第三十四話 次の仕事
調査を終えた俺たちは、そのまま管理棟へ戻った。
黒田たちは採取した鉱石を慎重にケースへしまい、探索者庁の受付で手続きを進めている。
「佐伯さん、本当に助かりました」
黒田は深く頭を下げた。
「予定通り調査を終えられたのは、佐伯さんのおかげです」
「護衛しただけだ」
「その護衛が一番大事なんです」
山口も笑顔で頷く。
「途中で魔物が出た時は正直焦りました」
「私たちだけなら調査どころじゃありませんでした」
「無理をしないのも仕事だ」
「逃げる判断が遅い方が危ない」
「探索者の人って、みんなそう考えるんですか?」
「長く続けてる奴はな」
黒田は書類へ最後の署名をすると、小さく息をついた。
「これで依頼は終了です」
「報酬は探索者庁経由で振り込まれます」
「確認しておいてください」
「分かった」
「またお願いすることがあるかもしれません」
「予定が合えばな」
三人はもう一度頭を下げると、そのまま調査資料を抱えて管理棟の奥へ向かった。
俺も受付へ向かう。
認識票を受け取り、端末へ目を落とす。
依頼完了。
報酬十五万円。
振込予定の通知が表示されていた。
「最近、依頼が多いですね」
榎本ありさが笑いながら認識票を返してくる。
「そうか?」
「そうですよ」
「第三ダンジョンの調査に行って、人助けまでして、その後は企業の護衛依頼です」
「受付でも話題になってます」
「大したことはしてない」
「皆さん同じことを言いますよ」
ありさは苦笑する。
「『佐伯さんなら安心だ』って」
「俺より強い探索者はいくらでもいる」
「強さだけじゃないんだと思います」
「そういうものか」
「そういうものです」
認識票を財布へしまう。
「じゃあ、また」
「はい」
「お気を付けて」
管理棟を出る。
夕方の風は少し涼しかった。
駅へ向かって歩き始めたところで、スマートフォンが震える。
画面には高瀬の名前が表示されていた。
「もしもし」
『お疲れさまです』
「今終わったところだ」
『依頼は無事終わりましたか?』
「ああ」
「特に問題もなかった」
『それなら良かったです』
少し間が空く。
高瀬にしては珍しい。
「何かあったのか?」
『少し相談がありまして』
「また調査か?」
『いえ、今回は違います』
「じゃあ何だ?」
『人選の相談です』
「人選?」
『詳しい話は直接したいんですが、お時間ありますか?』
役所の人間が電話で済ませない時は、大抵書類が絡んでいる。
面倒そうだ。
ただ、高瀬は必要以上に仕事を押し付ける人間でもない。
「今日なら空いてる」
『ありがとうございます』
『いつもの喫茶店でお待ちしています』
「分かった」
通話が切れる。
人選。
調査ではない。
討伐でもない。
一体どんな仕事なのかは分からない。
とりあえず話だけ聞いてみるか。
俺は駅とは反対方向へ足を向け、いつもの喫茶店へ歩き始めた。




