第四十話 撤退の基準
第五階層での戦闘を終えた一行は、そのまま第六階層へ向かっていた。
先ほどの戦闘は悪くなかった。
即席パーティとは思えないほど連携も取れている。
ただ、試験はまだ終わっていない。
探索者の事故は慣れてきた頃に起こる。
佐伯は受験者達の背中を見ながら歩いていた。
「少し休憩しませんか?」
西野が声を掛ける。
時計を見る。
探索開始から二時間半。
そろそろ集中力が落ち始める時間だった。
「賛成だ」
高橋も頷く。
「水島は?」
「俺も問題ない」
「神谷は?」
「異議なし」
四人は通路脇の安全を確認して腰を下ろした。
水分補給、行動食、ポーション残数の確認。
誰も言われなくてもやっている。
「良いですね」
高瀬が小さく呟く。
「ああ、休憩を言い出せる奴がいるパーティは強い。
無理して進む方が危ない」
佐伯が答える。
十分後。
探索を再開する。
第七階層。
第八階層。
コボルトとの戦闘を二回。
戦闘そのものは安定していた。
だが、第九階層へ降りたところで状況が変わる。
「止まれ。」
佐伯が声を掛ける。
全員が足を止める。
「どうしました?」
高瀬が尋ねる。
「気配が多い。」
耳を澄ます。
受験者達も気付いたようだった。
「……七体?」
神谷が呟く。
佐伯は頷く。
「コボルトが七、距離三十メートル、広間にいる。」
四人の表情が引き締まる。
今までで最多だ。
「やるか?」
水島が剣に手を掛ける。
高橋は少し考え込む。
「正面からは危険だな、通路へ誘導しても数が多い。」
「西野はどう思う?」
「魔力はまだ余裕があります、でも長引くと危ないです。」
神谷が地図を見る。
「別ルートがあります、少し遠回りになりますけど、戦わずに進めます。」
水島が顔を上げる。
「逃げるのか?」
「違う。」
神谷は首を振った。
「戦う理由がない。」
「試験は討伐数を競うものじゃない。」
沈黙。
数秒後、高橋が頷いた。
「俺も賛成だ。」
「西野も?」
「はい。」
三対一。
水島はため息をついた。
「分かったよ、多数決なら従う。」
四人は静かに来た道を戻る。
コボルト達に気付かれることなく迂回路へ入った。
戦闘は起きない。
魔石も増えない。
ただ、それでいい。
「どうですか?」
高瀬が聞く。
佐伯は少し考えてから答えた。
「今日一番良かった。」
「戦わなかったからですか?」
「ああ。」
「探索者は魔物を倒す仕事じゃない、帰る仕事だ。
倒さなくていい戦いなら、やらない方がいい。」
高瀬は静かに手帳へ書き込む。
「Dランク試験で見たいのは、こういう部分なんです。」
前を歩く四人の背中を見る。
少なくとも、この四人は理解している。
戦うことと、生き残ることは違う。
その違いを知っている探索者は強い。
第十五階層までは、まだ半分ほど残っている。
だが、佐伯の中では少しだけ評価が変わり始めていた。
この四人なら、案外いい探索者になるかもしれない。




