第二十七話 十四階層
転移陣を抜ける。
十階層までは以前と変わらない。
スライム、ラット、ホーンラビット。
講習用のダンジョンとして使われていた頃のままだ。
十一階層へ降りる。
空気が変わる、魔素は少し濃い。
ただ、何度か潜った今となっては慣れたものだ。
簡易測定装置を見る。
十六・八、前回と大差ない。
気配察知に魔物が引っかかる。
二体、ゴブリン。
距離は二十メートル。
「邪魔だな」
ロングソードを抜く。
先に飛び込んできたのは短剣持ちだった。
低い姿勢、狙いは足。
ただ、動きは素直だ。
剣を軽く合わせるだけで、短剣を弾き飛ばす。
そのまま踏み込み、一閃。
肩から胸へ刃が走る。
ゴブリンは悲鳴を上げる間もなく魔素へ還った。
もう一匹は棍棒を振り上げる。
大ぶりの振り下ろしを避けつつ、懐へ潜り込む。
横薙ぎ一閃。
腹を裂かれたゴブリンは数歩よろめき、そのまま消えた。
魔石を拾い、ポーチへ入れる。
十四階層までは遠くない。
急ぐ。
十二階層、十三階層、十四階層。
安全地帯へ続く通路へ入ると、気配察知に人の気配が引っかかる。
人間一人、たぶん伊藤健太だろう、生きていようだ。
「おい、お前が伊藤健太か?」
声を掛ける。
壁にもたれ掛かっていた男が顔を上げた。
三十代前半、短剣、革鎧。
左足には布が巻かれている。
血は止まっている。
「……誰だ?」
「佐伯、Cランク探索者だ。奥さんに頼まれた」
「美咲が?」
「ああ、昨日から連絡が無いって騒いでたぞ」
男は苦笑した。
「悪いことしたな、投槍が刺さってな。抜いたら動けなくなった」
足を見る。
太腿の外側、傷は深い。腫れている。熱もあるようだ。
「化膿しかけてるな、ポーションは?」
「初級二本あったが使った」
「解毒剤は?」
「飲んだ」
「効いたか?」
「分からん、とりあえず死んでない」
「そうか」
ポーチから中級ポーションを取り出す。
「飲め」
「悪い」
「後で奥さんに請求するから気にするな」
「鬼か」
「探索者だからな」
健太は笑い、中級ポーションを飲む。
傷口が淡く光る。
顔色が少し戻った。
「立てるか?」
「何とか」
「なら帰るぞ」
「今日は稼ぎ無しだ、痛いな」
「生きてるだけマシだろ」
「違いない」
肩を貸す。
転移陣までは少し遠い。
ただ、一人で歩ける程度には回復したようだ。
地上へ戻る。
管理棟。
入口の前。
美咲が立ち上がる。
「健太!」
「ただいま、遅くなった」
「馬鹿!」
「心配したんだから!」
「悪かった」
夫婦喧嘩は始まりそうだった。
俺には関係ない。
「じゃあ帰る」
「あ、ありがとうございました!」
「本当に!」
「今度、お礼を……」
「いらん、次からは単独で無茶するな」
「それだけだ」
今日は第三ダンジョンを潜るつもりだった。
結局、十四階層まで往復しただけ。
魔石はスライム、ホーンラビット、ラット各一個、ゴブリン二個。
収入は四万円くらい。
まあ、こういう日もあるだろう。
だが、悪い一日ではなかった。




