第十九話 いつもの第五ダンジョン
数日後。
俺は東京第五ダンジョンへ来ていた。
東京第六の測定依頼は終わった。
報告書も提出した。
報酬も振り込まれた。
藤堂夫婦とは焼肉を食べた。
修司は結局、三割ほど多く払わされていた。
本人は文句を言っていたが、彩花は慣れた様子だった。
東京第五ダンジョン。
Eランク。
全二十五階層。
俺にとっては、少し稼ぎたい時にちょうどいい場所だ。
第一階層から第八階層までは特に問題もなく進んだ。
コボルト、ポイズンスパイダ、ウィンドバット。
出てくる魔物はいつも通り。
東京第六のように少し速いとか、硬いとか、そういう違和感もない。
十階層へ降りる。
通路の角を曲がったところで、コボルトが二匹現れた。
片方は棍棒。
もう片方は錆びた短剣。
俺はロングソードを抜く。
一匹目が棍棒を振り上げる。
半歩下がって避け、返す刀で首元を斬る。
コボルトは魔素へ還り、魔石だけが床へ転がった。
二匹目は逃げようとした。
追いかけるほどの距離でもない。
腰のダガーを抜き、投げる。
刃は背中に刺さった。
動きが止まったところへ近づき、ロングソードでとどめを刺す。
魔石を拾う。
「今日は悪くないな」
ポーチにはすでに魔石が八個入っている。
午前中だけで六万円は超えるだろう。
午後も少し潜れば十万円に届く。
昔なら大金だった。
今でも大金には違いない。
ただ、探索者の金は出ていくのも早い。
ロングソードの研ぎ直し、革鎧の補修、ポーション、保険、制御環の点検費。
命がけで稼いだ金は、命を守るために消えていく。
昼前。
十一階層手前の広間で休憩する。
壁際に座り、水筒を取り出した。
弁当箱を開ける。
中身は卵焼き、ウインナー、冷凍唐揚げ、昨日の残りの野菜炒め。
見慣れた組み合わせだ。
食べ終えた頃、近くを通った若い探索者が軽く頭を下げた。
見覚えがある。
前に会った、揉めていた三人組パーティの一人だ。
短剣使いの青年だった。
「佐伯さん」
「また会ったな」
「今日は二人です。槍の子は休みで、盾役と八階まで行ってきました」
「無理してないならいい」
「この前、ありがとうございました。あれから少し話し合いました」
「そうか」
「パーティは続けることにしました。昇格は急がない方向で」
「それがいい」
青年は少し照れたように笑い、仲間の方へ戻っていった。
若い探索者はよく揉める。
俺も昔はそうだった。
金でもめ、装備でもめ、進むか帰るかでもめた。
今の俺がソロなのは、そういう面倒を避けた結果だ。
それでも、あの三人が続けると決めたなら悪いことではない。
午後の探索も順調だった。
コボルト三匹、ポイズンスパイダー二匹。
上質蜘蛛糸は落ちなかったが、魔石だけでも十分な収入になる。
十五時過ぎ、俺は地上へ戻った。
換金所で魔石を出す。
榎本ありさが査定結果を見て、少し驚いた顔をした。
「今日は調子良かったですね」
「たまたまだ」
「十二万六千円です」
「悪くない」
「その額、悪くないどころじゃないですよ」
「剣の補修代で消える」
「探索者って大変ですね」
「楽ならもっと人気職になってる」
ありさは笑いながら処理を終えた。
振込予定の通知がスマホへ届く。
今日の探索は終わりだ。
管理棟を出ようとした時、スマホが震えた。
高瀬からだった。
「もしもし」
『こんばんは。今、大丈夫ですか?』
「換金が終わったところだ」
『東京第三ダンジョンの調査が終わりました』
「そうか」
『報告を兼ねて、少しお話できませんか?』
「電話じゃ駄目なのか」
『資料を見せた方が早いです』
「仕事か?」
『仕事というほどではありません。佐伯さんにも関係がある話なので』
「飯は?」
『経費は出ません』
「じゃあ考える」
『来ますよね?』
「……行く」
『ありがとうございます。場所は管理棟近くの喫茶店でお願いします』
「了解」
通話を切る。
東京第三ダンジョン。
未知区域。
俺の手を離れた仕事のはずだった。
詳しい話は聞いていない。
ただ、今日はもう探索も終わっている。
夕飯前に少し話を聞くくらいなら、予定に入れてもいいだろう。
俺は荷物を背負い直し、管理棟を後にした。




