生徒会
入学式から数日。A組の授業は流石に高難易度の物が多かったが、既に履修済みな俺は問題なくこなせたし、カロイドは俺の侍従として俺程ではないにせよ高度な教育を皇宮で受けていたので既に学んでいた内容も多いようだ。
学んだことが無い事に関しては持ち前の知識欲で日々楽しそうに授業を受けている。
「生徒会?」
午前の授業が終わり、一日の楽しみである学食をカロイドと共に食べているとウィステリア嬢が自身の昼食が盛られたプレートを持って、一緒に食べてもいいかと尋ねてきた。
普段、他のご令嬢と昼食をとることが多い彼女が態々俺たちのところに来たということは何か用事があったのだろう、と了承したところ、彼女が生徒会について話し始めたのだ。
「お二人も我が学園の生徒会の選挙についてはご存じでいらっしゃいますでしょう?」
「あぁ、俺はどのみち生徒会長をやらないといけないから特に選挙とかは考えていなかったけどね」
皇族が学園に入学したときは、次の代替わりの際必ず生徒会長を務めることになるので、俺に至って生徒会選挙というものは関係ない。ちなみに、同い年の侍従が付いている場合はその侍従が副会長の一人に選ばれる。
俺は最初、上下関係のない学び舎とは言えどやっぱり皇族贔屓なんだな、と思ったのだがそうではなく、学園という言わば一つの小さな国をまとめる立場につくことで卒業後皇帝として、はたまた国政を担うものとしての力量を養うための制度だそうだ。
確かに、学園の生徒会長をしていたという肩書は就職や出征の際有利になるかもしれないが、それは将来を約束されている皇族には関係の無いものだ。
更に、学園に皇族が入学してきた年は、本来皇族が居なければ生徒会長になりえたかもしれないという者の不満をださない為、生徒会長からの推薦制度という物がある。
これは、会長、副会長を除いた生徒会役員の中から自分が居なかったら生徒会長になっていただろうと思う人材を、生徒会長である皇族が選び就職の際、推薦するという物だ。
ただ学園の生徒会長になるより、皇族にお墨付きをもらい、繋がりもできるこちらの方が、むしろ就職の際に有利に働く可能性もあるため、現在皇族を無条件に生徒会長に立てるという決まりに反発するものは出てきていないそうだ。
まぁ不正が行われない様、より一層目を光らせねばならない教師陣は大変ではあるだろうが。
「僕も副会長を務めるので特に考えていませんでした…。ウィステリア様は生徒会に立候補するのですか?」
真剣な顔で手元の肉を切りながら話を聞いていたカロイドが顔を上げ、そう尋ねるとウィステリア嬢はにっこりと笑って頷いた。
「えぇ、会計係に立候補しようかと思っておりますわ」
「へぇ…なんでまた?」
俺の純粋な問いにウィステリア嬢が小さく笑う。
「ふふ、将来ウィステリア領を担う物として、こういった経験も必要かと思いまして」
「ウィステリア様は他家に嫁がれるのではないのですか?」
思わず、といった様子でカロイドが尋ねた。それに対し彼女は至極当然、といった様子で答えてくれる。
「あら、現ウィステリア公爵の実子は私のみですもの。私の夫となる方が次期ウィステリア公爵になりますのよ?」
「でも俺のところにはウィステリア嬢との縁談の話が来たよ?」
俺は当時の事を思い出しながらパンを口に放り込み、首をかしげた。
「それは…もしフォードリア様と縁談が組まれた場合は父の弟の息子…つまり私の従弟を養子にしようかと考えていたのです。皇家とのより強固な繋がりができるならそちらの方がよろしいですもの」
彼女は笑いながらそういうと、丁寧に一口サイズに切られた野菜を口に運ぶ。
そこまで聞いて、俺はやっと合点がいった。
「なるほど。それほどの得がない限りはウィステリア嬢を嫁に出さず、夫となる人を迎え入れたほうが良いのか」
「そういうことですか」
カロイドも同じく納得したようで、一人頷きながら俺より少し大きな一口大の肉を口に放り込んだ。
「それで、俺達にその話を持ってきたということは何か理由があるんだよね」
カロイドが持ってきてくれた食後の紅茶に口を飲みつつ、同じく紅茶に口をつける彼女に尋ねてみる。
「そうですわ。実は生徒会の役員に立候補する際には他生徒の推薦が必要になりますの」
「その推薦を俺にしてほしいってことかい?」
「えぇ、差し支えなければお願いしたいのですが、難しいでしょうか?」
彼女はにこりと笑って首をかしげた。その程度の事ならお安い御用なのだが、本来こういった推薦などは現役員の者から受ける物ではないのだろうか?
「難しいことは無いが…生徒会の現役員の方とかじゃなくて俺でいいのかい?」
「勿論。現役員以外からの推薦の場合、どなたか教員の一名からも推薦を貰えば良いという決まりがありますもの。教員からの推薦は、既に担任の先生にお願いしておりますわ」
「そうなのか。でも、先生に推薦を貰うくらいならそれこそ現役員の方に推薦をお願いしたほうが早かったんじゃないか?現役員なら一人からの推薦で良いのだし…それくらいの人脈、君ならあるだろう?」
俺が疑問をそのまま口に出せば、ウィステリア嬢は紅茶を一口啜り後、内緒話をするように俺たちに顔を少し近づけた。
「お二人は、私と殿下の不仲説が噂されているのをご存じないですか?」
「えっ…?全く知らなかったよ」
「僕も知りませんでした…」
初めて聞いた噂に驚きつつも、彼女の声量に合わせ俺たちも声の音量を落として答えた。
「知らなくても無理はございませんわ。まだご令嬢達の間で小さく噂されている程度ですもの」
皇族である俺の周りはおかしな噂が立ちやすい。そういう時すぐに手を打てるように俺やカロイドは出来るだけ噂は早い段階で把握しておくよう努めている。そんな俺達が知らないということは、確かに今は本当に小さな噂なのだろう。
「なんでそんな噂が?」
「どうやら、お父様が私との縁談を殿下に持ち込んだという話がどこからか漏れたらしいですわ」
「なるほど…殿下には婚約者がいないのに、家格では申し分なく、皇后としての資質を持ち合わせたウィステリア様との縁談を陛下が断ったということでお二人の仲が良くないのではと噂になったということですね」
カロイドの言葉にウィステリア嬢が頷く。
俺とブロジットとの間で交わされた契約については今のところ公表はしていない為、知っているのは極限られた者のみだ。
ウィステリア公爵には、この国の宰相を務めていることも鑑みてウィステリア嬢との縁談を断る際に伝えているので問題ない。
だが確かに事情を知らない貴族の中には縁談が結ばれなかったことを疑問に思う者もいるだろう。そう言った者たちが冗談半分でそう言っていたのを真に受けたものがいたのかもしれない。
今は小さな噂でも、何がきっかけでその噂に背びれ尾びれがついて広まるかは分からないし、皇族との不仲説が流れてしまえばウィステリア公爵家にとっては少なからず打撃となるだろう。
その可能性を危惧して、今、まだ噂が小さいうちに俺がウィステリア嬢を生徒会へ推薦することで不仲説を払拭し、良好な関係を築いていると示すつもりなのだろう。
「なるほど。そういうことだったら喜んでお受けするよ」
「ご了承いただけて幸いですわ。推薦者が皇太子殿下となれば、箔が付きますわね」
俺が了承の意を示し頷き、ウィステリア嬢が笑いながら冗談めかしてそう言うと、丁度その時昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴った。
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