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「まぁそう急かすでないぞ、それぞれの魔神が己が過ごすための大地をまず作った」
ページを手前に戻すとこの世界の地図らしき物が描かれている。
もしかすると未完成だからだろうか、並行世界と聞いていた割には前世界地図と異なりなんだかこじんまりとしている。
「そして開拓にあたりそれを補助させるべくそれぞれが眷属を創造していった、人・魔物といった類をな。おぬしの言う魔法は眷属が創造される際に魔神より与えられたとされておる」
魔神にはそれぞれ得意魔法があり、それを継承したが故に人によって得意な魔法が異なるといった結果になっているとの事だ。
「魔神についてはこの始まりの記載に登場するのみでその後どうなったかまでは書かれていない。生きているのか死んでいるのか、そもそも存在したのか。魔法文書など他の文献も同様じゃ。ただこの話を事実とするならば、大陸図などから推測するに少なくとも六神は存在したと言われとる」
こじんまりとした地図に微かな点線が記されており、それぞれ色分けで6か所区分されている。
「この町はこの地図で言うとどの辺りなんでしょうか?」
「ハフの町はここじゃ、王都スウェインホームはこの辺り」
地図の東側、6つの色分けされているうちの3番目ほどに大きい地域の中間ほどに指を置く、その後山らしき物に沿って南に下がると都市の名前が記載されているポイントがあった。
「この辺りの地域は基本的に土に関連する魔法を使うものが多い。その為、この地域は土属性が得意な魔神が作ったのではないかと言われておる」
一部流れてきた者などは例外があるがの、とエアの方を向く。
肝心のエアは話を聞く気すらないのか少し離れた場所にある椅子に腰かけると何かの本を読んでいた。
「魔法の始まりはおおよそわかりました。例えばなんですけどその授かった魔法の能力を消す……もしくは無くすといった事は可能なのでしょうか?」
「何故消す必要があるのじゃ?使える魔法を増やしたい、苦手な属性を克服したいという者は多かれど魔法の能力自体を無くしたいなどと言う事は聞いたことないぞ」
この世界の魔法は、親からの遺伝で8割がた決まってくるらしい。
親が両方同じ属性ならほぼその属性で生まれ、魔法力は親と同等か少し弱いのが殆ど。
極まれに違う属性、ずば抜けた魔法力を持ったものが生まれることもあるが何故こうした事が起こるかの解明には至っていないそうだ。
魔法力が高いほうがより良い地位、生活が手に入る。
その為、生まれ持った能力を更に向上させるために特殊な訓練を行ったり、能力向上系の薬品に頼ったりしてこの世界の人たちは頑張るのだ。
そんな世界で自らのチャンスとも言うべき魔法を手放すことなど出来るはずもない。
「全ての者がそう思っているとは限らない、何処かに魔法を持つ事によって苦しんでいる人がいるかもしれない。そうした者たちの気を軽くする術がないかを知りたいんです」
自分でも口から出まかせをよく言えたと思う。
ダーリントンはふざけているのかと思いアキラの目から感情を探ったが、澱みのない眼差しに真剣さを見出し、思わず出そうになった言葉を押し留めた。
「たしかにそう考えるものがいないとも限らんか、ワシも魔法能力主義者達と変わらんな。なるほど、一番聞きたかったのはその部分かの。ただ残念ながらさっきも言ったようにワシの周りではそうした事を話すものは誰もおらん……が、見当がなくはない」
出してきた本をたたむと、元の山の上に雑に返して戻ってくる。
「これは本当に推測にしか過ぎんのじゃが、先ほど言った遺伝の話しがあるじゃろう?」
「魔法は親からの遺伝で属性や力が決まるという事ですか?」
「そう、そしてその子は親と同等かそれ以下の力を持つ……。逆を考えると、親・祖父母と世代を遡るほど強くなるという事も言える、これは何故なのか? 仮に世代が進むほど魔力が衰えると考えるなら最初の眷属がもっとも魔神の力を強く受け継いだはずじゃ」
「血の濃さが魔法、魔法力を生み出しているといった感じですか」
「その可能性もある。ただその場合は魔法を消すのは不可能じゃ、既に血は根深く巡っておる」
この世界が始まって何年かは知らないが100年程度とは到底思えない。
「とんでもない話かもしれないが血の濃さが魔法力を決めているのと異なる考え、今も魔神が生きており我々に魔力を供給しているかもしれないという推論」
血が魔力を生み出しているという事ではなく、血が魔力の供給に反応するようになっているという事か。
「その場合であれば、魔法の供給源さえ絶てば魔法という物は存在しなくなる可能性はあるのう」
魔力の供給源たる魔神を探し出し、根絶する方法。
眉唾ものの話であり、かつどこにいるのかもわからないが、作っているかどうかもわからない薬や別の展開に期待するより、現状見込みのありそうな事に注力した方が可能性が高い。
聞けば飲み薬レベルでの解決方法が見つかるかと思ったが、やはりどこに行っても現実は厳しい。
ダーリントンには言っていないが存在することは女神から聞き知っている、勇者が討伐の為に動いている事も。
が、その勇者がいつ魔神どもを倒してくれるかはわからない。
複数いるなら何人かで動いたほうが効率が良いはずだ……
「あとこれに関するかも不明だが、こういう噂がある」
ダーリントンが机を指先でコンコンと叩くと
「この町に昔いた者が何か特殊な存在な可能性があるんじゃ、その者はこの町の開拓者で様々な功労を認められ王都に抜擢された」
もしかしてそれは、とアキラが言いかけた矢先にダーリントンが答えを言ってしまった。
「あのエアが住んでいる家に居た者じゃが、年齢はワシよりも上で当の昔に亡くなったと聞いていた。しかし最近になってその死んだ本人を目撃したという情報が入ってきたんじゃ」
住んでいた人はかなりのやり手とは聞いたが場所が変わればダメな時もある。
王都での成果を上げれず権威が落ちて見かけられなくなり、実は死亡説が流れただけで生きていたというオチではないだろうか?
有名人にはよくある話である。
もしくは双子の片割れとか兄弟とか。
「いや、その者に兄弟や子供などはおらんかった。目撃情報は昔王都で働いていたその者の使用人での、若かりし頃に仕えた主人と瓜二つじゃったそうじゃ。ワシも今年70になった、お迎えも近い。そのワシより年上の者なのだからそんな若い姿で今も生きているわけがない、何かしらの恩恵を受けなければの」
この世界の寿命もその位が平均なのだろうか。
それなりの有力者なんだから隠し子の1人位いるだろうから子供では、と思ったがそもそもそれなら当主が亡くなった際に無理やりにでも相続関係で公表させられるかと思い直し情報を整理する。
「つまりその者に恩恵を与えたものが存在するのでは、という事……」
「情報の裏が取れた訳ではないが、もし事実なら探してみるのも悪くはなかろうて。ワシももう少し若ければ探しに行って真実か確かめるんじゃが」
その目撃者への紹介状を書いてやると書簡を認めるとアキラにそれを放って渡す。
そしてもし会えたら連れてきてほしいと付け加えられた、情報源として話をしたいのだろう。
「目撃者の名前はアンバーという者じゃ、王都で今はワグニウスという宿屋をやっておる。場所は現地に行った時にでも聞けば教えてくれるはずじゃ」
「ありがとうございます、王都に行った際には一度寄らせて貰います。所でその昔住んでいた人なのですが」
肝心なことを聞いていなかった。
再度途中だった本を読もうと椅子に座ったダーリントンが思い出したかのように答える。
「あぁ、その者の名はイングル・ステイン。暴れ豚のような男じゃ」




