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目は口ほどに  作者: とこ
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考えても分からない

 ひらり、黒地に金糸で刺繍の施されたマントが風にはためいた。

 

 俺の紡いだ言葉は、冬に比べて幾分暖かくなった柔らかい風に運ばれていく。

 季節は春。今日は学園への入学式である。

 

 ミラージルが俺になってもう一年が経ち、ダイエットも勉強も、概ね成功したと言っていいだろう結果になった。

 俺がミラージルだと自覚した当初は自分の醜さに絶望したが、今は体重もかなり落ち、身長も伸びたので今の見た目は傍から見ても整っている部類には入っていると思う。

 

 勉強に関しても、この一年でかなり詰め込み、空白の四年で学ぶべきだった内容は勿論こなしたし、この学園で学べる内容3学年分もしっかり頭に入っている。

 故に、入試試験で主席合格したものの勤めである新入生代表の挨拶をすることができたのだ。

 新入生代表挨拶をすると何かいいことがあるという訳ではないが、皇族という立場でこの学園という小さな枠組みの中ですらトップをとれないなど面子が立たないし、唯でさえ俺は一年前まで引き籠っていたことで少なからずなめられているのだから、ここで今の俺の実力を示さなければならなかった。

 

 新入生代表の挨拶を終え自分の席に戻れば、隣に座るカロイドが軽く肘で小突きねぎらいの言葉をかけてくれる。

 

 この学園は成績ごとに特級、上級、中級、下級にクラス分けされており、上から順にA~D組となっている。俺とカロイドはA組。基本的に公爵家以上の嫡男は特級に入れないと恥ずかしいと言われている為、今回無事A組となれて本当に良かった。

 

 無事卒業式も終わり、カロイドと共に教室に入ると既に先客がいた。

 薄いすみれ色の髪に深いアメジストの様な瞳を持つ令嬢。我が国、フォードリア帝国の公爵家であるウィステリア公爵の唯一のご息女。メイリシェーン・ウィステリア公爵令嬢だ。

 

 俺達が入ってきたことに気が付いた彼女は席から立ち上がり、視線を下げる。

 

「初めまして。俺はミラージル・フォードリア。これからよろしく頼む」

「帝国の若き太陽にお初にお目にかかります。私はメイリシェーン・ウィステリアと申します。この度、皇太子殿下と共に学べる事、幸甚に存じますわ」

 

 俺が声をかければ、ウィステリア嬢はスカートの端を小さくつまみ俺の前で美しいカーテシーをした。流石、公爵家のご令嬢だ。

 

「ウィステリア嬢、顔を上げてくれ。ここでは階級など関係なく、みな平等に学園の生徒だ。堅苦しい挨拶はいらないよ」

「承知いたしました。これからどうぞよろしくお願いいたしますね」

 

 そう言いながらウィステリア嬢は小さく膝を曲げ挨拶をした。

 その後、カロイドとも挨拶をしたところで丁度他の生徒たちが教室へと入ってきたので、各々自分の席についた。

 

 暫くすると教師が来て、授業が始まる。…と言っても、初日なので軽い説明のみを終わらせ、すぐに帰宅時間となった。

 カロイドと共に迎えにやってきた馬車へと乗り込む。

 

「ウィステリア嬢、実物は写真よりお美しかったな。縁談断ったの惜しくなったんじゃないか?」

 

 俺が窓の向こうで後ろへと流れていく景色に目を向けていれば、カロイドが冗談交じりにそう言った。

 

「…確かに綺麗だったけど、言ったろ?俺は心に決めた人が居るんだよ」

 

 俺がそう答えれば、カロイドは満足したようで“そうだったな”と笑って、俺と同じように窓の外へと視線を向けた。

 

 何故、社交界に出ない俺が初対面である彼女をウィステリア嬢だとわかったかと言えば、以前、彼女の父親…ウィステリア公爵から14歳にして未だ婚約者のいない俺に彼女との縁談の打診があったからだ。

 

 その時父上に渡された釣書の中に彼女の姿があった。

 俺はそこで初めて気が付いたのだ。

 

 父上にブロジットと契約したと伝えていないことを。

 

 慌ててその事を伝えたのだが、普段子供に甘い父上に信じられない程冷たい声と口調で叱られた。

 

 当たり前だ。本来、皇族や貴族の縁談は政略的な面を持ち、親同士が決める物だ。それなのに、親を通さないばかりか他国の皇太子と勝手にやり取りをし、父上ともルージュリアの父親であるクリネスト公爵とすら話をしていないのだから。

 

 しかし、もう俺(その時はまだ俺ではなかったのだが)は判を押してしまっており、その契約書にはノワール王国の王印とクリネスト家の印影もある。

 つまり書面上は正しく処理がされており、簡単に覆すことはできない物になってしまっている。

 

 父上は慌てて人を送り、このことについて確認の連絡をした。

 するとすぐに答えは返ってきた。

 その内容は、要約すると“婚約が解消された場合は貰って行って構わない”というもので、ひとまず、国際的に大きな問題にはならず安心はした。しかし、その文書の内容はルージュリアの事を明らかに軽視していることが滲み出てきているもので、そのことについても父上は少し怒っていた。

 父上が言うには“愛娘を他国に嫁がせるのになんだこの言いぐさは!”とのことだ。アルミラという娘を持つ父親としてこの対応は信じられない様だった。

 

 ここでふと、思った。今までの対応を見た通り、父上は子供に甘い物の馬鹿ではない。

 ならば、ゲームのミラージルがルージュリアを迎える時何も言わなかったのだろうか?

 それに、いくら子供に甘いとは言ってもひたすらに甘いという訳ではなく、今回のようにしっかりと叱ることもできる。

 そんな父上がゲーム上の何もしていない、愚かで暴君で引きこもりの俺を皇帝として認めるだろうか?

 いくら男児がミラージルしか居ないとは言えど、アルミラはいるのだ。アルミラを女王とし、我が国の公爵家から婿を取ればよかったのではないか。と。

 

 ゲーム上の父上が今の父上よりも愚かだっただけかもしれないし、もしかしたらこれがルージュリアの行動と周りからの評価の矛盾に関係するのかもしれない。


 しかし、いくら考えても今の俺には何も分からない。


 窓の外の景色はもう見知ったものに変わっていて、どうやら我が家の敷地内にはもう入ったらしい。


 程なくして馬車が止まりカロイドが降りるぞ、と声をかけてくれる。


 俺は馬車を降りながら、考えれば考える程こんがらがっていく思考を止めた。

お読みいただきありがとうございます。

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