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パスクアの踵を冷たい風が撫でる。
もがきあがいた行動も、甲斐もむなしく山腹の崖に差し掛かり足が止まる。
激しく地面を削りながらせまる雷は輝きと共にパスクアの目の前の土を抉りながら、
怯える獲物へと牙をめり込ませた。
駆け抜ける事なく目標で立ち止まった雷は激しい雨のように降り続け、
パスクアの落下速度を上げて山麓へと共に落ちていく。
抉られた土はパスクアを追いかけるように一緒に身を投げていった。
雪崩れ込むように音を刻み続けアウトロを弾き切った後、
鳥肌が収まるのを待ってから顔を上げて前を向く。
俺、何かやっちゃいました?と言いそうになるのをグッとこらえると
パスクアの反応を待った。
『な……なんと素晴らしい曲だ……』
発せられるであろう言葉を想像する。
そうだろうそうだろうとも。
悶絶必死の楽曲の展開に、感情が追い付かないなんてのはザラだ。
心に押し寄せる波に身震いする、あらがう事は出来ない。
「あれ……?」
アキラは辺りを見渡すがあれほど巨大だった生物の影は無く、
荒れ果てた地面がただただ勘弁してくださいと言わんばかりの表情でこちらを見つめていた。
「また……、やってしまったのか……?」
庭の石像とは違う。
まるで漫画で言う所の立ちふさがる強敵のようなナリをしていたにも関わらず、
かつあれだけ自信気にアピールしていたにも関わらず、
その辺の無機物同様に無残にも粉と化してしまったのだろうか。
目を凝らして物体を探すが、探せど探せど視界を遮るモノは何一つ見つからない。
(えっ、嘘……、こんなあっさりとしたオチ?)
一人テンション高く暴れまわり、友人に置いて行かれた時のようにアキラは呆然と空を眺めた。
宇宙すらも目視できそうなほど虚ろな眼光の先には、
先ほどの雲が嘘のように消えた星空が広がっていた。
「あれー?何があったん?」
遠くからラシェルが近づいてくる音が聞こえる。
横並びに立ち止まり、その場の惨状を見ると「あらまぁ……」と感嘆の声を上げた。
「あぁ……やっぱり駄目だったのかよ……。口だけかよ糞ったれ!」
その場で地面を強く蹴ると地団太を続ける。
「雷の耐性があるから無意味だの、そのような物で我に立ち向かうのかだの……
見た目に反して口が達者すぎんだろ」
暫く踏んだ後、ちょうどいい具合に突き出た岩を見つけると
よっこらしょと登山帰りの老人のように腰かけ、深いため息をつき地面を見つめる。
ラシェルは一通り周囲を見終えた後、そろりそろりとこちらに近づいてくると、
「今度は何を(殺った)んよ?えらい光まくってたけど」
ニヤニヤしながら声をかけてくる。
「どこぞの大物が言ったような意味にするな、(演った)だ(演った)」
実際、ラシェルの言ったような結果になってしまったのかもしれないが
ボリュームにためらいがあった自分にはとても言うことが出来ない。
その事がその大物にばれたら死を選ばされるに違いない。
「本当に要らない要素を付け加えやがってあのファッキン女神め……」
自分的にはそんなに大した事をしたつもりはない。
たった1曲、軽く演奏しただけであんな化け物が消失してしまうほどのエネルギーが出てしまう。
身を守る力というのがこの事ならば、余りにも兄弟過ぎるのではないだろうか?
マイ〇ルジャクソンのPVよろしく、
マコ〇レカルキンがギターを弾いて親父を吹っ飛ばすどころの騒ぎではなく、
もしこんな世界でフルセットでライブをした日には世界が崩壊してしまう。
(話に聞く魔神なんぞよりも遥かに悪者になってしまうな……)
なんでこんな事になってしまったんだろう。
身を守る手段が目的を阻害する。
なんで身を守る必要があるのだろうか?
それは魔神という存在がこの世界を危険なものにしているからだ。
(ダーリントンの言っていた、魔神が魔法を生み出しているという推論が正しければ
魔神を倒せば魔法は消滅するはず……)
危険の根源を絶てば魔法も不要となる。
この世界の人達にとっては多少不便になるかもしれないが、
前の世界では無くても人は生活できていたんだ。
やってやれないことは無い。
正直魔神がどのような存在か、倒すこと自体出来るのかどうかはわからない。
勇者でなくては倒せないのかもしれない。
「だが……!」
やらない事には自分がこの世界に来た意味がなくなってしまう。
全ての魔神を排除し平和を築き、その上で本来の目的を行う。
恐怖の象徴としてではない、世界中の羨望を集める者としてのし上がってやる。
神は神でも魔神ではない、そう……
「俺は必ずこの世界で神となる!
世界を騒がすのは魔神じゃない、メタルゴッドとなる俺だ!」
天に向かってメロイックサインを突き付ける。
この地へと誘った女神、そして何処かに潜む魔神に向けて。
コロナのおかげで生活が一変、地獄のような日々です。
こんな余裕のない生活になると誰が想像出来たのか……




