表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31歳中堅探索者、今日も潜る  作者: 上畑 優平
PR
26/27

第二十六話 お願い

 数日後。

 俺は再び東京第三ダンジョンへ来ていた。

 第三ダンジョンは暫定Dランク。

 十八階層でホブゴブリンが確認されたことで、管理棟の掲示板には新しい注意書きが増えている。

 十一階層以降はDランク以上の探索者のみ立ち入り可能、十八階層は要注意区域。

 内容はそんなところだ、まぁ…俺には問題ないことだが。

 そんなたわいもないことを考えながら、受付で入域手続きを済ませる。

 認識票を返してもらい、転移陣へ向かおうとした時だった。

「佐伯さんですよね?」

 後ろから声を掛けられ、振り向く。

 二十代半ばくらいの女性だった。

 簡素な革鎧、杖、胸にはFランクの認識票。

 顔は見たことがある。

 第三ダンジョンに通っていれば、自然と覚える程度の関係だ。

 話をした記憶はない。

「ああ、そうだけど?」

 女性は少し安心したような顔を見せた。

 ただ、その表情はすぐに曇る。

「お願いがあります」

「主人を助けてほしいんです」

「助ける?」

「主人が潜ってから戻ってこないんです!」

 なるほど…探索者なら珍しくない話だ。

 未帰還、迷子、遭難、怪我、最悪の場合は……。

 理由はいくらでもある。

「どこだ?」

「十四階層のはずです。昨日の夕方、足を怪我したって連絡がありました。安全地帯で休むから心配するなって言われたんです。でも、それから連絡がとれなくて……」

「探索者庁は?」

「まだ一日しか経っていないので正式な捜索は出来ないそうです。個別依頼を出すなら、これから人員を選抜するので半日以上はかかると。それから潜ることになるので、今日中には捜索できないかもしれないと」

 目に涙を浮かべ、訴えかけてくる。

 なるほど、役所らしい返答だ。

「どうして俺に?」

「ここのダンジョンでDランク以上の人は少ないので、顔と名前は知っていました。それで、偶然見かけて、ダメもとと思い……」

 なるほどな、彼女なりに必死なわけか、なら仕方ない。

「旦那の名前とランクは?」

「伊藤健太と言います、Dランク探索者で、普段は私とペアかソロで潜っています」

 聞いたことのある名前だった、顔もうっすら覚えている。

 同じダンジョンを主戦場にしていれば、何度かすれ違っていても不思議じゃない。

 それなら無下に見捨てるのは忍びない。

「十四階層か」

 昨日の夕方から動けないとなると、一晩は過ごしている計算になる。

 安全地帯なら生きている可能性は高い。

  だが、動けない状態で一晩以上ダンジョン内で過ごすとなると、厳しいものがある。

「ポーションは持っていたのか?」

「初級を二本と解毒剤を持っていたはずでしたが」

 使い切ったのか、それ以上の怪我をしているのか…。

  懐の初級ポーションに触れる。

 ポーチの中には中級ポーションが一本。

 解毒剤も入っている。

 最低限の備えはある。

「そうか」

 十四階層なら遠くない。

 元々今日はここに潜る予定だった、十八階層まで行く必要もない。

 少し予定が変わるだけだ。

「行ってくれるんですか?」

 女性は顔を上げる。

「ついでだ、元々潜る予定だったしな。ただ、見つからなくても文句は言うな。探索者は自己責任だ」

「……はい、それでもお願いします」

 女性は深く頭を下げた。

「私は伊藤美咲です」

「じゃあ行ってくる」

 転移陣へ向かう。

 今日は十八階層じゃない、目的地は十四階層。

 十四階層。

 普段なら魔石を拾いながら通り過ぎるだけの場所だ。

 今日の目的は違う。

 生きているなら連れて帰る。

 それだけだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