばります!」
なるほど。精霊は確かに風の攻撃魔法を使っているので、それを合わせたら威力は上がるだろう。
それならば、風以外の精霊魔法を覚える度に、精霊と相談させていつでも使えるようにさせておこう。
「お兄ちゃん? ラン、ヒマなんだけど」
モンスターのトドメを、パルとパロに先を越されてしまっているランがヒマそうに話し掛けてくる。
「そうだな。じゃあ、お前にもスキルの使い方なんかを教えるか」
「ほんと!? やったね!」
「闘士のオーラって知ってるか?」
「うん、知ってるよー。はぁっ! ってやつだよね」
まぁ、俺は知らないんだがな。知っているなら話は早い。
「使い方は分かるか?」
「大体分かるよー。アバンに特訓させられたし」
「じゃあ、やってみろ」
「いいよー。んっ……はぁっ!」
――シュゥゥ
ランが足を開き中腰で力むと、昔見た事のあるボールを集めたらドラゴンが願いを叶えてくれる某アニメ……とまではいかないが、体の表面に薄い膜のようなものが張っている状態になった。
これがオーラか……。
「こんな感じだよー。へへーん、ちゃんとできてるでしょ?」
「おう、それはパワーとガード、どっちのオーラだ?」
「パワーだよ。多分、ガードも今なら出来ると思うよー」
「そうか。じゃあ、その状態でデュアルを使ってみてくれ」
「さっきミリアちゃんに聞いたけど、難しいんだよね……」
一応、ミリアが教えてくれたみたいだが、ランには理解できない内容だったらしい。
「おーい、天才のミュウちゃーん。こっち来てー」
「もうっ! みゅに用があるのなら、エロ主人がきやがるです……それで、何か用です?」
「デュアルを使ってみてくれ」
「むずか……ふんっ、見せるほどのものじゃないです」
難しいからできないのか。どんなものなんだろうな……。
「そうか。ミュウは天才だから、難しいスキルだとしても、簡単に見せてくれるって期待した俺がバカだった。もう、戻っていいよ」
「むぅ、今みゅのことバカにしやがったですね。いいです、見せてやるです。その目で見て、天才のみゅに後悔するです! んんん、やっ!」
――ブゥン!
ミュウが二人に見える。これがデュアルか。名前の通りだな。
興味があったので、二人になったミュウを同時に押してみる。
「「わわわっ! 何しやがるですかっ!」」
あれ? 実体がある。どちらかは偽物だと思ったんだが。
現に二人とも全く同じ動きをしているし、認識は間違っていないと思うのだが、原理が分からない……。
「どうなってんだ、それ?」
「「ふふん、みゅは天才ですからね。このくらいよゆーです」」
試しに、片方のパンツを脱がしてみる。
「「にゃっ!? にゃ、な、なななにっ!?」」
やっぱり、どちらも脱げる。何だこれ……。
ミュウ二人が、叫びながら素早くパンツを穿いて、こちらに殴り掛かってきたが、キャッチアンドリリース。
何度かその攻防を繰り返しながら、ミリアに話し掛ける。
「おーい、ミリア。闘士のデュアルの原理を教えてくれ」
「デュアルで、ん? もう……何してるんですか……」
「「このこのこのっ! エロ、エロエロ! やってやるです!」」
「それで、どうなってるんだ、これ?」
「はぁ……えっと、デュアルは、オーラで分身を作るスキルです」
分身か。俺の知っている分身って、本人が高速で動いているとかそういうものなんだけど、オーラって質量があるのか……?
「でもこれ、実体があるんだけど。ほら。触ることができるし」
「「だぁぁっ! このっ! 何で当たらないですかっ!」」
「もう……、はい。自身の生命力を半分、分身に移しているので、実体があるんですよ」
ミリアが言うには、生命力――HPを半分、オーラで覆うことで実体化しているらしい。
実際にミュウのステータスを見ると、HPが半分になっている。
このスキル、HPが低いと危険――あぁ、そうか。だから闘士は攻撃や防御ではなく、体力上昇なのか。やっと理解できた……。
「ねぇ、お兄ちゃん。ラン、これでもアバンと訓練とかしていて、そこそこ自信あったんだけど……」
「あぁ、そうだよな。昨日戦い始めたような幼女に、先を越されてしまったんだからな。へこむよなー?」
「もーぅ。声に出して説明しなくて良いよ。はぁ……。どうしよ。何かもう、やる気なくなっちゃったな……」
珍しくランが落ち込んでいる。
「ラン、本当はお前も使えるんだぞ。ただ、バカだから説明しても理解できていなかっただけだ」
「ひどいっ!? 落ち込んでいるのに、追い打ちだぁっ!」
「ははは、落ち込んでいるランが可愛くてな、つい」
「つい、じゃないよ! 本気でへこんだんだからねっ!」
「よしよし」
ランを言葉でへこませて、行動で慰めてあげる。
それにしても、同じレベルでも理解度でこうも違うのか……。
「ほら、お前も出来るはずなんだから、やってみろ。今、ミュウのデュアルを実際に見たんだから、やり方は分かるだろう?」
「うん……やってみる。んんんっ! こ、こ、か、ら、はぁっ!」
――ブゥン!
