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その袋は赤く内側が染まっており、同じ色の液体が下の方に溜まっている。

中には先日倒したエンヤが袋の中で無残な姿を晒していた。


「げぇぇぇぇ!」


アキラは驚きの余り声を上げる。

畜産家の皆さんには申し訳ないが、見慣れない物としては流石に動物の死骸を見るのはいつどんな時でも気が引ける、むしろ気が引けない時があるのだろうか。

そんなアキラをよそにラシェルは袋を大きく開けると中からエンヤを引っ張り出し、黙々と確認し始めた。


「うーん、放り込んだ時と余り状態が変わってないか…。という事はこの中は時間が止まってるのかなぁ…?」


「なんだよ!どうしたんだよ!?」


「え? あぁ今日の昼に話してた事だけどね。向こうの世界から生ものとかは持ってこれないって聞いてるじゃん?」


そんな事を女神が言ってたような気がするが、生もの=食べ物程度の認識しか無かったのでアキラは特に気にしていなかった。

実際持ってきたのはレトルトや乾物のような物ばかりだし。


「それは転生の際に生気が吸われるからだとかなんとか言ってたけど、こっちの世界だとどうなのかなーって思って」


それを確認したかったのよと体を触りながらながら答える。


「時間の割には腐敗してないし、乾燥もしてないっぽいね。これなら自分の目的に使えそう」


再度エンヤを袋に放り込むと、それをポシェットの中へ押し込む。

明らかに入らないような大きさの物が入っていく、マジックのように見えるその様はいつ見ても不思議だ。


「目的って…、なんに使うんだよ…」


「んー、食材の現地調達時に保存するようにねー。多分クーラーボックスとかも呼び出すことは出来るんだろうけどかさばるからさ。これに入るならポンポン入れれて楽でしょ?」


肉・野菜・なんでも入れれてすみ分けも不要、しかも荷物も増えない!と目を輝かせながらアキラに問いかける。

何だか少し疲れた、どこの珍獣ハンターなんだよこいつはと思いつつも深く考える事をやめ、再び二人してトンネルに向けて歩き始める。


戻るときは気が付かなかったが(行く時も飛んでてわからなかったんだが)、途中で分岐点らしきものにたどり着いた。

これが王都とトンネルとの分かれ道という事なのだろう。

道を指し示す案内札が立っており、日本語で「←王都 採石場への道→」と言った記載がされている。

こっちって書いてるねとラシェルは採石場への道と記された方角へと歩き始めた。

ダーリントンの所でも日本語の書籍があり、ここでも日本語での表記がされていたという事はこの世界の言語は日本語と言う事なのだろうか?

フランス人だと言っていたがラシェルも日本にいた事があるような話をしていたので恐らく日本語が読めるんだろうが何故に日本語が浸透しているのか…。


「なぁ…」


先を歩くラシェルに疑問をぶつけようと声をかけた矢先に、


「ねぇ見て!灯りがある!?」


細く長い指の示す所にポツンと小さな灯りが見える。

はっきりとはしないが柵のようなものがあり、そこで番をしているであろう人の影が映っている。

どうやらトンネルの所までたどり着いたようだ。


近くまで歩いていくと今日会ったトニーがまだその場で待機していた。


「よぉ!こんな遅くにどうしたんだ?もしかして俺に会いに来てくれたのか?」


一人で寂しかったぜまったく、と周囲の雰囲気に反して軽い言葉でこちらに寄ってくる。


「いやー、実は明日にでも王都に向かおうと思って。だからそれまでの間にアンディからの依頼をチャチャっと片付けちゃおうかなと」


ラシェルが砕けた雰囲気で話しかけると、


「こんな遅くにか?流石にそれは危ないから止めとけよ」


あっさりと止められた、そりゃトニーの意見は最もだ。

気になる女性なら尚更という事もあるが、それでなくても夜間は危険だと普通なら思うだろう。


「それに王都からも応援が来てくれたんだ、お前たちが危険な事をしなくても何とかなるかもしれない」


聞くとアキラ達が去った後にその人たちが現れ、その足でアンディに会いに行ったそうで、


「小一時間ほど前に戻ってきて、早々に解決すると言ってトンネルを抜けて行ったよ」


自分たちが来る前にここを抜け、採石場に赴いたようだ。


「だから明日のために帰って朝までのんびりしてな。それともここで朝まで一杯やるかい?」


座っている石の裏側からボトルを取り出すと開ける仕草をする。

応援が来たことで気が緩んでいるからだろうか、どこか既に解決したかのような気楽さを感じる。


「見た感じかなり強そうな人たちだったよ、多分明日中には解決するんじゃないかな」


顔に出てただろうか、アキラの顔を見つめながらトニーが疑問に答えてくれた。

お金だけでなくトゲトゲの素材を探す機会まで失うとは、どちらにせよせっかくここまで来たがお役御免となってしまったらしい。

仕方ないかと横にいたラシェルに声をかけようとしたが、


「あのさ、黙ってようと思ってたんだけど実は向こうに形見のペンダントを落としちゃって、それを探しに行きたいんだ。通してほしいんだけどダメ……かな?」


口から出まかせを吐いていた。


「馬鹿言うなよ、さっきも言っただろ危険だって。探すなら明日にしろって暗いんだし」


改めて最もな発言をするトニー、誰だってそう言う、俺だってそう言う。


「見た目輝いてて動物とかが興味引きそうな見た目なの。エンヤとか魔物に持っていかれると探せなくなるし。それに応援の人たちが討伐に向かってくれてるんでしょ?

その人たちがきっと採石場までの道を安全にしてくれてる筈だから大丈夫でしょ。採石場までに落ちてるはずだし、無理しないし。ねぇいいでしょ?」


体をこれでもかとくねらせアピールをする。

第三者からすると露骨な光景だがトニーはまんざらでもない様で、


「し、しかしだなぁ。夜だと目もまともに機能しないし、光系の魔法が使えるならともかく」


「あ、それなら大丈夫よ」


背中に回したポシェットからヘルメットを取り出すとそれを被り、ライトをつけトニーを照らす。


「うぉっまぶしっ!」


「ねっ?これなら大丈夫でしょ?」


光魔法が使えるのよと、自慢げにアピールする。


「あ……あぁ、確かに。わかった、その代わり採石場までの道のみだ。あと俺も同行しよう」


トニーは立ち上がりながら傍らに置いた武器を持ち上げようとする。


「ダメだよ、トニーはここを見てくれてなきゃ!もし何かあった時にここで防いでくれないと!」


魔物がこっちに来る可能性はゼロとは言い難い。

既に向かっている人たちや俺たちと遭遇する事なくここにたどり着くものがいたらフリーパスで町まで行く事が出来てしまう。


「むぅ…、確かに…。」


「でしょ?余り時間をかけないようにするからさ。ほら、アキラ行こうよ!」


固まった体をぐぃっと引っ張らられるとバランスを崩しながら柵の向こうへと歩き出す。


「危なくなったら帰ってくるからねー」


何処か寂しげに見送るトニーはトンネルの奥に光が消えたのを確認した後、武器を何一つ渡していなかったことに気が付いた。

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