第十一話 先輩探索者
翌日。
東京第五ダンジョン。
第十二階層。
午前中の探索は悪くなかった。
コボルト四匹。
ポイズンスパイダー三匹。
ウィンドバット二匹。
ポーチの中にはもうすでに魔石が九個入っている。
今日だけで七万円は超えそうだ。
そして次はポイズンスパイダー。
危なげなくポイズンスパイダーを倒し、ロングソードを鞘へ戻す。
蜘蛛は魔素となって崩れ、足元には魔石だけが残った。
俺はしゃがみ込み、魔石を拾い上げる。
その時だった。
「ん?」
魔石のすぐ横。
白い糸の束が落ちている。
長さは十メートルほど。
普通の蜘蛛糸よりも少し光沢がある。
ポイズンスパイダーは稀に素材を残すことがある。
上質蜘蛛糸。
防具やロープの素材として使われる品だ。
「珍しいな」
久しぶりに見た。
換金すれば五万円くらいにはなるはずだ。
悪くない。
昼過ぎ。
探索を終えた俺は換金所へ向かった。
受付には榎本ありさがいる。
「今日は早いですね」
「珍しいもの拾った」
蜘蛛糸を置く。
ありさは少し目を丸くした。
「上質蜘蛛糸じゃないですか、最近全然見ませんよ」
「運が良かった」
「売ります?」
「売る」
「夢が無いですね」
「夢で飯は食えない」
ありさは笑いながら査定を始める。
その時。
隣のカウンターから声が聞こえた。
「また防具の修理ですか、今月二回目ですよ」
「仕方ねぇだろ、オーガが思ったより重かったんだ」
声の主を見る。
四十代後半くらい。
短く刈った髪。
無精髭。
頬には古い傷跡。
装備は使い込まれている。
革鎧は何度も補修されていた。
腰の剣も新品には見えない。
だが。
弱そうには見えなかった。
男はこちらを見る。
「おう、見ない顔だな」
「第五は久しぶりだ」
「第三にいた」
「Fランクダンジョンか、楽そうでいいな。腕は悪くなさそうなのにな」
「そっちは?」
「いろいろ回ってる、一番は第十一だ。俺はB級の堂島だ」
「…B級…俺より上だな」
「昔はな」
男は苦笑した。
「今は歳だ、身体がついてこねぇ」
ありさが割って入る。
「堂島さんは二十年以上探索者やってるんですよ」
「二十年?」
「長いですね」
「俺もそう思う」
堂島は笑う。
「お前は何年やってるんだ」
「十二年です、Cランクの佐伯です」
「今が一番脂がのってるかもしれんが、探索者なんて長く続けるもんじゃねぇぞ」
「装備代は掛かる、保険も高い、怪我したら収入はゼロ。若いうちは気にならねぇ、四十過ぎると急に怖くなる」
俺は黙る。
三十一歳、まだ若いと言われる年齢だ。
ただ、十年後には四十一歳になる。
当たり前だが。
剣を振る仕事は続けられるだろうか。
「考え込むな」
堂島は笑った。
「別に辞めろって話じゃない、好きなら続けろ。今C級ならB級にはなれるだろ。もしかしたらA級に届くかもしれねぇ。ただな、探索者しか出来ない奴にはなるな。俺みたいになる」
ありさが苦笑する。
「堂島さん、今月三回目です、若い人脅かさないでください」
「事実だろ」
堂島は査定票を受け取った。
「ま、頑張れ、まだ三十そこそこだろ、今なら何だって出来る」
「……そうかもな」
堂島は手を振りながら去っていく。
俺は査定票を見る。
今日の収入は十三万二千円。
悪くない。
だが、堂島の言葉は、少しだけ頭に残った。




