第三十六話 昇格試験
試験当日。
東京第五ダンジョン管理棟、朝八時半。
管理棟の会議室には十数人の探索者が集まっていた。
今日行われるのはDランク昇格試験。
受験者は十二人。
三人ずつ四組に分かれ、第五ダンジョン十五階層までを探索する実地試験だ。
「おはようございます」
高瀬が資料を抱えて部屋へ入ってきた。
受験者達の会話が止まる。
「これよりDランク昇格試験の説明を始めます」
部屋の空気が引き締まる。
高瀬は慣れた口調で試験内容を説明していく。
「制限時間は六時間、到達目標は十五階層、討伐数だけでは評価しません。
戦闘能力、連携、状況判断、安全管理を総合的に評価します」
受験者達は真剣な表情で聞いている。
中には緊張で肩に力が入っている者もいた。
「それでは、本日ご協力いただく探索者をご紹介します」
高瀬がこちらを見る。
「Cランク探索者、佐伯さんです」
視線が一斉に集まる。
佐伯は軽く会釈をした。
拍手はない。
受験者にそんな余裕は無かった。
「佐伯さんには現場で受験者の行動を見ていただきます。採点を行うわけではありません。探索者として気付いた点を職員へ伝えていただく役目です」
説明が終わると、一人の受験者が手を挙げた。
「質問いいですか」
「どうぞ」
「佐伯さんは途中で助けてくれるんですか?」
高瀬は首を横に振る。
「命に関わる危険がある場合を除き、試験には介入しません」
「皆さん自身で判断してください」
受験者は小さく頷いた。
その時だった。
「佐伯さん!」
聞き覚えのある声だった。
部屋の後ろを見る。
以前、第五ダンジョンで助けた新人三人組の一人だった。
胸にはEランクの認識票。
装備も以前より整っている。
「久しぶりです」
「今日は受験か」
「はい」
「何とかここまで来られました」
「他の二人は?」
「今回は僕だけです」
「あの二人は、まだEランクで経験を積むって言ってました」
「そうか」
それが正しい判断だ。
焦って昇格試験を受けても、実力が伴わなければ意味がない。
「今日は頑張ります」
「一つだけ言っておく」
佐伯は受験者を見る。
「Dランク試験は強い奴が受かる試験じゃない。帰って来られる奴が受かる試験だ」
一瞬、部屋が静まり返る。
高瀬が小さく笑った。
「それでは準備を始めます」
受験者達は立ち上がり、それぞれ装備の最終確認を始めた。
昇格試験。
その一日は、もう始まっていた。




