第十四話 臨時パーティ 3
ホブゴブリンが三匹、通路の先から姿を現した。
背丈は百五十センチほど。
棍棒と粗末な剣を持っている。
東京第六ダンジョンでは珍しくない魔物だ。
「いつも通り行くぞ!」
修司が大剣を構えて前へ出る。
一匹目のホブゴブリンが棍棒を振り下ろした。
修司は大きく避けず、肩当てで受け流す。
鈍い音が通路に響いた直後、大剣が横薙ぎに走る。
ホブゴブリンは壁際まで吹き飛び、身体を魔素へ変えて消えた。
地面に魔石が転がる。
「相変わらず雑だな」
「勝てばいいんだよ。細かいことは彩花に任せる」
「任せないでください」
彩花は短く答えながら、後方で杖を構えていた。
残る二匹のうち、一匹は修司へ向かい、もう一匹は彩花へ進路を変える。
彩花は慌てずに半歩下がった。
「佐伯さん、お願いします」
「分かってる」
俺は前へ出て、ロングソードを抜いた。
ホブゴブリンの剣が斜めに振り下ろされる。
普通のゴブリンより重い。
動きも速い。
それでも、C級探索者が慌てるほどの相手ではない。
剣を受け流し、踏み込みながら首元へ刃を通す。
ホブゴブリンは数歩よろめき、床に倒れる前に魔素へ還った。
修司も二匹目を倒していた。
戦闘は一分も掛かっていない。
彩花は端末へ討伐記録を入力する。
「十五階層、九時四十二分。ホブゴブリン三体討伐。魔素濃度は正常範囲です」
俺は測定装置を確認した。
表示は緑。
数値に異常はない。
「特に変わらないな」
「測定値だけ見るとそうなんです」
彩花は端末をしまいながら困ったように笑う。
「昨日も数値は正常でした。出てくる魔物もいつも通りです。なのに、戦っていると少し違う気がするんですよ」
修司は魔石を拾い上げ、軽く肩を回した。
「前までは三匹くらいなら軽かったんだよ。最近は妙に疲れる。歳のせいって言われたら腹立つけどな」
「歳じゃないのか?」
「三十四だぞ。まだ若いだろ」
「探索者としては若手とは言いにくい」
「お前に言われたくねぇよ」
修司が不満そうに言うと、彩花が小さく笑った。
「他のパーティも似たようなことを言っています。ホブゴブリンが少し速い、シャドウウルフが硬い、リザードマンの攻撃が重い。どれも感覚的な話なので、探索者庁も判断に困っているみたいです」
俺は通路の奥を見た。
壁面を流れる魔素に乱れはない。
気配察知にも大きな反応はない。
少なくとも、今のところ異常個体が潜んでいる様子はなかった。
「今日は二十階層まで行くんだったな」
「はい。十五階層から二十階層まで、一階層ごとに測定します。異常が出なければ通常報告で終わりです」
「何もなければ十五万か」
「一パーティで十五万ですからね」
「分かってる。三等分して五万。普段の稼ぎもあるなら悪くない」
修司が大剣を肩に担ぐ。
「久々の三人パーティだしな。今日は俺が全部倒してやる」
「測定が目的だろ」
「覚えてる。俺は真面目だからな」
「彩花、修司の頭も測定しておけ。異常値が出るかもしれない」
「普段から高めなので、基準値の設定が難しいですね」
「おまえらひどくないか?」
修司は文句を言いながらも楽しそうだった。
久しぶりのパーティ戦。
前に出る修司。
後ろで状況を見ている彩花。
その間を埋めるように動く俺。
役割が分かれていると、戦闘は驚くほど楽になる。
ソロにはソロの気楽さがある。
金でもめない。
撤退するかどうかも自分で決められる。
それでも、誰かが前を押さえ、誰かが後ろを見てくれる探索は、思っていたより悪くなかった。
「次は十六階層だな」
修司が歩き出す。
俺は測定装置を持ち直した。
「先に言っておくが、壊したら弁償はお前持ちだ」
「俺が壊す前提で話すなよ」
「前科がある」
「一回だけだろ」
「高い一回だった」
彩花が小さくため息をつき、俺たちは十六階層へ続く階段へ向かった。