「おお、出来たじゃないかっ!」
「「できたっ! できたよ、タカシくん!」」
相当嬉しいのか、左右から抱き付いてきた。
胸の感触もデュアルだ。うん、これはこれで……ひらめいたっ!
ふぅ、まぁ、それは、その、うん、夜だな。
「「あはは、ランだってやればできるんだからねーっ!」」
さっきまで落ち込んでいたくせに、もう調子に乗ってやがる。
HPを確認するため、ランのステータスを確認してみる。
▼ラン・フォン・クドラング Lv.4 舞武師 Rank.E
HP:1038(1575+500-1037)
MP:925(945+0)
ATK:930(882+48)
MAG:252(252+0)
DEF:766(693+73)
AGI:699(693+6)
STR:14(+ -) VIT:11(+ -) INT:4(+ -) DEX:11(+ -) CHA:21* (0)
JOB:M舞武師Lv.4 S使徒Lv.31 獣闘士Lv.36 獣戦士Lv.7 村人Lv.2 冒険者Lv.1 獣剣士Lv.1
SKL:獣闘士* 体力上昇中 プロテクトダンス 初級火魔術 初級治癒 デュアル 転換
確かに半分になっているな。表示のマイナス部分が、分身の方のHPになるのだろう。
ステータスの減算は無いようだから、ある意味強力なスキルだ。
あとMPが減っている……もしかして、デュアルの維持にMPを使うのだろうか。それだとステータスの割り振りを少し考え直す必要が、あ、またMPが減った……。
うん、間違いなく維持にMPを必要とするのだろう。
攻撃回数が二倍になるのは嬉しいが、少し面倒なスキルだな。
「あれ!?」
「「え、なに、何、どうしたの!? ラン何か間違えた!?」」
「あ、いや……」
デュアルって、闘士のレベル30のスキルだよな……。しかも、模倣が一つ減っている……だ、と!?
まさか……闘士のデュアルを使ったのではなく、ミュウを見て、使徒の模倣としてデュアルを覚えた、の、か!?
ラン、やっちまったな……。
「やっぱり、お前はバカだ」
「「ひどいっ!?」」
「え、何、どうしたんですか、タカシさん?」
「あぁ、いや。うん、別に……ランはバカだなって……」
「「ちょっと! がんばったのにひどくない!? ねぇっ!」」
「はぁ……」
本当、こいつにはいつも驚かされる。飽きないから良いけれど、流石に既に覚えているスキルをもう一つ覚えるとか、全く意味が無……もう一つ覚える? もう一つ覚えた!?
「おいっ、ラン!」
「ふぁっ!? な、何なの!? さっきか、りゃぶっ!?」
ランの両肩に手を乗せ、そのままキスをする。
そのショックからか、デュアルが解除されてしまう。
「今、お前に恩恵を与えたっ! もう一度分身して、更にデュアルを重ね掛けしてみろ!」
「も、もーう! さすがに重ね掛けなんてできないって!」
「いいからやってみろ。早くしないと毛を毟るぞ!」
「わわわ、分かった! 分かったから、止めて!」
尻尾を掴んで脅すと、バッと距離を取られた。
「そ、それじゃあ……ん、はぁっ! んんっ、はぁぁっ!」
――ブン、ブゥン!
