第四十一話 十五階層
第九階層での迂回判断以降、受験者達の動きはさらに安定していた。
第十階層。
第十一階層。
第十二階層。
コボルトやゴブリンとの戦闘はあったが、無理に討伐数を増やそうとする者はいない。
危険なら距離を取る。
必要なら撤退する。
役割を守る。
それを徹底していた。
探索開始から四時間。
一行はようやく十五階層へ続く階段の前へ辿り着いた。
「ここですね。」
高橋が小さく息を吐く。
誰の顔にも疲労は見える。
だが、焦りはない。
それだけでも十分だった。
十五階層へ降りる。
空気が少し変わる。
広めの空間。
ここは第五ダンジョンでも中層の入口にあたる場所だ。
「気配があります。」
神谷が小さな声で言う。
佐伯も同時に感じていた。
ゴブリン四体。
コボルト二体。
合計六体。
距離は二十メートル。
こちらにはまだ気付いていない。
高橋が周囲を見回す。
「どうする?」
水島が地図を広げる。
「右側に細い通路があります。」
「ここを使えば一度に来る数を減らせる。」
西野が頷く。
「魔力もまだ余裕があります、支援できます。」
神谷は少し考えた後、口を開いた。
「行けると思う、ただし、危なくなったら撤退する。」
「異論は?」
三人とも頷く。
決断は早かった。
高橋が盾を構える。
神谷がその半歩後ろへ入る。
水島は遊撃。
西野は後方支援。
即席パーティとは思えないほど自然な隊列だった。
西野が火球を放つ。
爆ぜる音。
魔物達が一斉にこちらへ振り向く。
先頭はゴブリン二体。
高橋の盾へぶつかる。
鈍い音が響く。
「右!」
神谷の声。
水島が動く。
回り込もうとしたゴブリンの足を短剣で払う。
体勢が崩れる。
神谷の剣が喉元を斬り裂いた。
一体目が消える。
二体目。
高橋が盾で押し返す。
西野の火球。
怯む。
神谷が踏み込む。
一閃。
ゴブリンが魔石を残して消えた。
だが終わらない。
後続のコボルト二体が飛び出してくる。
「下がれ!」
高橋が叫ぶ。
全員が一歩下がる。
狭い通路へ誘い込む。
並べるのは一体だけ。
先頭のコボルトへ水島が飛び込む。
短剣が脇腹へ突き刺さる。
動きが止まる。
神谷の剣が止めを刺した。
最後の一体。
西野の火球。
高橋の盾。
神谷の剣。
水島の短剣。
四人全員で仕留める。
静寂。
魔石だけが床へ残っていた。
四人は武器を構えたまま周囲を確認する。
三十秒。
一分。
追加の反応はない。
「終わったな。」
高橋がようやく息を吐いた。
高瀬は隣で手帳へ何かを書き込んでいる。
「どうですか?」
佐伯は四人の背中を見ながら答えた。
「十分だ、少なくとも俺なら、一緒に仕事をしてもいいと思う。」
高瀬が少し驚いた顔をする。
「かなり高い評価ですね。」
「十五階層まで来たことじゃない、無理をしなかった。
一人で突っ走らなかった、仲間の言葉を聞いた。
それが一番大事だ。」
四人はこちらの会話は聞こえていない。
評価は後で伝えればいい。
高橋が振り返る。
「戻りますか?」
神谷が頷く。
「目的は達成した、帰ろう。」
誰も異論を言わない。
その判断もまた正しかった。
探索者は深く潜った者が偉いわけじゃない。
帰ってきた者が次も潜れる。
なにより、戻った後に飲む酒はうまいもんだ。




