第七話 ゴブリンの休憩所
扉の前まで近づく。
高さは二メートルほど。
木製だが腐食は見られない。
金属製の蝶番も錆びておらず、意外としっかりしていた。
俺は扉に手を当てる。
サーチャー向けスキルの気配察知に反応しているのは五体。
距離は十五メートルほど。
一体だけが部屋の中を行ったり来たりしている。
逃げ帰った奴だろう。
他の四体はまだ状況を理解できていないらしい。
「高瀬」
「はい」
「この先に五匹いる」
「ゴブリンですか?」
「多分な」
「他の魔物だったら?」
「その時は逃げる」
「簡単に言いますね」
「簡単な話だからな」
高瀬は小さくため息をついた。
「援護はできます」
「前には出るな」
「分かってます」
「私は二十万円貰ってませんし」
「俺は貰ってるから働く」
「その理屈はおかしいと思います」
ゆっくり扉を押す。
軋む音はしない。
手入れされているわけではないが、使われている形跡はある。
隙間から中を覗く。
部屋は思っていたより広かった。
二十メートル四方ほど。
木箱、樽、粗末な机、焚き火の跡。
壁際には干し肉らしきものまで吊るされている。
「……生活してるな」
「ゴブリンってこんなことするんですか?」
「Dランクのゴブリンなら珍しくない」
「集落を作る奴もいる」
高瀬は驚いた顔をした。
「知識豊富ですね」
「まぁな」
扉を開く。
五匹のゴブリンが一斉にこちらを向いた。
「ギャ!」
「ギギャ!」
短剣、木盾、棍棒。
装備は統一されていない。
普通の個体ばかりだ。
「高瀬」
「はい」
「二匹頼む」
「無茶言わないでください!」
一匹目が飛び出す。
ロングソードで受け流す。
返す刀で首筋を斬る。
崩れ落ちる。
二匹目。
三匹目。
左右から来る。
ダガーを抜く。
左。
喉を裂く。
右。
胸を突く。
高瀬の矢が飛ぶ。
四匹目の肩へ刺さる。
「当たった!」
「今は喜ぶところじゃない、とどめを刺しとけ」
「はい」
高瀬は矢が刺さり、転倒したゴブリンに剣を突き立てる。
「……初めて戦闘で役に立てた気がします」
最後の一匹は逃げ出そうとする。
背中を向けた瞬間。
ロングソードを振る。
足を切られたゴブリンは転倒し、そのまま動かなくなった。
静かになる。
高瀬は肩で息をしていた。
「疲れました……」
「たった一匹だぞ」
「初めてゴブリンを倒しました」
部屋を見回す。
木箱の中身は石ころ。
樽には濁った水。
価値のあるものは見当たらない。
「高瀬」
「何ですか?」
「残業代って出るか?」
「出ません」
「そうか」
「今日はここまでだな」
「賛成です」
俺は部屋を見回した。
木箱、樽、藁の寝床。
生活空間らしいが、詳しく調べるのは明日でいい。
二十万円は悪くない。
だが、それ以上に、久しぶりに探索者らしい一日だった。




