第四十三話 いつもの朝
Dランク昇格試験から数日が過ぎた。
特別な依頼は入っていない。
探索者庁からの連絡も無い。
こういう時は第五ダンジョンへ潜る。
結局のところ、ここが一番落ち着く。
管理棟へ入る。
朝の受付はいつも通り混雑していた。
認識票を受付へ差し出す。
「おはようございます、佐伯さん。」
榎本ありさが笑顔を向ける。
「おはよう。」
「今日は普通の探索ですか?」
「ああ。」
「最近は調査とか試験とか、変わった仕事が多かったですからね。」
「そうだな。」
ありさが端末を操作する。
「そういえば、この前の昇格試験の結果が出ましたよ。」
「もう聞いた。」
「全員合格だったそうですね。」
「ああ、いい受験者だった。」
ありさは少し驚いた顔をした。
「佐伯さんがそこまで言うの珍しいですね。」
「無茶をしない奴は嫌いじゃない。」
「なるほど。」
認識票を受け取る。
「神谷さん達も喜んでましたよ。」
「もうDランクですから、第五を卒業する日も近いかもしれませんね。」
「第五に来るDランクもいる。
俺はCランクだが、Fランクダンジョンだった第三にも行っていた。」
「それもそうですね。」
ありさが小さく笑う。
「行ってらっしゃい。」
「ああ。」
転移陣を抜ける。
第五ダンジョン第一階層。
見慣れた石壁。
少し湿った空気。
この感覚も随分慣れた。
気配察知。
二体。
コボルト。
距離二十メートル。
ロングソードを抜く。
一匹目が飛び込んでくる。
爪を振るう。
半歩下がる。
空を切る。
踏み込む。
一閃。
コボルトは魔石を残して消えた。
もう一匹は距離を取る。
逃げる気だ。
ダガーを抜く。
投げる。
回転した刃が足へ突き刺さる。
転倒。
すぐに距離を詰める。
剣を振り下ろす。
二匹目も魔素へ還った。
魔石を拾う。
一万五千円が二個。
三万円。
午前中としては悪くない。
階段を降りる。
第五階層。
第七階層。
第九階層。
途中でゴブリン三体と遭遇したが問題は無い。
昼前。
いつもの休憩場所へ腰を下ろす。
弁当を開く。
おにぎり二個。
唐揚げ。
卵焼き。
特別なものは何もない。
ただ、ダンジョンで食べると少しだけ美味く感じる。
「佐伯さん?」
声が聞こえた。
顔を上げる。
神谷だった。
その後ろには試験で一緒だった高橋と西野もいる。
胸の認識票はDランクへ変わっていた。
「久しぶりです。」
「もうDランクか。」
「はい。」
「まだ実感ないですけど。」
高橋が苦笑する。
「第五に潜るのも今日が最後かもしれません。」
「明日から第六へ行く予定なんです。」
「そうか。」
第六はDランク。
少し早い気もする。
だが、試験を見る限り問題ないだろう。
「無理はするな。」
「はい。」
「特に神谷。」
「お前は前へ出過ぎる癖がある。」
「まだ覚えてたんですか。」
「試験官だからな。」
「試験官補助ですけどね。」
神谷が笑う。
少し見ない間に余裕が出てきた。
悪くない。
「佐伯さんは今日は第五ですか?」
「ああ、依頼が無い時は大体ここだ。」
「俺達も、また戻って来るかもしれません。」
「その時はよろしくお願いします。」
「生きて帰って来るならな。」
三人は笑った。
短い会話だった。
それでも、少しだけ嬉しそうだった。
三人を見送る。
探索者は増える。
辞める奴もいる。
消える奴もいる。
それでも、新しい探索者はまた現れる。
たぶん、それでいい。
俺は残ったおにぎりを口へ放り込み、再び立ち上がった。
今日の仕事はまだ終わっていない。
探索者の一日は、案外長いのだった。




