次の日しこたま怒られた
「以上が僕の意見です。いかがでしょうか、父上。」
俺達の立つ場所よりも幾段か高い位置にある玉座に座る父上を見上げた。それと同時に目深にかぶっていたフードを外せば、クリアになった視界の端に、現れたその髪色に目を見開き唖然とするウォルの顔が移った。
「うむ。私の教えの通りだ。して、ウォル卿。そなたは先ほど、この者…私の息子であるミラージルに思想を植え付けたその家族を死罪に処すと言っていたな?」
「あ…いや…あぁ…」
父上が一瞥すればウォルはその言葉の意味を悟ったようで顔面を蒼白させて言葉にならない呟きを漏らす。
それもそうだ。今まで彼が散々家族もろとも私刑により死罪にするべきだと言っていた相手は皇太子であり、その家族…つまり皇族を殺害すると皇帝に言っていた様な物なのだから。これだけならまだ、重い罪にはなるが、実行に移していないので情状酌量の余地はあり、ヌース伯爵家との絶縁と帝都周辺の出入り禁止で済んだかもしれない。
しかし、彼は既に俺を攫い、あと一歩で殺すところまで行ってしまっている。これは紛れもなく皇太子を誘拐した罪に問われるし、憲兵が来なければあのまま俺は死んでいたので殺害未遂ももれなくついてくる。普通に考えて処刑は免れないだろう。
しかし、処刑となればこの事実は他の貴族間にも知れ渡り、ヌース伯爵家への汚名は免れないだろう。
俺としてはヌース伯爵家自体の悪かったところと言えば、監督不行届位であると思っている。現にウォルの兄であるヌース家の長男は堅実な性格であると評判の人物である。結局、親がしっかりと教育していても、どうにもならないこともあるのだ。
そんなウォル以外は優秀な家族にあまり汚名を着せることはしたくないので、ウォルに与える罰については、なるべく処刑以外の方法を提案したい。
「父上、この者の処罰については私から提案があります」
「ほう…言ってみよ」
ウォルの期待のこもった視線が瞬時に俺へと向く。小さく動く口元を良く見ると小さな声で「無罪、無罪」と繰り返し呟いているようだった。…こいつは、この期に及んで、俺が自分を助けてくれるとでも思っているのだろうか。なんというおめでたい頭。そもそも知らなかったとしても皇太子にあれ程の事をしておいて無罪な訳がない。
俺はそんな馬鹿からは視線を外し、こちらを見つめる父上へと視線を戻した。
「この者の家族…ヌース伯爵家は民たちからの人望も厚く、この者の兄も将来を期待されております。そんな中実弟が皇族を拉致し殺害未遂の上処刑となれば、そんな優秀な臣下を失うことになります」
「確かにそれは私としても痛いな…」
ウォルは俺達のやり取りを聞いて、本当に無罪になるのではないか、と考えているようだ。しかし、そんな期待は俺の次の言葉で早々に崩れることとなった。
「…なので、この者の処罰は、ヌース家との絶縁の上、最北にある炭鉱で無期限の労働が最適かと思います。丁度人手不足で悩んでいる炭鉱がありますし、破落戸達も一緒に送れば多少は役に立つでしょう。処刑では誤魔化すことはできませんが、この方法なら他の者たちには心を病んで領地に引きこもっていると言ってしまえば良いですし」
いかがでしょうか、と付け加えれば父上は深く頷いた。俺の提案を父上はお気に召したようだ。
「なるほどな…良い、その案を採用しよう。聞いていたか皆の者、至急ヌース伯爵へ連絡を取り、事の顛末を伝えよ。ヌース伯爵からの返答が来るまで、そこにいるウォル・ヌースは地下牢に投獄しておけ」
「は!承知いたしました!」
父上の声に、周りにいた騎士団が速やかにウォルを地下牢へと連れていく。最早暴れる気力も削げ落ちたのか連行されるウォルは人形のように静かで、あっという間にその姿は見えなくなった。
「うまくいって良かったな」
自室で髪を乾かしているとソファーに座るカロイドがそう言いながらにやりと笑う。
路地裏に連れていかれ地面に転がったことで砂埃まみれになった俺は、あの後、父上の解散の令により自室に戻った後すぐに風呂に入った。
「そうだな。まぁ、上手くいく自信しかなかったけど」
俺は乾かし終わった髪にブラシをかけ、カロイドの正面にあるソファーへ腰かけた。
「よく言うよ。俺がどれだけひやひやしたか…」
「大丈夫だよ。俺だってお前には今は多少劣るかもしれないけど剣術だって習ってるし、攻撃魔法だって使えるようになった。あそこで憲兵団が間に合わなくても自衛してたさ」
俺達が図書館で建てた計画はこうだった。
まず、俺より十分早く図書館を後にしたカロイドはすぐさま憲兵団へと連絡し、事情を説明した。その後、すぐに図書館の近くへと戻り、俺が連れ去られるその後を尾行。
国立図書館はそれなりに大きな施設なのでその周りもそれなりに栄えており、人通りも少なくない。数分であれば人が居ない隙を狙うこともできるが、長時間となると無理だろう。大声を聞きつけられる可能性もある。ことからもし犯行に及ぶなら確実に人気のないところに連れていかれるだろうと思っていたので、拉致されることも作戦に入れておいた。
「俺が戻ってきたときにはお前が既に運ばれ始めてて焦ったよ。」
「そういえば戻ってくるのちょっと遅かったよな。何かあったのか?」
「いやー…報告しに憲兵団の駐在所に言ったら兄貴がいてさ、事情を説明したら“殿下になにさせてるんだ!”って説教食らってた」
カロイドはその時のことを思い出したのか深いため息をついた。俺が提案したことなのにカロイドが怒られてしまうのはなんだか申し訳ない。
「…なんかごめん」
「ま、護衛としては提案された時に反対するべきだったんだろうから、兄貴に説教されるのも仕方ない。結果として間に合ったからよかったよ」
その後、無事に俺に追いついたカロイドは土魔法を使い、憲兵団へ俺の居場所を知らせた。
カロイドに適性がある魔法は土属性だけなのだが魔力はそれなりにあるようで、自分のいる地点から憲兵団のいる場所の地面まで魔力を流し、ぼこぼこと地面を線を描くように隆起させることで、居場所を伝えたらしい。
その後は、その線を伝って俺の元へ駆けつけた騎士団によって俺は助け出されたことを確認した後、その場にカロイドがいるとややこしいことになるので急いで城へと戻り、俺や今は貴族であるウォルが関わっていたので騎士団に、そして父上へと事情を説明した。
「騎士団の人達にも、最初は非難されたけど、皇帝陛下が庇ってくださったから助かったよ」
騎士団に所属している者は皆皇族に忠誠を誓っている者である。だからこそ、俺を危険に晒すことを良しとした侍従兼護衛であるカロイドを皆非難したのだろう。本当に申し訳ないと思っている。
「ほんとごめんな…」
「はは、だから良いって」
俺が謝罪の言葉を述べるとカロイドは軽く笑って許してくれた。
申し訳なく思いつつもその優しさに安堵し、時間も遅くなっていたのでカロイドと解散して、反省の念を思い浮かべながら俺はベッドに入った。
父上とは、明日しっかり話さなければ。
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