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余りの大きさに威圧され、後ずさる。

見る見るうちに大きな影は人の形へと変化しアキラの前に立ちはだかる。

昔見た映画に出てきた巨大なゴリラのような雰囲気ではあったが

蛇のようにうごめく物が体中に張り巡らされ、

月光にさらされた部分がそれを毛であると教えてくれた。


『目的を終えて早々に帰らず正解だった……』


黒い影の一部が開き、目が現れる。

沢山の血を見て来たからだろうか、

血のように赤い色をした眼光が鋭くアキラを捉えた。


(思ったよりでかい……!)


このままでは危険だ。

直感でなんとか距離を開けるべく後ろに後ずさろうとするが

蛇に睨まれた蛙のように動くことが出来なかった。


『我はパスクア、早速だがお前の力を見せてもらおう』


口から蒸気のようなものを出しながら話すと

両腕を下したまま仁王立ちの状態で固まり、こちらの様子を伺っている。


(出方を見てやがるのか)


頭の中では先手を打つべく体を動かそうとするのだが先ほどから微動だにする事が出来ない。

体が本能で怯えている。

今までの出来事とは比べ物にならないほど、恐怖を感じて動けないのだ。


『……どうした?力を使わないのか?』


先ほどから微動だにしないアキラをみてパスクアは訝しむ。


『余りの恐怖で体が固まったか、貴様も有象無象と同じ類なのか』


ゆっくりとした手動きで、身近な岩を地面ごと削る。

山麓の形が変わるほどに削られたその岩を、アキラに向けて軽く投げつけた。

投げつけられた岩は直線でアキラの横すれすれを通過し、地面にぶつかりはじけ飛ぶ。


真横を通過した岩の風力で体が押されたが、

アキラは金縛りが解けたかのように動くことが出来るようになり

何とか倒れそうになるのを踏ん張り、距離と体制を整える。


(最初から当てる気は無かったんだな、舐めやがって……)


先ほどまで得体の知れない恐怖で怯えていた筈なのだが、

徐々に馬鹿にされてた事への怒りが勝ってきた。


「手荒い歓迎を感謝するよ。俺はアキラ、さっきお前のお友達を楽しませた者だ」


再度無限袋(インフィー君)からギター(ペグノン君)を取り出すと身構える。


『ほう……、見た事ない武器だ。魔力増幅の類か、そのような物で我に立ち向かうとは』


斧でも槍でもない、かといって杖でもない武器を目を凝らして見つめる。

そうした事からパスクアは魔力を増幅させる物だと思い込んだ。

もしそうであるなら魔法耐性のあるパスクアには無用の長物と化してしまうが、


(今までに見た事と無い物……、ふふふ……もしかすると楽しめるやもしれん)


微かに揺れていた心の奥の好奇心が、

振れ幅が大きくなっていくのをパスクアは感じた。

この者は今までの退屈をどこかへ吹き飛ばしてくれるかもしれない。


『アキラと言ったな、早速かかってくるが良い。

実に興味深い物を持っているので先に言っておくが、

我の肉体は物理耐性もさながら魔法耐性……特に雷系の魔法は無効である。』


脇を指さし、稲妻の衝撃ザ・ショック・オブ・ザ・ライトニングと言葉を紡ぐと

指した場所に光を伴った轟音が発生する。


『もし魔法を使うというのであれば雷系以外を使用するが良い』


指した指を戻すと再び両腕を下した状態で動きを止める。


(どこまでもふざけた態度を取りやがってこいつ……、上等じゃないか!)


わかりやすい挑発を真っ向に受けたアキラは、

そういうならと相手の自信に正面からぶつかる事を決めた。


「ご忠告痛み入るよ。ただ、俺もそこまで言われたら雷系で勝負しないと腹の虫が収まらなくてね。

あんたがどの程度の実力かは知らないが本当に俺の力に耐えれるのかを試してみたいんだが」


もう演る曲は決めた。

話ながら感覚でチューニングを直していく。

回し終えた後、軽く弦を弾くと感覚が合っていた事を確認できた。


扱いに気をつけなくてはと、さっきまで思っていたボリュームのレベルを最大まで回す。

内蔵アンプの力でどれだけ耐えれるか試してやろうじゃないか。


『愚かな……、無駄という事を理解できないのか。まぁよかろう、やってみるが良い』


逆光でしっかりと見えないが口元が微かに緩むのが分かった。


上等だこらぁぁぁ……


「後で吠え面をかくなよ!? 聞け、雷鋼(サンダースティール)!!」


6弦を激しくスライドさせ、5弦を弾く。

前傾姿勢を取ったまま細かい音を一つ一つはっきりと発していく。

昔はこの曲を終えるたび腕が筋肉痛で死にそうになったが

女神の恩恵を受けている今の自分には何の負担も感じられなかった。


(おおお、めちゃくちゃ楽に演奏できるじゃないか……!)


翠玉剣(エメラルドソード)などの時もそうだったが、

難しい曲がスラスラと弾ける事の爽快感はかなりのものだ。


上手く弾けない時はあれだけイライラしたのに今となっては快感以外の何物でもない。

プロのミュージシャンがステージで恍惚の笑みを浮かべていたのはそういう事なのだろうか?

指の動きの品やかさと共にテンションも上がっていく。

演奏に夢中になる。


地面に頭をこすりつけるかのようにヘッドバンキングをする。

パスクアの存在を完全に見失った状態になったがこの姿をどう見ているのだろうか?

先ほどまで、今もまさに命の危機迫る状況であるにもかかわらず、

アキラは一心不乱に頭を振り続け快楽に身をゆだね続けた。

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