乙女なら惚れてた
カロイドと最後に話してから二日が経った。俺は今日も図書館に向かっている。
先日俺が出した侍従募集の情報をそろそろカロイドも見ているだろうと思い、話を聞き行くのだ。
いつも通り護衛を残し図書館に入り館内を見渡すと、人もまばらな館内ではすぐにカロイドの姿を見つけることができた。
しかし今日は、本に囲まれてはおらず、一冊の本を手元で開いているのみだった。しかし、その本に目を移してもすぐに何かを探すようにきょろきょろと辺りを見回している。カロイドの座る席まで近づいていくとその良く動く視線と目が合った。
途端に彼が本を閉じ立ち上がったので、俺も速足でカロイドの元へと近づく。
決して走ったりはしない。図書館だから。
「ラージ!やっと来たか」
「やっとって。ずっと待ってたのか?」
カロイドの近くまで行った俺の肩をバシバシ叩く彼から隣の席に座るよう促され、その場に着席する。
「あー、いや、今日はついさっき来たところ。でもお前に会うために昨日も来たけど結局来なかったから、実質昨日から待ってるってことになる。だから、うん、ずっと待ってた。」
「なんだよ、そんなに俺に会いたがって。この前教えた皇太子の侍従の話?」
あいにく俺も皇子教育で中々に忙しいし、カロイドもそれなりに忙しい日々を送っているだろうと思い、会いに来るまでに二日開けたのだが、まさか昨日も俺のことを待っていたとは。可愛いやつだ。
「そう、それだよ!話を聞いた日、帰って早速確認してみたら本当に募集の情報が出てたから、速攻で手紙を出したんだ。そしたら次の日返事が帰ってきて、まずは一週間後に剣術のテストだって!」
いつにない程高いテンションで話すカロイド。
俺の侍従募集の面接手順はこうだ。
まず、応募者には指定の場所に自己PRを書いた手紙を送ってもらう。その手紙の中で一定基準を満たすものに剣術のテストを行う日程と場所を書いた手紙を送る。そこで合格した者には今度は学力や頭脳を確認するためのテストだ。その次は学習意欲、学習能力のテストをする。どれだけの知識を短時間で詰め込むことができるのかということも確認しておきたいからだ。
テストの日程が書かれた手紙が届いたということはユメール先生の御眼鏡に適う自己PRを書けていたようだ。
「へぇ、ていうかお前、行動が早いな」
「当たり前だろ?思い立ったが吉日っていうしよ。…それにしても、皇太子さまの侍従試験なんてどれだけ厳しいか想像もつかねーなぁ。立候補はしてみたけど、正直自信なくなってきてさ」
はぁ、とカロイドが一つため息をつく。どうやら俺に会いたかった理由の中に、応募したことを報告するということと、言葉にはしていないが勇気づけて背中を押してほしいという気持ちもあったようだ。その気持ちを汲み取って彼の肩をポンポンと叩く。
「よぉ、ゼール男爵のとこの五男じゃないか」
お前なら大丈夫だ、と励ましの言葉をかけようと口を開けた瞬間、背後から俺の声に被せる様に突然声をかけられ、遮られてしまった。
声のする方へ二人揃って視線を向ける。そこには俺は会ったことのない俺たちと同じ年頃の少年が立っていた。
「……ヌース伯爵令息」
苦虫を噛み潰したような顔でカロイドがつぶやいた。声色を見る限り、二人は決して友人同士、という訳ではないのだろう。
そんな二人のやり取りを何も言わずただ見ていた俺にヌース子爵令息とやらが視線を向ける。その視線はすぐにカロイドへと戻されたが、俺に向けられたその一瞬で目の奥に浮かぶ侮蔑の様な感情がたやすくくみ取れた。
「聞いたぜ、お前も皇太子様の侍従募集に立候補したらしいな」
「まぁそうですけど…」
ニタニタと下卑た笑みを浮かべるヌースがどけよ、と言いながら俺の身体を椅子から落とすように押してきたので大人しく俺は席を譲った。大方、平民か、どこかの下級貴族だとでも思ったのだろう。
「無謀な挑戦はやめておいた方がいいぜ?お前みたいな弱小男爵家の五男なんかが選ばれるわけないって」
「そんなの…やってみなきゃ分からないじゃないですか」
反論するカロイドの言葉を、ヌースは鼻で笑いながら俺の方を一瞥した。
「ハッ、こんな奴と一緒にいる時点でお前はもうダメなんだよ。無駄な時間過ごしてないでちゃんと勉強したらどうだ?ま、脳筋ゼール家の息子じゃ勉強しても意味ないかもしれないけどな」
カロイドの頭脳を嘲笑うこいつに思わず冷笑が漏れそうになる。こいつはカロイドがただの脳筋だと思っているのか、ゼール家の息子だというだけで。大方、身分を笠に着て、まともにカロイドと話をしたことがないのだろう。一度話をしていれば話の端々に現れる知識の豊富さに気が付く。ま、このどうしようもない馬鹿は気づかないかもしれないが。
そんなことを考えていると、カロイドが立ち上がり椅子を追い出され突っ立っていた俺を守るように立ちはだかってくれる。
「…彼は僕の友人です。侮辱しないでいただきたい」
「ふーん。そんな何の役にも立たなそうな奴と友人なんて気が知れねえな。所詮お前も同類ってとこか」
これでもかという程見下した目でこちらを見るヌースの視線から俺を守るように、目の前に立つカロイドが眩しい。平民が貴族に目をつけられたら一溜りも無いと考えての行動だろうが、その姿に俺の心が乙女なら確実に堕ちていた。
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