第二十九話 装備の手入れ
第五ダンジョンでの探索を終えた頃には、時計の針は午後三時を回っていた。
今日の成果は魔石十四個。
コボルトが十一体。
ポイズンスパイダーが三体。
蜘蛛糸は手に入らなかったが、収入としては悪くない。
管理棟で換金を済ませる。
「今日は二十一万三千円です」
榎本ありさは端末を確認しながら金額を読み上げた。
「最近調子がいいですね」
「運が良かっただけだ」
「運も実力って、高瀬さんが言ってましたよ」
「役所らしい答えだな」
ありさは小さく笑った。
「また来てください」
「ああ」
管理棟を出る。
帰る前に寄る場所がある。
駅前から少し歩いた路地。
古びた看板には『武具・防具 神崎商店』と書かれていた。
店の扉を開ける。
鈴の音が静かに響いた。
「いらっしゃ……おう、佐伯か」
奥から顔を出したのは店主の神崎だった。
五十代半ば。
元探索者。
今は武具職人として店を切り盛りしている。
「剣を見てくれ」
「また刃こぼれか?」
「今回は少し派手にやった」
ロングソードをカウンターへ置く。
神崎は鞘から剣を抜き、刃を光へかざした。
「なるほどな」
「これなら研ぐだけじゃ済まん」
「欠けてるな」
「ホブゴブリンだ」
神崎は眉を上げた。
「第三か?」
「ああ」
「噂は本当だったんだな」
「一匹だけだったけどな」
「それでも十分だ」
神崎は刃先を指でなぞる。
「無茶はしてないな、受けすぎてもいない。これなら腕は落ちてない」
「褒めてるのか?」
「道具の傷を見れば分かる」
神崎は笑いながら剣を作業台へ運んだ。
「三日預かる」
「代わりは?」
「貸してくれ」
「分かった」
壁から一本のロングソードを取り外す。
「中古だが、切れ味は悪くない」
「貸出用だ」
剣を受け取る。
重さを確かめる。
少し軽い。
ただ、違和感はない。
「いくらだ?」
「研磨と補修で三万二千円」
「貸出料はサービスだ」
「助かる」
「その代わり折るなよ」
「努力する」
「努力じゃ困る」
二人で笑う。
店を出る頃には夕方になっていた。
今日の収入は二十一万三千円。
そこから武器の補修代が引かれる。
さらにポーションや装備の補充もある。
探索者は稼ぐ仕事だ。
ただ、稼いだ金は生き残るために使う。
それも、この仕事の当たり前だった。




