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気が付けば朝だった。
女神にお願いしたせいもあってか格段に演奏技術が向上しており、以前弾けなかった曲がスイスイ弾けるようになっていたので時間も忘れて没頭してしまったせいでもある。
石像を崩壊させた後も曲について試行錯誤をし、僅かだが自身の能力について理解することが出来た。
まず、当初の想像の通り演奏する曲目によって内容が異なる事。
水系の曲を演奏してみた所、地面にいきなり湖が出来て水没する事になった。
幸い膝上位の深さだったのでペグノン君は無事だったが下手したら溺れてしまう所だった。
余談だが有名な水系の曲は家屋が火事になる恐れがあったのでやめておいた。
次に食べ物系を演奏した所、終了後ハンバーガーが1つ申し訳なさげに空間から現れた。
4分近くの演奏でハンバーガーが1個か……
費用対効果はさておきこれで食べ物が底をついても何とかなる、飲み物系の歌もあるし。
ただこれの演奏で新たな発見をする事が出来た。
次に効力は音量に比例する事。
ボリュームを上げた状態で演奏を行うとハンバーガーが2個現れた、ポケットを叩いたわけでも無いのだが。
他の食べ物の歌でも試したが音量により数を増やすことに成功した。
これはアンプ内蔵式のペグノン君の音量でということで、それより更に音量の出るアンプに繋いで演奏した場合はもっと数量が期待できる。
が、反面先ほどの水系の曲とかをその状態でやった場合下手すると深海魚と対面といった事態に陥りかねないのでそこは注意が必要だろう。
最後に、これはちょっと意味不明なのだが出始めの楽器で、かつイントロから演奏しないと効力を発揮しないという事。
試しにサビから弾いてみたのだが効果は発揮しなかった。
同じ曲をイントロから弾いてみるとしっかりと効果が発揮されたので恐らく曲として最初からやる事が求められていると理解した。
また、ベース始まりの曲を途中からのギターパート始まりで演奏しても効果は発揮されなかった。
無限袋からアンプ内蔵式ベースのフェルナ君を取り出し弾いてみた所、こちらも発揮された。
この事から先ほどのイントロ云々の流れに絡んで、イントロになっている音から入らないと発揮しないという事のようだ。
因みに以前アーロという魔物を吹き飛ばした事があったが、それが掛け声によるものだという事も理解した、アーライ。
ただ、これに関しては先ほどの話と矛盾するのだが何故か曲をとかイントロをとか関係なく単体で効果が発揮する。
今後新たな事実が発覚するのかもしれないが、ひとまずは先ほどの結論で止めておいてこれは例外という風に考えることにした。
何故なら遠くに見える城壁から微かに光が漏れ始め、朝が近づいている事を知らせてくれたからだ。
あれだけうるさくしておきながら今更だが、そろそろ家主たちが起きてきても不思議ではない。
この惨状とした有様の犯人として見つかるのは避けたいので今のうちに退散を・・・
部屋へ戻ろうと建物に目を向けるや否や入り口の扉が開いた事に気が付いたアキラは、物陰の無い更地で何とか身を隠そうと地面にへばり付く。
ヤモリかイモリか、腹を地面に押し付けて固まっているとリジーらしき人物が現れ、勢いよく空へ飛び立っていった。
また今日もアーロの捕獲だろうか?