思った通りだ! ランが四人になった。
「「「「なななな、にににに、ここここ、れれれれ」」」」
「うるさい、黙れ」
ただ、喋ると二重ではなく四重に聞こえてうるさいな。
HPも四分の一になっているし、間違いないだろう。
模倣の三つ全てをデュアルにしたら、最大で十六人になるんじゃ……いや、流石にそれは無理か。だったら今頃、ファラやマリーの模倣が全て同じスキルになっているはずだし。
「予想通りだ。お前はその状態でダンスとオーラの練習な」
「「「「ええええええええっ」」」」
MPの減りも、気持ち増えているような気がするから、注意してランのステータスを見ておくことにしよう。
「タカシ様!? ラン様に何をしたのですか!?」
「タカシさん、ランに何をしたのよ!?」
「え、落ち込んでたから、恩恵を与えただけ」
「あんなスキル見たことも聞いたこともないですよ!?」
「ランだけずるいわ……」
「まぁまぁ、実験だから、ね?」
アバンとサラが責めるように質問してきたが、流しておく。
ミリアはミリアで、ジトっとした目でこちらを見ている。
ミュウはランに負けたくないのだろう。ふんふんと言いながら、デュアルを連続使用している。お前には無理だ、ごめんよ……。
そんな痛い視線から逃げる為、前線に急いで移動すると、今度はルリアが飛びついてきた。
「タカシ殿! ボクにも稽古を付けて欲しいです!」
「お前は、アバンさんから昨日の夜教えてもらった、スタブを練習しておけ」
「は、はい! ボクのスキル、見ていてくださいね!」
「あぁ」
適当に返事をして、張り切ってマリーの後処理をしているパルとパロの方に声を掛ける。
「パル、パロ、どうだ? スニークとか練習してるか?」
「「うんっ!」」
「そうか。いつでも使えるようにしておくんだぞ?」
「「はーい!」」
マリーはちゃんと練習しているし、問題ないな。
あとはファラか。
「ファラ、どうだ? 空間魔術の練習してるか?」
「ん。やってる。ほら」
ファラが近くにあった石を浮かせて、前方に飛ばし、木を倒す。
「おぉ、そこそこ威力が出るようになったな。偉いぞ」
「ん。タカシ、お腹へった」
「そうか、もうそんな時間か」
皆にスキルを教えたり、実験したりしている間に、いつの間にかおやつの時間になっていた。
ファラの腹時計は正確だな。おやつタイムのみ、だが。
「じゃあ、ここら辺でおやつにするか」
「うん!」
「皆を集めてくれるか?」
「わかった!」
ファラに皆を集めさせている間にテーブルなどを用意する。
「おい、マリー、パル、パロ。ここら一帯の木を全て刈ってくれ」
「え、あ、はい。でも、可哀想です……」
「「やってやるぜーっ!」」
「お前がやらなくても、パルとパロがやるから別に良いけど」
「わ、分かりました。タカシ様のご命令です。やりますです……」
マリーはエルフなだけあって、自然を破壊したりする行為は苦手なんだよな。さすがにダンジョン以外では俺もやらないが、ここは攻略してしまったら消えるから、別に良いと思うんだが……。
「タカシさん、休憩ですか?」
ファラがミリア達を連れてきてくれたので、かき氷機を出す。
「おう、今日はミリアが氷を作り、それをファラが調理してくれ」
「分かりました!」
「わかった!」
「タカシ様、ご休憩ですか?」
「ふぅ、疲れたからちょうど良かったわ」
「ファラちゃん、う、ウチも手伝うねっ!」
「ふん、ふんっ! やっ!」
皆が集まってきた。ミュウは、まだデュアルの練習をしている。……無理なのにな。でも、珍しくやる気を出しているし、いいか。
「「「「たたたたかかかかししししくくくくんんんん」」」」
「うるさい、黙れ」
「「「「ひひひひどどどどいいいいっ!?」」」」
ランはまだ、デュアル、いや、これはクアッドか。
MPもまだ余裕があるようなので、そのままにしておこう。
あ、四人に同時にかき氷を食べさせたら、どうなるんだろうか。そもそも食べられるのか?
食べられたとしたら、頭キーンも四倍なのだろうか。
これは興味があるな。
「おい、ラン。お前、四人同時にかき氷を食べてみろ」
「「「「ででででききききるるるるかかかかなななな!?」」」」
「うるさい、黙れ」
「「「「ひひひひどどどどいいいいっ!?」」」」
ちょうど、ファラとマルカがかき氷を1つ作り終えていたので、それを4つに分けてランに食べさせてみる。
「「「「んんんんんんんんっ!」」」」
早速頭キーンになったようだ。
そんなことより、分身が食べたモノはどこにいっているんだ?
分身のエネルギーになる?
いや、そんな永久機関みたいな優秀なスキルではないだろう。
じゃあ、単に体内という精神力とオーラに包まれているだけ? 滲み出てきたりすると、怖いな。
そんなことを色々と考えている内に、ラン四人が同時にかき氷を食べ終わった。
「おい、ラン。それ、解除して良いぞ」
「「「「ううううんんんん」」」」
「うるさい、黙れ」
――シ、シュゥ!
「さっきから、ランの扱いひどぅ、おぉえぇぇっ!」
「おいっ!?」
元に戻った途端、吐きやがった。
「うぉぇ……はぁはぁ……な、に、これ……うぇっ」
「分身三人が食べた物が一気に集まってきたんだろう」
「はぁはぁ……そういう、こと、先に、言ってよぉ……うぷっ」
やっぱり、エネルギーになるわけではないのか。
可哀想だけど、実験だからな。仕方ない。
「ふぅ……あぁー、気持ち悪かった……」
「すまんな。今後の為にも実験しておきたかったんだよ」
「もう……先に言ってよぉ……ふぅ……」
「でも、これで分かったな。次からは気を付けような」
「うん……」
四人それぞれが経験したことは、本体に戻った際全て受け止めることになるのであれば、ダメージなどを負うと痛いだろうな。
それも実験しておかないとな……あと、夜の実験も。
そんなムフフな事を考えながら、おやつタイムを過ごす。




