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目は口ほどに  作者: とこ
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求は文武両道

図書館に入る時はいつも護衛騎士達には入口で待ってもらうことにしている。

深く帽子を被っているため、俺が皇太子ということに気が付いている者はいない。


「よっ。やっぱり今日も居たか」

「うおっ、なんだ、お前も来たのかラージ!」


隣に本を高く積み上げ、手中の本を読みふけっている一人の青年の頭に腕を乗せ、軽く体重をかける。相手は驚きの声を上げるもすぐに振り返って俺の顔を見るなり表情が明るく笑った。

俺をラージと呼んだこの青年はカロイド・ゼール。ゼール男爵家の6男だと初めて会った時話していた。ちなみに俺はただラージとだけ自己紹介したので彼が俺を何だと思っているのかは分からない。最初は敬語を使っていたが、身分にあまり拘らない彼が平民かもしれない俺にため口を許したのでこんな口調だ。


「相変わらずの本の虫だな」

「仕方ないだろ、家だと読めないんだから」


カロイドの実家であるゼール家は代々王都の憲兵団を取りまとめている家だ。その為、学力や知識よりも武力という意識が強いので、家族内で読書を趣味とする者はカロイドしかおらず、以前家の中で読書しているところを家族に見られ時は散々揶揄われた後、剣術の訓練に強制参加させられたと以前カロイドがぼやいていた。


「そんなに本が好きなら司書とか目指せばいいのに」

「無理だろそんなの。今朝だって稽古の時散々剣術の素晴らしさについて語られたんだ、そんな中違う仕事に就きたいなんて言ったら、どんな目に合うか」


もしもカロイドが、剣術が下手なインドア派で憲兵や騎士に全く向いていないとなれば両親も無理に憲兵団や騎士団に入れとは言わなかっただろう。しかし、実際の彼はしっかりと文武両道で、そんな彼が憲兵団に入らないことなどありえないと両親は思い込んでいるらしい。


ちなみにこの国では憲兵団と騎士団がどちらも存在する。

貴族の護衛や、一度戦争になった際に駆り出されるのは騎士団だ。団員は皆貴族出身であり、平民が騎士団に入団できるのは実力があるのは勿論、貴族からの推薦を受けたものだけだ。

対して憲兵団は日本で言う警察の様な立ち位置であり、平民の安全や秩序を守るのが仕事である。多少の道路整備などを請け負うこともある。こちらは主に平民で構成されており、貴族出身の者は少ない。


お互いに住み分けがしっかりとできている為、特に派閥などは無く、皇帝陛下に忠誠を誓い、国へと身を捧げる意志があるものは騎士団に。国の治安を良くし、平民の生活をより慮りたいと考える者は憲兵団に入る。…という認識にはなっているが、実際の所、貴族が憲兵団に入ることはほぼなく、一部の貴族間では騎士団のほうが憲兵団よりも上だと思い込んでいる者もいる。悩ましいことだ。


「それに俺は別に剣術が嫌いな訳じゃねーからな、動くのも好きだし。だからずっと図書館にいる司書の仕事はきっと向いてない。」

「じゃあ、本もたくさん読めて、剣術もできる職場がいいのか」

「そーそ、さらに飯も美味けりゃ最高!…って、そんな都合のいい仕事無いだろうけど」


はぁ、とため息をつきながらカロイドが机に頬を付け突っ伏した。

確かに、この男は本が好きだが、活字中毒という訳ではない。本を熱心に読むのはただ強い知識欲を手っ取り早く埋める方法が読書であるからに過ぎない。そんな彼は司書という本に特化した役職に就かせるにはいささかアクティブすぎるだろう。


