第五話 調査協力
翌日の午前九時。
東京第三ダンジョン管理棟の会議室には、俺と高瀬の他に三人の職員が集まっていた。
昨日見かけたことのない顔ばかりだ。
五十代くらいの男性は第三管理課の課長らしく、隣には調査担当の職員、その向かいには記録係と思われる若い女性が座っている。
机の上には東京第三ダンジョンの地図と、昨日提出した異常報告の資料が並べられていた。
「昨日確認された異常個体はレッドスライム一体、ゴブリン二体です」
課長の村瀬が資料を見ながら話し始めた。
「東京第三ダンジョンは利用者が多く、初心者講習でも使われています。現時点では閉鎖する予定はありません」
「講習で使ってる場所ですからね」
高瀬が苦笑する。
「講習日程もありますし、簡単には閉鎖できません」
「それで俺を呼んだのか?」
「はい」
村瀬は頷いた。
「佐伯さんは東京第三ダンジョンに長年潜っています」
「十階層までの地形も把握していますし、昨日の戦闘記録を見る限り、戦闘能力も十分です」
「調査に協力していただけないでしょうか、お伝えしたかもしれませんが日当は二十万円で」
「了解しました」
即答すると、高瀬が呆れた顔をした。
村瀬は咳払いをする。
「今日の目的は十階層の再確認です。ゴブリンが出現した採掘跡を調べ、異常魔素濃度や新たな魔物が確認された場合は撤退してください」
「無理はしない」
「それが条件です」
「了解」
打ち合わせを終えた俺たちは装備を整えた。
ロングソード、ダガー二本、革鎧、ポーション三本。
いつもの装備だ。
高瀬も昨日と同じ軽装だった。
革鎧の上に探索者庁のジャケットを羽織り、腰にはショートソードを提げている。
「探索者庁の職員って、みんな潜れるのか?」
「最低限ですね、戦闘職じゃないので、Eランクくらいが限界です」
「十分だろ」
「佐伯さんはCランクですよね」
「ソロだからCランクダンジョンの深層はきつい、浅い階層なら何度も経験はあるがな」
「上には上がいます」
「謙遜じゃなくて本当に十分だと思ってる」
入場ゲートを通る。
制御環のランプが赤く変わり、身体が少し軽くなった。
第一階層から第十階層までは順調だった。
スライム、ラット、ホーンラビット。
出現する魔物はいつもと変わらない。
新人講習の一団ともすれ違った。
昨日の異変を知らないのか、楽しそうに会話している。
十階層へ到着する。
採掘跡の小部屋。
ゴブリンと戦った場所だ。
高瀬は端末を取り出し、周囲を測定し始めた。
「魔素濃度は正常です、崩落もない、異常魔力反応もありません」
「結局、原因不明か」
「そうなりますね」
高瀬は壁際へ歩いていく。
俺も何気なく視線を向けた。
昨日見た時には気づかなかった。
採掘跡の一番奥。
崩れた岩の隙間から、かすかに冷たい風が流れている。
「……高瀬」
「何ですか?」
「あそこ」
高瀬は俺の視線を追った。
崩落跡の向こう。
わずかな隙間。
しかし、その先には確かに空間が続いているようだった。
「昨日、こんなのありました?」
「いや」
「少なくとも俺は見てない」
高瀬は無線機を手に取った。
「課長!報告です。東京第三ダンジョン十階層採掘跡に未確認の空間を発見しました」
返事が来るまでの数秒が妙に長く感じた。
「許可は出ました、確認だけなら進んでいいそうです。本当は帰りたいんですけど」
「俺もだ、でも二十万円貰ってるしな」
「……働いてください」
俺はロングソードを抜いた。
目の前に道があるなら進むしかない。