どちらにせよこのタイミングを逃すわけにはいかず、地べたから体を起こすと全速力で部屋へと戻った。
「あれ?そのオレンジはどうしたんですか?」
リジーは首を傾げた。
起床をしたアキラとラシェルは、リジーから1階の食堂らしき場所に案内されると、そこにはりっぱなバナナが威風堂々とテーブルの上に佇んでいた。
一向に現れないエアを起こしにリジーが鬼の形相で出ていき、エアを捕まえられた猫のように連れて戻ると
テーブルの上にかなりの数のオレンジが置かれ、先ほど買ってきたバナナが申し訳なさそうに座っていた。
「これは俺の故郷の果物でみかんと言う、まぁオレンジと似たような物だよ。故郷を出る時に大量に持ってきたから是非食べてほしい」
やや引きつり気味の顔で説明すると、アキラはそれぞれのスペースに取り分けて置いていく。
「これさ…、どうやって手に入れたのよ?」
向こうからこれ系は持ってこれない筈だけど、とラシェルが耳元で囁く。
「まぁなんだ…、ようするにこれが俺の真の力だったわけだ」
「へーそうなんだ。なんかお得じゃん」
果物食べ放題じゃんと早速皮を向いて食べ始める。
そうは言ってもどの果物でも、とはいかないのだが。
想定よりも美味しいものだったのか、出したみかんは非常に好評でエアは手前にあった物を既に食べ終えており、置かれた山の方に手を伸ばしていた。
「あ、私も少しですがバナナを朝買ってきましたのでぜひ食べてください」
「ありがとう、頂くよ。朝早くに飛んで行ったからアーロを捕獲しに行ったのかと思ったけど、バナナを買いに行ってくれてたのか。なんだか気を使わせて悪かった」
もう既に庭の惨状を見たであろうリジーだが、表情を見る限りは平然としている。
あまり気にする事ではなかったのだろうか?
なんだか今更謝るのも少し気が引けたので買いに行ってもらった労力込みで、こちらの良いように解釈しつつ謝罪をした。
「ごめんなさい、起こしてしまいましたか? アーロの捕獲は昨日バタバタしてて罠を用意できなかったので今日は行けませんでした。これから皆さんとアンディに会いに行った後に罠を仕掛けに行きます」
そういえば昨日、揉みくちゃにされる中そんな事を言っていたような気がする。
ちょうど町についても知りたかったので会いに行きがてらアンディにでも聞いてみるか。
リジー達にお願いするもの予定を考えたら悪いし。
そしてこの世界の事や魔法の事なども色々聞いておきたい。
「じゃあ私は出かける準備をしてきますのでゆっくりしてて下さいね。エア、食べ終わったらしっかりと片付けるように」
はーいと気のない返事をした事を確認すると、リジーは扉を閉めて入り口の方へと歩いて行った。
「ねぇねぇ、結局どうだったの?何かわかった?」
テーブルにひじ掛け、体を寄せながら聞いてくる。
みかんとは違う、柑橘系の清々しい香りが鼻腔をくすぐる。
「どうも何も、ラシェルの指摘の通り俺の場合は曲を演奏することによって様々な効果を発揮するみたいだ。下手したら自爆の恐れもあるっていうね」
顔を近づけられた事もあってか、やや目を反らして答える。
「嘘!?それはちょっと使い方気を付けないとね。もしかするとあたしのカレーにも作るレパートリーによって効果が違うのかな?」
「ありえなくはないな、また時間を見て試してみたら?」
「そうだねー。悪いけどその時は味見よろしく!」
可愛らしく舌を出しながらお願いをされた。
女性って本当に不思議だ、明らかに毒見の誘いなのだが仕方ないなと思えてしまう。
そんな無茶なお願いでも許せてしまうのはその人の魅力という事なのだろうか?
「死なない程度に頼むよ」
そんな気持ちを悟られまいとやや苦い表情を作って答えると、ラシェルは俺の手を強く握るとありがとー!と声を上げて喜んだ。
音楽や料理による効果、魔法と言うべきか。
この世界で生き残るべく授かった力。
俺もこいつも同じ世界からきて同じような力を与えられている。
この力は一見、幸運のように思えるがどちらかというと俺には不運に思えた。
早急にこの力の解決をすべく情報を集めなくてはいけない。
「……っっっぅたいへんですぅぅぅぅぅ!!!!!」
思考の波に揺れている所にリジーが慌てた様子で現れ
「庭が何者かに荒らされています!!!!」
息も切れ切れしゃべるリジーの横でアキラが椅子から転げ落ちた。




