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目は口ほどに  作者: とこ
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噂は所詮噂である

 俺が図書館へ行かなくなってから3か月がたった。

  この3か月、直接連絡を取ることはできていないが、勿論近況は掴んでいた。侍従を選ぶために行った剣術、知識、学習能力等の様々な試験をカロイドが突破する度にその試験の担当者から報告が上がるからだ。

  なぜ3か月も選考に時間がかかっているかと言うと、立候補者それぞれの家柄を調べ、謀反を企てて いる者はいないかなど確認する為であった。カロイドの実家であるゼール男爵家は平民と密接かかわる憲兵団を管理している為か民衆からの評判が良く、男爵本人もその息子たちも自身の仕事に誇りを持っている為黒い部分は何も出てこず、無事能力値以外の試験も突破することができた。


  こうして、様々な試験を潜り抜け、最後の試験である“皇帝陛下(父上)との面談”へと辿り着いたものはカロイドを含めたった三人だった。

  ここまでくれば、正直俺の中ではもう既に己の侍従はカロイドだと決まっていたのだが、やはり将来は皇帝の側近となる人物の選定だ。まだ学園にも通っていない子供に一任することはできなかったのだろう。多忙な父上がこのためにわざわざ時間を割いてくれたので、中途半端な試験にすることはできない、と遠慮なく俺の考えていた選定のための作戦を提案させてもらった。


  表向きは、皇太子の侍従になる為の志や礼儀作法が身についているか見定めるため、という名目で行われた皇帝陛下との面談(最終試験)ではあったが、本来の目的はそんなくだらない事を確認する為ではなかった。だって、志など皇帝となる者が持っていれば良い物で、側近は持っていなくても構わない。むしろ強い志は側近が持っていれば邪魔になるだろう。礼儀作法についてもそうだ。最低限出来ていれば今は構わない。これから俺と一緒に嫌という程学ぶだろうから。


  では何を見定めるために皇帝陛下(父上)との面談を行ったか。それは噂に流されずきちんと自身で裏付けをとれるか、という点である。

  なぜ、こんなことを確認したいかといえば、それは将来の俺の嫁であるルージュリアが理由である。

  これは俺の勝手な憶測なのだが、ゲーム内でのルージュリアの悪行や民からの評判については、最初は彼女を妬んだものが伝えた小さな噂だったのではないか。もしくは、ブロジットと結婚したい主人公(アイシャ)が婚約破棄のため意図的にルージュリアの悪評を流したか。ただでさえ噂が広がりやすい社交界。人から人へと移る中で小さな噂はどんどん肥大し、結果ルージュリアはとんでもない悪女と噂されるようになったのではないか、と。でなければ、スチルの端で人に見られぬ様フードを被りこっそりと平民街へと出かけ、民に笑いかけていたルージュリアの説明がつかない。

  まぁ、全て俺の憶測なので実際のルージュリアの性格は今のところ分かっていないが、それは実際会ってみればわかる話だ。それに俺も元々噂に流される様な者は好きではない。ルージュリアの事が無くても、そんな愚者は雇わなかっただろうが。


 俺が噂に流される人材かどうか、見極めるために取った行動はたった一つ。

「皇帝陛下は皇太子を既に見限っており、そんな皇太子を引っ張っていける側近を探している」「皇帝陛下は甘い物に目がなく、最終試験の際に好物を献上すれば試験を有利に進められる」という2つの嘘の情報を噂として流しただけだ。

 

  まず一つ目の嘘は俺が引き籠っている間に勝手に流れていた噂である。実際は、父上は極度の親馬鹿であり、俺が絶賛引きこもり中も見限ってはいなかった。しかし、そんな噂も最近では俺が復活したことにより大分下火になっていたので再度蔓延する様流しておいた。

 二つ目に流した情報も一つ目と同様完璧な嘘である。まず、甘い物に目がないのは皇帝陛下(父上)ではなく皇后陛下(母上)だ。皇帝陛下(父上)は甘い物を人並程度には食べるが特段好きという訳でもない。本当に好きなのは肉である。

 更に皇帝陛下(父上)は賄賂などを好まない為、こういった試験の際の献上品は逆に好感度を落とすものとなるだろう。


  どちらも、まさに根も葉もない噂。少し調べればその内容が間違いだと分かるものだ。


  しかし、結果や、試験の様子が書かれた記録書や、父上からの報告から、実際最終試験(父上との面談)にやってきた者の中で、愚者で無かった者はカロイドだけだったということが分かった。


