第三十一話 調査依頼
約束の時間より十分ほど早く管理棟へ着いた。
今日は探索ではなく護衛だ。
普段より荷物は少ない。
ポーションと解毒剤を確認し、受付で認識票を提示する。
「おはようございます、佐伯さん」
榎本ありさが笑顔で迎えた。
「今日は依頼でしたよね」
「ああ」
「東都資源開発の調査だ」
「最近こういう依頼も増えてきたんですよ。ダンジョン資源の利用が進んでますから」
「探索者も忙しくなるな」
「お仕事が増えるのは良いことじゃないですか」
「危険も増えるけどな」
ありさは苦笑しながら認識票を返した。
「気を付けて行ってきてください」
「ああ」
管理棟を出ると、黒田が二人の社員と待っていた。
一人は三十代くらいの男性。
もう一人は二十代後半の女性だった。
二人とも大きなリュックを背負い、測定機器らしきケースを持っている。
「佐伯さん、おはようございます」
「おはよう」
「こちらは調査員の山口と西村です」
二人は軽く頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「探索は慣れてませんので、ご迷惑をお掛けするかもしれません」
「無理をしなければ問題ない」
転移陣を抜ける。
第一階層。
黒田たちは周囲を見回しながら歩いている。
「初めてか?」
佐伯が尋ねる。
「見学はありますが、中層まで入るのは初めてです」
山口は少し緊張した表情で答えた。
「探索者って毎日こんな所に入ってるんですね」
「仕事だからな」
佐伯は歩幅を少し緩めた。
調査員の速度に合わせる。
こういう仕事は急ぐものではない。
十分ほど歩いたところで、気配察知に反応があった。
二体。
コボルト。
「来るぞ、下がってろ」
ロングソードを抜く。
コボルトが飛び掛かる。
右から来た一匹を受け流し、その勢いのまま首筋へ刃を滑らせる。
身体は魔素へ還り、魔石だけが床へ転がった。
残る一匹は距離を取った。
逃げ道を探している。
佐伯は無理に追わない。
半歩だけ間合いを詰める。
焦ったコボルトが飛び込んできた。
その瞬間を待っていた。
剣を短く振る。
胸を斬られたコボルトは数歩よろめき、静かに消えていった。
「……すごい」
西村が思わず声を漏らす。
「二匹とも一分掛かってないですよ」
「時間を掛ける方が危ない」
佐伯は魔石を拾い、ポーチへしまう。
「探索者は戦うのが仕事じゃない」
「生きて帰るのが仕事だ」
三人は顔を見合わせ、小さく頷いた。
その言葉には、経験者だけが持つ重みがあった。
目的の十五階層までは、まだ少し距離がある。
調査はこれから始まるのだった。