「そういや、風のうわさで聞いたんだけど皇太子が今侍従を募集してるらしいぞ」


俺の言葉にカロイドが突っ伏したまま視線をこちらに向ける。


「侍従?」

「ああ。なんでも、将来は側近にすることも考えているらしく、それなりに頭が良くて、腕の立つ者を探してるらしい。行ってみたらどうだ?」

「へぇ。でも、将来は側近になれるなんておいしい話、皇族に近づきたい高位貴族の奴らが皆応募してるだろ。そんな中、せいぜい男爵位の俺が合格なんてできるわけねーよ」


カロイドは俺の話を鼻で笑いながらもこの話には興味が沸いたのか、突っ伏していた頭を上げ今度は頬杖を突きながら俺に続きを話すよう促してくる。


「それがな、皇太子が求めてるのはただの侍従じゃないらしい。」

「というと?」

「なんでも、侍従になった暁には語学から経済、政治まで全部完璧に学ばせるつもりらしい。それに加えて一般的な侍従としての仕事もこなさなきゃならない。しかも頭がいいだけじゃだめで、剣術もできなきゃダメ。勉強が好きで体力があって腕も立つ様な人間なかなかいないだろ」


最初は話半分で聞いていたカロイドも、俺が皇太子の求める条件を言い終わるころには、もう頬杖はついておらず、目の奥を僅かにキラキラとさせながらこちらを見ていた。しかし、はっと何かに気づいたように、目を見開けばそのまま疑わしそうな視線を俺に向ける。


「でも、皇太子の侍従なんて、どこかの貴族の家で侍従としての経験を積んだやつじゃないとだめなんじゃないか?」

「いや、そこは皇太子も妥協したらしく、未経験でもいいらしい。ま、入ってから覚えることは大量にあるだろうけどな。それに、年齢的にも同じ年頃の者を募集しているらしいから経験を積んだライバルも少ないだろう。…どうだ?好きなだけ勉強もできて、多少の護衛を兼ねてるから身体も動かせる。お前にぴったりじゃないか?」


最後に、“皇宮での仕事なら飯も美味いんじゃないか?”と付け加えれば、カロイドの意志は決まったようで、そそくさと周りに積まれた本を片付け帰り支度を始めていた。俺はカロイドに気づかれないようにほくそ笑みながらその様子を眺める。そうこうしている内にカロイドは変える準備ができたらしく、最後に自分の荷物を担いで俺に振り返った。


「いい情報をありがとう。それにしても、こんな情報、どこで知ったんだ?」

「最初に言っただろ、風のうわさだって。でも情報は確からしいから安心しな」

「風のうわさねえ…ま、いいや。もう一回自分で確認してみるよ。嘘だったらただじゃ置かないからな」


軽口を言いながら俺の肩を軽く小突いて席を立ったカロイドは、またな、と手を振り出口へと向かっていく。



皇太子の侍従面接はなにも完全な出来レースという訳ではない。カロイドよりも俺が求める条件に当てはまり、さらに俺が心を許せるものがいるならば、将来俺の側近となるのはまた別の誰かになるのだろう。しかしカロイドさえその気になれば、採用されるのはカロイドなのだと俺は信じている。


カロイドの実家ゼール男爵家は憲兵団を総括している家紋ではあるものの、政治的力はそう強くない。何故なら憲兵団は貴族よりも平民に密着している組織だからだ。

当代のゼール男爵は自分の仕事、憲兵団に誇りを持っているが、そのことも良く理解している。だからこそ、自分の息子達には一番出世と安定した立場確率が可能な就職先である憲兵団に入るよう勧めていた。それが息子たちにとっての幸せだと信じて。


しかし、この度カロイドには“皇太子の侍従兼護衛(将来の皇帝の側近)”という役職を用意した。この役職なら、憲兵団にただ入るより、皇族との繋がりもでき、皇族の護衛という立場も得て剣術に対する実力も示せる。これならゼール家がカロイドを憲兵団へと引き止めることは無いだろう。


カロイドが図書館を出るその背中を見届け、俺はいそいそと自分の帰り支度をした。きっと、最終面接まで残ったあいつは皇太子()と対面して驚愕するだろう。その時が今から楽しみだ。

お読みいただきありがとうございます!

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