  まず一人目はどこかの子爵家の次男だった。こいつは聞いた噂を碌に調べもせず鵜呑みにし、今話題のスイーツ店のケーキを献上品として持参して、尚且つ面談の際には「私が皇太子殿下の手綱をしっかりと握って国を治めていきたい」と声高々に演説したらしい。

 その話を聞いたときは馬鹿か、と思わず口に出そうになった。仮に、本当に皇帝陛下(父上)皇太子()を見限っていたとしても、一国の皇太子の()()()()()などと言ったら、傀儡を狙っているのではと思われても仕方ない。勿論、ここまでこいつが試験を勝ち上がってきた時点で、こいつの実家である子爵家自体にはそのような気は一切ないことは調べがついているので、手綱を握る、などはこの次男が口走っただけに過ぎないが。


  次に二人目、こいつは一つ目の噂は嘘だと気づいていたのか面談の際、俺のことを見下すような発言 は無かった。しかし、肉を献上品として持ってきていたのだ。おそらく、父の好物が甘い物ではなく肉であるとの情報は掴んだのだろう。だが、それを献上品として持ってきてしまえば結局は噂に流されているのと同じ。結局のところ父の人柄を調べることをしなかったのだから。


  そして、いよいよ最後に面談を受けたのはカロイドだった。カロイドは皇太子を見下す発言もせず、献上品も持参してこなかった。

 面談では、「新たな知識を吸収し、皇太子殿下のお力になりたい。それがいずれこの国の民の為にもなるだろうから」といった内容の演説をし、父の心を湧かせた。


「今まで悪評の多かった皇太子が行う政治が民のためになる、という考えがあるというところが良かった」


 と、後に父は笑顔で語っていた。

  そして献上品も持ってきていなかったため、そのことについては父が直接なぜ持ってこなかったのかと聞いたようで、面談の際の会話を全て記録した記録書に会話の一部始終が記載されていた。


「おぬし、ここに来る際、他の者たちは献上品を持ってきたがおぬしは何も持ってきておらぬのか?巷で私の好物について聞いたであろう。」

「はい、皇帝陛下のお好きな食べ物についてはいくつかの噂を耳にいたしました。まず最初に耳にしたのは、皇帝陛下は甘い物がお好き、という噂です。なので、甘い物のなかで何が特にお好きで、何を良く口にされているのか調べました。しかし、甘い物について調べても出てくる情報は全て皇后陛下の事でしたので、甘い物がお好きなのは皇帝陛下ではなく、皇后陛下なのかもしれない、という考えに至りました」

「ほう…、ではおぬしは私の本当に好きなものは何だと思う?」

「これは私の憶測でしかないのですが、肉…その中でもムームー牛の肉ではないかと。陛下のお好きな食べ物をお調べする中で一番よく名前が出てきており、実際陛下のお墨付きをいただいているレストランである、“デリシュノンブルー”の一推しメニューはムームー牛のシチューでした」

「ふむ。良くそこまで調べ上げたな。確かに私の好物はムームー牛の肉だ。ではなぜそれを献上品として持ってこなかったのだ?献上すれば贔屓をしてもらえるとは思わなかったのか?」

「それです。私も面談の際に献上品を譲渡すれば試験を有利に突破できる、との噂が流れていたのは知っています。しかし、私はその噂を耳にした時どうにも腑に落ちなかったのです」

「腑に落ちない…なぜだ?」

「僭越ながら私は、今まで陛下が他国との間で行われた外交や、法律改正などで行った国内の貴族との交渉。また、不正を行っていた者への処罰を行った際の記録を拝見させていただきました。その中で一度もあからさまな贔屓や犯罪の隠ぺいを目的とした献上品や貢物で自身の意見を変えられたり、贔屓された記録は無く、渡された品も全てお返しされているとのことでした。さらに犯罪の隠ぺいの為賄賂を渡そうとした者は規定よりも重い罰を課せられています。そこから見るに、むしろ皇帝陛下はそんな賄賂の様な物はお嫌いなのでは、と考えました。なので、この度は献上品など何もご用意せず伺いました。このことで、皇帝陛下のご気分を害されたのであれば、大変申し訳なく存じます。」


  以上が、試験の際にカロイドと父上の間で交わされ記録された、献上品についての会話の一部始終である。

  俺はこの記録書を読んだとき流石だ、と感嘆のため息をついてしまった。ちなみに父も“あの子しかいないよ!!”と喜んでいた。当たり前かもしれないが、父上は家の中と外でのテンションがかなり違うようだ。


お読みいただきありがとうございます。

今回はセリフばっかりになってしまいました…

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