複合魔法について
今日も今日とて日課である城の周りのランニングをしていると肩口で揺れる自分の髪が汗でぬれた頬に張り付き邪魔くさい。ウォーキングではなく、ランニングをしていると、だ。
髪を切ったあの日からもう半年が過ぎた。
もうウォーキングだけで息を上げることは無くなり、城の周りを毎朝2週走っている。最近は運動メニューに筋トレも加え、剣術の指導も素振りだけでなく実際に打ち合わせてもらえることも増えた。
体型はかなり変わったと思う。…とはいっても、スタートがかなりの肥満体型だったため、巨デブがおデブに変わった位ではあるが。
肌荒れも殆どなくなって、最近ではアルミラや母上と更なる美肌を目指す美肌談義に花を咲かすことも少なくない。
「ミラージル殿下、タオルとレモン水でございます」
「ああ、ありがとう」
いつも通り、ランニングを終えた俺に少し冷えたタオルとレモン水をメアリが渡してくれる。半年経つが、俺の侍従にするのに特にめぼしい人材もおらず相変わらず俺の専属はメアリだ。
いつかメアリには俺に嫁いできたルージュリアの専属になってもらいたいな、なんてぼんやり考えている。その為にも俺の侍従となる逸材を雇わなければ。
これでも、何度か侍従希望の人間の面接などを何度か行いはしたのだが、皆表面では繕っていても、背が小さく横に大きい短髪の俺に対する嘲りが目の奥に透けていて駄目だった。
今まで、様々な貴族の家で務めてきた者たちからすれば、俺の姿はみすぼらしかったのだろう。
別に、俺を見下すのは構わないが、それを表に出してしまう様な人材を俺は求めていないのだ。どうせ一緒にいるなら優秀な人材がいい。
それに、実はもう目をつけている人材はいるのだ。
「メアリ、午後の予定は?」
今日の分の課題をやり終え、昼食をとりながらメアリに問いかける。
「本日は魔法学の授業の後は自由時間となっております」
「そうか…それなら、魔法学の授業の後は図書館にでも行ってくるかな」
「承知いたしました。護衛騎士に申し伝えておきますので、ご出発される際にお声かけください」
分かったと返事をしながらパンの最後のひとかけらを口に放り込む。今日の昼食はカボチャのポタージュとエビの乗ったシーザーサラダ、蒸し鶏のレモンソース掛けとライ麦パンだ。もうこの量でも満腹感を得られるようになってきたが、最近は剣術の先生の勧めで肉の量を増やしてもらっている。やっぱり筋肉をつけるには肉が大事なんだそう。
食後の腹ごなしに廊下を歩いていたら目の前から魔法学の講師であるイマルジェ先生が歩いてくるのが見えた。
「イマルジェ先生」
声をかけた俺に気が付いたイマルジェ先生が先程よりも速足で俺の元に近づいてくる。
「あ!ミラージル氏!今日も白玉みたいな魅惑のほっぺですねぇ!」
「はは、先生は会うたびにそれ言ってきますね」
この人は最初は常識人みたいな態度で接してきていた癖に、俺の肌が綺麗になってきた途端急にキャラが変わった。本人曰く美肌フェチ?らしい。
ツンツンと俺の頬をつつく先生の指を捕まえて止めた。
「先生、今日の授業では何を教えてくれるんですか?」
「今日はですねぇ…氷魔法の出し方について勉強してみましょう」
先週出された課題を先生に提出しながら今日の授業内容について聞いてみると、先生は俺の課題の丸付けをしながら答えてくれた。
「いよいよ複合魔法についてですね!」
「はい。ミラージル氏はこの半年間、空白の四年間に勉強すべきだった内容を頑張って学習されたので、とうとう複合魔法について勉強してもいい頃かなとおもいまして」
氷魔法、および複合魔法とは、水、火、風、土などそれぞれの属性を混ぜ合わせて発現させる魔法の事を言う。例えば、風呂に入るときの湯を出すことや、髪を乾かすとき温風を出すのもそのうちの一つで、あれは火属性と水属性の複合魔法だ。…風呂に関することばっかりだな。
…ともかく、なぜ、お湯を出す水と火属性の複合魔法は既に使えているのに、水と風の複合魔法である氷魔法は教わらないと使えないのか。それは、それぞれの属性と目的に関係する。
火属性は火とは表されているが、魔力の本質熱だ。水に熱を加えると水は温かくなる。だからお湯を出したいときには水属性の魔力と火属性の魔力を自分の中で混ぜ合わせて放出すれば、自然と自分の望む温度になって出てくるのだ。自分の中で魔力を混ぜるだけなので水と火の混合魔法は要領が良ければ教わらなくても自然と出せる。温度の調節などは多少訓練が必要だが、それは自主練習で何とかなる。温風を出すのも水が風に変わっただけで同じ原理だ。
しかし、ひたすら風を当てていたところで多少冷えはするだろうが水は氷にはならない。なので、水と風の魔力をただ混ぜても風魔法単体で使うより少し冷たい風や水が出るだけで、氷を作ったり、物を冷やす様な魔法が使えるわけではない。
「混合魔法はそれぞれの属性魔法を単体で使う時よりも魔力の消費量が大きいです。ミラージル氏は魔力量が莫大なので心配はいらないかと思いますが、そのことは意識してくださいね」
「分かりました、気を付けます」
「いい返事です。それじゃあ、さっそく練習してみましょうかぁ」
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