第三話 異変
俺がレッドスライム討伐してからも、三人の新人探索者はまだ呆然としていた。
「今日は帰った方がいい」
「七階でレッドスライムが出たなら、他にも何かいるかもしれない」
三人は顔を見合わせた。
「撤退します」
「その方がいい、死んだら終わりだ」
三人が階段の方へ向かう。
俺もポケットからスマホを取り出した。
探索者庁の簡易報告アプリ。
ダンジョン名。
階層。
出現魔物。
討伐済み。
入力はすぐ終わった。
送信。
『異常報告を受理しました』
『担当職員が確認を行います』
いつもの定型文だ。
レッドスライムくらいなら、迷い込んだ個体として処理されるかもしれない。
少なくとも、俺はそう思っていた。
探索を続ける。
八階…九階…十階。
スライム、ラット、ホーンラビット。
出てくる魔物は普段と変わらない。
「考えすぎか」
十階層の採掘跡へ入る。
以前採掘されていた場所だ、今は使われていない。
採掘跡を見回す、その時だった。
背後から足音が聞こえた。
軽い、人間じゃない。
反射的にロングソードを抜く。
振り向く。
二匹。
ゴブリン。
身長は百二十センチほど、緑色の肌、粗末な革鎧、錆びた短剣。
間違いない、ゴブリンだ。
「……おいおい」
思わずため息が出る。
ゴブリンはDランクダンジョンなら珍しくない。
しかしFランクダンジョンに出る魔物じゃない。
こちらと目が合うと、一匹目が飛び出す。
速くはない、普通の個体だ。
ゴブリンは短剣を振るう。
俺は半歩だけ下がり、空振りさせる。
空振りした隙を付き、ロングソードを一閃。
ゴブリンの肩から脇腹まで深く切り裂いた。
悲鳴を上げる。
致命傷だ。
数歩よろめき、崩れ落ちる。
身体は徐々に魔素へ還り始めていた。
二匹目は動きを止める。
仲間が倒されたことを理解したらしい。
後ずさり、駆け出す。
「逃げるのか」
少しだけ感心する。
知能は低い、だが全くないわけじゃない。
ロングソードを構え直し、駆ける。
ゴブリンが振り向き、短剣を構えようとするが遅い。
首筋を狙い、切り裂く。
ゴブリンの身体が崩れる。
数秒後、二つの魔石だけが床へ残った。
拾い上げる。
ゴブリンの魔石をポーチに入れる。
ふたつで三万円くらいにはなる。
悪くない収入だが、嬉しくはなかった。
Fランクダンジョン。
第七階層のレッドスライム。
第十階層のゴブリン。
一匹なら迷い込みでも、二匹目が出たら偶然じゃ済まない。
その時、スマホが震えた。
探索者庁からの通知だった。
『異常報告について追加確認があります』
『担当職員が現地へ向かっています』
どうやら、向こうも少しだけ嫌な予感がしているらしかった。




