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「一体どういう事なのですか!?」
アンディは領主であるダン・ブリグナーに怒気を露わにした。
何故なら彼の発言は領主にあるまじき発言であり、かつアンディ達防衛部隊の頑張りなどを無下にするものだったからである。
「どういう事もこういう事も無い、あの鉱石場は放置すると言っているのだ」
深々と椅子に座り、アンディに背を向けた状態で淡々と、感情の無い声色で言葉を発する。
「一先ずトンネルの防衛ラインさえ死守すれば何とか乗り切れるだろう、あとは魔物が居なくなるのを待てばいい」
「その魔物は一体いついなくなるというんです!?事態が長期化すればこの町の経済が成り立たなくなります。それに野に捨ててきた仲間の供養すらいつになるかわからないというのは我慢なりません」
それほど交流があったわけでも、仕事に熱心だった訳でも無い。
ただ、あの瞬間共に行動し、不幸にも命を落とした者たち。
その無念を思うとアンディは1日でも早く採石場奪還に動き、死者を弔ってあげたかった。
「死んだ者はそこで全てが終わっている、それが遅かろうが早かろうが最終的に供養できればそれでよかろう。仕事についてもそもそも危機に対しての準備、貯蓄などを出来ていないものが悪いのだ」
先ほどと同様、波を感じない声で返答をしてくる。
「それに王都からの応援も出せないと返答が返ってきた。特殊業務協会に話だけはしておくとの事だがね」
特殊業務協会、特定の職業につかず様々な仕事をその場限りでこなす便利屋たちの集まりで果ては雑草の処理、果ては魔物の退治などその業務内容は多岐に渡っている。
簡単な審査はあるものの身元不明な者でも仕事に就くことが出来るため、老若男女様々な人材がおり、仕事の精度もピンからキリだ。
また、仕事を出す際も出す側に対して協会が綿密な裏取りをする事も無いのでダミーのような仕事も少々紛れ込む事がある為、受発注でのトラブルも起こっているそうだ。
(関係ないので何とかこちらで解決しろという事か)
とどのつまりこちらは救援隊を出せないのでハフの町のみで解決しろという王都からの回答である。
「こちらでも出せる限りの費用を提示はしておいた、もはや神に祈るしかあるまいよ」
本来なら王都直属の部隊の派遣が願わないのであれば、それの専門である魔物討伐業者に依頼するべきなのだろうが恐らく費用の面で無理だったのだろう。
専門の業者は仕事の安心感があるが費用がかさむ、反面特殊業務協会の場合は当人がその価格で納得さえしてくれれば捨て値ですら受けてくれる。
どこか心ここにあらず、他人事のように話す領主に改めて憤りを感じたがこれ以上言った所で無意味だろう。
「わかりました、こちらでも今出来る事に注力いたします」
「くれぐれも無理はするな、今採石場を陣取っている魔物には我々の力では敵わないのだろう?」
他人事どころではなく、やや小馬鹿にさえされていそうな声調に事実ではあるのだが少しばかり言い返したくなったアンディは、
「確かにそうですが、ただエアの魔法を上手く生かすことが出来れば何とかなるかもしれません」
先ほど聞いた話を領主にぶつける事にした。
「エアの魔法で……かね?」
「はい、昨日撤退時に彼とはぐれてしまったのですが救出に向かった者の話だとその際に魔物を1撃で屠ったとの事。姉のリジーの話では以前よりも更に力が増しているようです」
「それは確かかね!?」
先ほどの心あらずの状態から打って変わって急に声を上げると、真剣な眼差しでアンディを見据える。
「えぇ、数人の証言ですので間違いはないかと」
あの場にいた残りの二人も、以前の力を見てはいないが威力は相当だったと言っていた。
その魔法をパスクアに当てる事が出来れば奴にも効くはず。
領主の中では希望の見いだせる一報だったのだろうか。
顔に喜びが見え、そうかそうかと呟き、手を握る力が腕全体を震わせている。
「失うものもあったが得るものもあったか。アンディ、彼をくれぐれも危険に晒さないように。少なくとも特殊業務からの応援があるまで全ての者に魔物の討伐に出る事を禁ずる」
アンディの肩を力強く掴むと、目を反らさず訴える。
特にエアを、絶対に討伐に出してはいけないと念押しをされた。
自身の発言が藪蛇となってしまった。
エアを軸に再討伐をという声を期待したが、価値の高まった人材を確保したい気持ちは領主として当然か。
考え無しに感情で話をした自分に後悔しつつも、はいと小さく返事をし頭を下げると領主室を後にした。
「……くそっっ!」
自分の部屋への道中、到着まで我慢することが出来ず思わず壁に八つ当たりをしてしまった。
何もあんな言い方をしなくては良いではないか、余りに素っ気ない態度に領主の言っていることが正論であっても素直に納得することが出来なかった。
領主の命で奪還に向かい、魔物に襲われ命からがら何とか町へ戻る事が出来たが何人かは帰らぬ人となった。
そうした事に対して悔やむ気持ちだとか現状をどうにか打開する為にあがくような姿勢が見えないのが癪に障る。
昔から知っている人物だが、ずっとこのような感じだったろうか?
もっと領地に対して情を持って接しているように思えたが、先ほどのやりとりからそれは勘違いだったと自身の情報を書き換えた。
(トンネルまで行きトニーと合流するか)
自室へと向いていた体の方向を変えると、速足で門の方へと進んだ。
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嬉しい誤算だった。
内心採石場の奪還メンバーに召集されていると聞いたとき時、出立後で引き止める事が出来ず慌てたがまさか成長して戻ってくるとは。
おかげで当初想定していた時期よりも早く予定を進める事が出来る。
「早速今後の行動についてご相談をしないと……」
ダンはにやけ続けている口元を何とか手で押さえると、領主室の奥にある個室へと姿を消した。




