第四十九話 二十階層
階段を降りる。
二十階層。
足を踏み入れた瞬間、修司が小さく息を吐いた。
「広いな。」
十九階層までとは明らかに違う。
通路ではない。
開けた空間。
天井も高い。
視界の先にはいくつもの石柱が立ち並び、ところどころに崩れた壁が残っている。
「遺跡みたいですね。」
彩花が周囲を見回す。
「魔素濃度は?」
「十九階層より少し高いです。」
測定器を見る彩花が答える。
「ただ、異常値ではありません。」
「今日一番高い数値ではありますけど。」
修司が肩を回す。
「最近のダンジョンはこんなのばっかりだな。」
「高いけど異常じゃない。」
「困るのは探索者庁だろうな。」
「間違いないですね。」
気配察知。
二体。
距離は三十メートル。
「いるな。」
「ああ。」
「二体だ。」
修司が剣を抜く。
「ホブか?」
「たぶんそうだ。」
足音。
石柱の向こうから姿を現す。
ホブゴブリン。
二体。
粗末な革鎧。
剣。
盾。
十八階層で見た個体と同じだった。
「二体か。」
「Cランクダンジョンなら普通なんですけどね。」
彩花が苦笑する。
「第三だと初めてですね。」
ホブゴブリンがこちらに気付く。
剣を構える。
走る。
「来るぞ!」
修司が前へ出る。
一体目。
剣が振り下ろされる。
盾。
金属音。
重い。
修司が顔をしかめる。
「やっぱり力はあるな!」
「無理するな!」
佐伯が横へ回る。
二体目が反応する。
剣を振るう。
避ける。
速い。
ゴブリンとは比べ物にならない。
だが、読めない動きじゃない。
半歩踏み込む。
ロングソードを振る。
盾。
防がれる。
その瞬間。
彩花の火球が盾へ着弾した。
ホブゴブリンの視線が逸れる。
「修司!」
「ああ!」
盾の一撃。
ホブゴブリンがよろめく。
佐伯が踏み込む。
一閃。
脇腹を斬る。
ホブゴブリンが吠える。
反撃。
剣。
受ける。
重い。
腕へ衝撃が走る。
「さすがにゴブリンよりは強いな。」
「Cランクだからな!」
修司が笑う。
一体目。
彩花の火球。
修司の盾。
佐伯の剣。
三人の連携で押し込む。
ホブゴブリンの体勢が崩れる。
修司が踏み込む。
剣が胸を貫く。
数歩後退。
そして魔素へ還った。
「一体!」
「こっちはまだだ!」
二体目。
こちらは傷が浅い。
修司と向き合う。
盾。
剣。
受ける。
押し返す。
互角。
いや、少し押されている。
「佐伯!」
「ああ!」
横へ回る。
ホブゴブリンが気付く。
盾を向ける。
修司が前へ出る。
盾同士がぶつかる。
その一瞬。
ホブゴブリンの視線が前へ向く。
十分だった。
佐伯が踏み込む。
剣を振るう。
一閃。
首を捉える。
ホブゴブリンの身体が揺れる。
膝をつく。
数秒後。
魔素へ還った。
静寂。
残ったのは魔石だけだった。
「終わったか。」
「ああ。」
修司が息を吐く。
「第三の現在地はこんなもんか。」
「Dランク上位からCランク下位。」
彩花が地図へ書き込む。
「探索者庁も喜びそうですね。」
「稼げる場所が増える。」
「その代わり、無茶する奴も増えるだろうな。」
修司が苦笑する。
それは間違いない。
稼げる場所には人が集まる。
人が集まれば事故も増える。
探索者の世界は昔から変わらない。
「帰るか。」
「ああ。」
二十階層。
調査完了。
第三ダンジョンは少しだけ難しくなった。
ただ、それだけだ。
世界が終わるわけじゃない。
明日も誰かが潜る。
明日も誰かが帰ってくる。
探索者の仕事は、今日も変わらないのだから。




