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31歳中堅探索者、今日も潜る  作者: 上畑 優平
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第六話 未知の通路

 崩れた岩の隙間から流れてくる風は冷たかった。

 東京第三ダンジョンは全十五階層。

 十階層の採掘跡は最奥部に近い場所にある。

 第十一階層へ降りる階段は別方向にあり、探索者が採掘跡へ足を運ぶことは少ない。

 十階層の採掘跡は最奥部に近く、その先には岩盤しかないはずだ。

 少なくとも、探索者庁が公開している地図にはそう記載されている。

 高瀬は端末を操作しながら首を傾げた。

「無理はするなとも言われました」

「無理しない探索者なんているのか?」

「少なくとも佐伯さんはしないでしょう」

「まあな」

 金になる仕事は好きだ。

 命を懸ける仕事は好きじゃない。

 二十万円の日当なら、それなりに働くつもりだ。ただし、命を懸けるつもりはない。

 俺はロングソードを抜いた。

 高瀬もショートソードを抜く。

 二人で岩の隙間を抜けると、その先には人工的に掘削されたような通路が続いていた。

 幅は三メートルほど。

 壁面には採掘の跡があり、足元には古いレールが敷かれている。

「採掘場みたいですね」

「昔使われてた場所なのか?」

「記録にはありません」

 高瀬は壁を照らす。

 埃は積もっていない。

 人が通った形跡もない。

 しかし、完全な自然洞窟には見えなかった。

 十メートルほど進む。

 二十メートル…三十メートル…。

 魔素濃度は少しずつ上がっていた。

「現在の魔素濃度は通常値の一・三倍です」

「上位モンスターが出るほどじゃないか」

「はい」

「とはいえ、Fランクダンジョンとしては高いです」

 通路は緩やかに下っている。

 やがて視界が開けた。

 そこは小さな広間だった。

 採掘用の木箱、壊れた手押し車、錆びたツルハシ。

 古い作業場のように見える。

「……昨日はこんな場所なかったよな」

「少なくとも私は初めて見ます」

 高瀬が辺りを見回した。

 その時だった。

 木箱の陰から何かが飛び出した。

「来ます!」

 緑色の小柄な影。

 ゴブリンだ。

 しかし、一匹だけじゃない。

 二匹、三匹、全部で四匹。

 普通のゴブリンだった。

 革鎧、錆びた短剣、粗末な木盾。

 Dランクダンジョンなら珍しくない相手だ。

「高瀬は下がってろ」

「援護します!」

「無理するな」

 一匹目が飛び掛かる。

 ゴブリンが錆びた短剣を振るう。

「遅い」

 ロングソードで受け流し、体制が崩れたところを、返す刀で首筋を切る。

 ゴブリンは悲鳴を上げながら崩れ落ち、身体は魔素へ還っていった。

 二匹目が横から突っ込んで来る。

 ダガーを抜く。

 振り向きざまにゴブリンの喉元を刃で切り裂く。

 首筋から血しぶきを上げ、二匹目のゴブリンも崩れ落ちた。

 三匹目は逃げようとした。

 だが、高瀬が放った矢が脚に刺さる。

「おお、当たった」

「そこ驚くところですか!」

 佐伯は、矢を足に受け転倒したゴブリンへと素早く近づき、剣で首を切り落とす。

 首を落とされたゴブリンの体は、すぐに魔素へと還元され消滅した。

 四匹目は仲間が倒されるのを見ると、広間の奥へ走り出した。

「追いますか?」

「いや、無暗に追うのは危険だ、追うにしても慎重にだ」

 俺は首を振った。

「今日は調査だ、未知の場所で無理はしない」

 高瀬は頷く。

 その判断は正しいと思ったらしい。

 俺はゴブリンが逃げた先を見る。

 広間の奥には木製の扉があった。

 古びているが、壊れてはいない。

「高瀬」

「何ですか?」

「日当二十万って聞いた時は得したと思ったんだけどな」

「まだ一時間も働いてませんよ」

「もう十分働いた気分なんだよ」

 高瀬は呆れたように笑った。

 俺は広間の奥にある扉を見上げた。

 二十万円は悪くない。

 ただ、探索者を十二年続けてきても、こんな場所を見つける機会は滅多にない。

 少しだけ得をした気分だった。


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