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気が付けば朝だった。
危機の中で意識を失った後の目覚めのように、覚醒状態で寝床から上体を起こすともう一つ置かれているベッドに目を凝らす。
そこには昨日必死で探したエアが横たわっており、微かな寝音を立てていた。
(良かった、夢じゃなかった)
リジーは肩の力を抜くと動悸が収まるのを待つ。
もしこの子に何かあったら自分は一体なんと報告すれば良いのか。
昨日は生きた心地がしなかった、アンディから話を聞いたときは取り乱してしまったが今ここにエアはいる。
自分一人ではエアの救出は成しえなかったかもしれない、成り行きでありながら一緒に探してくれたアキラには本当に感謝しかなかった。
最初に会ったときは何でこんな所に人がとやや不振がりもしたが、もしかするとこの事態を予測した神が遣わしてくれたのかもしれない。
神様ありがとうございます。
簡単なお礼しか出来ていなかったから、今日は改めてお礼をしないと。
よくよく考えると朝食の事を何も考えていなかった。
太陽が上がってそう時間も立っていないから恐らく来客者達はまだ寝ているだろう。
寝床から起き上がり身支度を整えると、朝食を買いに家を出る。
ブレスレッドを手に付けると風速足を唱え飛び上がった。
広い庭の上空を通過し、いつもなら市場で安価な型崩れの果物などを買うが今日くらいは奮発してしっかりとしたものを買おうかなどと考えているとあっという間に市場へとたどり着いた。
「よぉリジーおはようさん、今日もいつものコーナーから見るかい?」
朝から朝食を買い求める人でごった返す中でリジーを見つけるや否や、声をかけてきた肥えた初老らしき男性は自身の店の陳列台の隅に置かれている樽を指さす。
馴染みの店でいつもリジーが見ているそこには様々な歪な形の果物が所狭しと放り込まれており、B級品とした表記がされている。
「おはよう、今日はおあいにく様。来客に振舞うから台の方のを見させて貰うわ」
顔を斜めに傾け、今日は一味違うわよとフンっと鼻息を強く吐き出す。
「あぁ、昨日お前たち兄弟と一緒にいた奴らか。変な恰好してるからすごい目立ってたな、売ってるのも見たことないし。あいつらもお前たちと同じく外から戻ってきたが何処から来たんだ?」
「私も詳しくは聞いてないんだけど、なんだか遠い所から旅してきたみたいよ」
この店主は気は良いのだが、話し出すとなかなか止まらない所があり、かつ噂話が好物だ。
そもそも自分も知らない事が多いので二人の事で根掘り葉掘り聞かれると面倒くさいと思い、あいまいな返事で話を切ると、
「決めた!そこのバナナを2房にするわ」
台の中心に置かれていたバナナを指さしお金を渡す。
「まいどあり~2房で200レノンだ、確かに受け取った」
この国の通貨であるレノン硬貨を受け取ると、満面の笑みでバナナを持ち上げ渡してくれる。
「リジー来客だからと言わずまた是非台の上から買ってくれよ! あぁそうだ、そういや昨日の夜なんだけどさ」
店主はバナナを渡すために前のめりになったままで、左右を確認するとリジーに顔を近づけ小声で聞いてくる。
「リジーの家の近くで何か事件が起きなかったか?喧嘩とか殺人とか」
「え、何かあったの?」
「それはこっちが聞いてんだよ。昨日の夜リジーの家の方の住宅街で何かが崩れる音や人の悲鳴が聞こえたらしい。近隣の住人は周囲を見回りに行ったが何もなかったそうだ」
店主はこちらの思考を量るような目つきに変わると
「確認が出来てないリジーの家以外はな」
そう呟いた。
「うちで何かあったって言いたいの?」
「あくまで噂さ、ただ結構な音がしたらしいぞ」
昨日は確かに疲れもあって死んだように寝てしまった。
ただそれだけの音がしていれば気が付きそうなものだ。
「いや、私もエアもぐっすり寝れたから家の中では無いと思うけど」
「そうか、いや本人達が言うなら間違いないな。もしくは曰くつきの家だけに霊の類でも現れたか」
「曰くつきって買い手が付かなかっただけでしょ、変な噂をたてないでよね!」
リジーが住んでいる家はこの町では誰もが知っている家だ。
元々はこの町の権力者が住んでおり、その権力者はかなり優秀な人物だったようで様々な功績を上げた事が王の耳に入り、側近に招かれ王都へと移動することとなった。
その際にその家を売りに出したのだが広大な土地・建物のため買える者がおらず、また値段を下げても管理を出来るほどの力を持つものがいないため長いこと空き家となっていたのだ。
最終的に領主預かりの賃貸物件となった所、紆余曲折の末リジー達が住むことになったという訳である。
「すまんすまん、あれだけの家だと住むだけでも大変だもんな。見てるだけなら大きい家に住みたい!と思うのだがいざ住んでみると管理の大変さで倒れてしまうかもしれない」
「そう思ってるなら同上の意味も込めて毎日安く売ってよね」
考えとくよと言う店主によろしくと伝えると、リジーは再度風速足で家への道を急いだ。




