第三十八話 役割
第一階層での戦闘を終えた一行は、そのまま第五階層を目指して歩き始めた。
神谷は先ほど佐伯に言われた言葉を思い返しているようで、さっきまでより周囲へ視線を向けている。
焦りは消えた、悪くない変化だった。
第二階層。
第三階層。
途中でコボルトと二度遭遇したが、大きな危険はない。
高橋が前へ出て攻撃を受け止め、水島と神谷が左右から挟み込む。
西野は不用意に魔法を連発せず、必要な場面だけ援護に回っていた。
即席パーティとは思えないほど、少しずつ連携が形になってきている。
「ここで少し休憩しましょう」
第四階層へ着くと、高橋が声を掛けた。
四人は壁際へ移動し、水筒で喉を潤す。
佐伯達は少し離れた場所から様子を見守っていた。
「順調ですね」
高瀬が小声で話しかける。
「ああ、全員、人の話を聞ける。それだけでも十分だ」
「Dランクは技術より性格ですか?」
「半分はそうだな」
高瀬は少し驚いたような顔をした。
佐伯は視線を受験者へ向けたまま話を続ける。
「腕は鍛えれば伸びる、でも、自分の失敗を認められない奴は伸びない。
無茶をする奴も同じだ。
経験を積む前に死ぬ」
高瀬は静かに頷いた。
その時だった。
神谷が立ち上がる。
「気配があります」
佐伯も同じ反応を感じていた。
ゴブリン。
三体。
距離は三十メートル。
「来るぞ」
高橋が盾を構える。
四人は自然と戦闘隊形を作った。
先頭のゴブリンが短剣を振りかざして飛び込む。
高橋は盾で受ける。
勢いを殺し、前へ押し返した。
「今!」
神谷が踏み込む。
今度は急がない。
足を止める。
狙いを定める。
一閃。
剣はゴブリンの肩口から胸を深く斬り裂いた。
魔素へ還る。
残る二匹。
一匹は高橋へ向かう。
もう一匹は大きく回り込み、西野を狙った。
「西野さん!」
水島が叫ぶ。
自分が追えば間に合わない。
そう判断した神谷は迷わなかった。
「高橋さん!」
高橋は返事をするより早く盾を構え直す。
神谷はその陰へ飛び込む。
ゴブリンの短剣が盾へ弾かれる。
体勢が崩れた。
神谷はその隙を逃さない。
横薙ぎ。
二匹目が消える。
最後の一匹は西野へ迫る。
西野は逃げない。
半歩だけ下がり、杖を前へ突き出した。
火球が放たれる。
ゴブリンは咄嗟に避けた。
だが、それで十分だった。
進路が変わる。
水島が背後へ回る。
短剣が首筋を掠める。
ゴブリンはよろめく。
そこへ神谷が追いついた。
剣を振り下ろす。
ゴブリンは魔石を残し、静かに消えていった。
「ふぅ……」
四人は武器を構えたまま周囲を確認する。
魔物の反応はない。
「武器を納めろ」
高橋の一言で全員が剣を収めた。
高瀬は手帳へ何かを書き込む。
「今回はどうですか?」
佐伯は四人を見ながら答えた。
「さっきより良かった」
「神谷は一人で倒そうとしなかった」
「水島は仲間の危険をすぐに伝えた」
「高橋は全員を落ち着かせている」
「西野も慌てて魔法を撃たない」
「ちゃんと四人で戦ってる」
「合格点ですか?」
「まだ早い」
「第五階層にも行ってない」
佐伯は歩き出した受験者達の背中を見る。
「試験は疲れてきてからが本番だ」
集中力が切れた時にどう動くか。
それが探索者の実力になる。
四人はまだ気付いていない。
本当の試験は、これから始まることに。




