第十話 パーティのかたち
午前中の探索は順調だった。
コボルト五匹。
ポイズンスパイダー二匹。
ポーチの中には魔石が七個入っている。
換金すれば六万円くらいにはなるだろう。
午後も少し潜れば十万円近くまで届く。
悪くない。
十一階層へ降りる階段近くの広間で腰を下ろす。
壁にもたれ、水筒を取り出した。
弁当箱を開ける。
卵焼き。
ウインナー。
冷凍食品の唐揚げ。
昨夜の残り物だ。
味は普通だが、外で食べると少しだけ美味く感じる。
その時だった。
「だから最初から無理だって言ったんだ!」
怒鳴り声が聞こえた。
少し離れた通路。
三人組の探索者が立ち止まっている。
二十歳前後。
装備は比較的新しい。
量産品のショートソード。
革鎧。
市販品のバックパック。
駆け出しは卒業したが、まだ経験不足。
そんな印象だった。
「無理じゃない!」
「あと少しで十一階層だったじゃない!」
女が言い返す。
槍を持っている。
体格は小さいが気は強そうだ。
「ポーション残り一本だぞ!」
「さっきの蜘蛛で二本使った!」
「帰るしかないだろ!」
盾役らしい男が声を荒げる。
もう一人の短剣使いは黙っていた。
しばらくして口を開く。
「……俺、今日は帰りたい」
「また今度でいいだろ」
「また今度っていつ?来月?再来月?私は今年中にD級へ上がりたいのよ!」
女は悔しそうに拳を握る。
短剣使いはため息をついた。
「お前は急ぎ過ぎなんだ」
「俺たちは探索歴一年もない、まだE級だぞ」
「分かってるわよ!でも周りの子に置いていかれるの嫌なのよ!」
佐伯は弁当を食べながら聞いていた。
若いな、だが嫌いじゃない。
誰だって最初はそんなものだ。
昔組んでいたパーティも似たような理由で解散した。
金、装備、昇格試験、考え方の違い。
理由はいくらでもある。
俺は唐揚げを口に放り込む。
その瞬間、気配察知に反応があった。
二体。
距離は十五メートル。
通路の奥。
ポイズンスパイダーだ。
三人はまだ気付いていない。
「おい」
三人が振り向く。
「喧嘩は後にしろ」
「蜘蛛が来るぞ」
「え?」
「は?」
次の瞬間。
天井から二匹のポイズンスパイダーが飛び降りた。
「きゃっ!」
「来た!」
槍使いが慌てて後退する。
盾役は盾を構えた。
短剣使いは腰を落とす。
悪くない。
動きは素人じゃない。
経験は積んでいる。
ただ、少しだけ余裕が無い。
それだけだった。
俺は立ち上がる。
ロングソードを抜いた。
「ほら、戦うなら息を合わせろ」
ポイズンスパイダーの牙が迫る。
盾役の男が咄嗟に盾を前へ出した。
ガン、と音が響く。
体勢は崩れたが、防御は間に合った。
「落ち着け!」
俺は踏み込む。
ロングソードを振るう。
一匹目の脚を切り飛ばす。
バランスを崩した蜘蛛に短剣使いが飛び込んだ。
首元へ刃を突き立てる。
ポイズンスパイダーは身体を震わせ、そのまま魔素となって消えた。
「もう一匹!」
槍使いの女が叫ぶ。
蜘蛛は天井へ張り付こうとしていた。
「逃がすな」
俺が言う。
盾役の男が前へ出る。
盾で体当たり。
動きが止まる。
槍が伸びる。
腹部へ刺さる。
短剣使いが横から飛び込み、追撃した。
数秒後。
二匹目も消滅する。
静かになった。
三人は息を切らしていた。
「……倒せた」
「倒せましたね」
「危なかった……」
俺は剣を鞘へ戻した。
「動きは悪くない」
「ただ喧嘩しながら戦うのはやめとけ、今日は相手が蜘蛛だから良かった。ゴブリンだったら誰か刺されてる」
三人は顔を見合わせる。
槍使いの女が頭を下げた。
「ありがとうございました」
「助かりました」
「助けたってほどじゃない、気付いただけだ」
盾役の男が苦笑する。
「……すみません」
「最近ずっとこんな感じなんです、昇格試験が近くて」
「焦る気持ちは分かるが、焦って強くなるなら苦労しない。探索者は長く続ける方が難しい、一年で消える奴もいる、三年続けば上出来、十年続けば変人だ」
短剣使いが聞いてくる。
「佐伯さんは何年ですか?」
「十二年」
「……長いですね」
「俺もそう思う」
槍使いが少し迷ってから尋ねる。
「どうしてソロなんですか?パーティの方が楽じゃないですか?」
俺は少し考えた。
「楽なこともある、前衛がいて、後衛がいて。飯も一緒に食う、悪くない。
ただ、金でもめる、装備でもめる、進むか帰るかでもめる。好きな奴もいるけど、俺は疲れた。だから一人になった」
盾役の男が笑う。
「……大人ですね」
「違う、面倒くさがりなだけだ」
俺は空になった弁当箱を片付ける。
「帰るなら上まで付き合うぞ、今日はもう十分稼げたしな」
三人は顔を見合わせた。
さっきまで怒鳴り合っていたとは思えない。
パーティを続けるのか、解散するのか、それは本人たちが決めることだ。
仲直りできるかは分からない。
ただ、探索者を続けるなら喧嘩したまま別れるのは良くない。
何かのきっかけくらいにはなっただろう。
「パーティってのは、そういうもんだ」




