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何とも形容のしがたい事態に陥ってしまった。
外で演奏をしてる最中に、駐車場に止まっている車を見ながら行ったとしてだ。
その車が空間から現れた剣にボコボコにされる。
剣がすっきりした顔で消え、帰ってきた持ち主が「なんてこった……」とうなだれた後、その過程を見たであろう俺を見つけ、鬼の形相で何があったかを聞いてきたとして、
「道端でメタルを演奏したらさ、剣がいきなり現れて暴れまわって帰っていったよハハハ」
などと言って誰が信じると言うのか。
その持ち主は救われると言うのか。
通るかっ…、そんな話…!
とは言っても現実として起こった訳で。
想像を超えた出来事ではあったが、狂わされた脳味噌が麻酔が効くように異常な事を異常で無いとして処理し始め、じわじわと理解をする事が出来てきた。
ラシェルは言っていた、拠り所には何かあると。
カレーを食べたら身体能力が向上した。
メタルを演奏したら何になった?
翠玉剣を演奏したら実際の剣が現れた。
つまり…
「演奏することでその曲目にあった魔法が出るという事なのか…?」
剣を歌った曲なら剣が。
炎を歌った曲なら炎が。
得意な属性なんてない、演ったら演った結果が出る。
言わば演奏は詠唱。
「じ、じゃあこれならどうなんだ?」
ペグノン君を構えるとメタル楽曲のあるあるシリーズ、鷹が飛ぶ〜の曲を演奏し始める。
「飛べるっ……てええええぇぇぇぇぇ!!!!」
まるで鷹に攫われるウサギのように腰の部分から浮き上がり、空へ登っていく。
ジェットコースターとはまた違う、思わぬ体への圧力に演奏が途切れてしまうと浮力が弱まりバンジージャンプを行うように落下を始めた。
ブヘッと受け身を取れぬまま勢いよく顔面から着地すると、アキラは微動だにせず考える。
(効果は演奏中のみと言うことか)
顔の砂を払い、着地の衝撃で弦の切れたペグノン君を復元し、先ほどの曲が弾きやすいようにチューニングを変える。
調整し終え、再度弾く姿勢を取ると弦を荒々しく弾き始めた。
先ほどと同様、腰から浮き始めるとじわじわと空に昇っていく。
ただただ垂直に昇っていく。
さながら取り残された場所からヘリで救難されるかの如くブレもせず、ただただ垂直に。
(え?これって移動とかはどうするんだ?)
浮くことは出来ても移動は出来ないという事なのだろうか?
右とかに曲がれないのか、と思っていると体が右へと移動していく。
今度は左へ、体も左へ。
なるほど、演奏しながら移動方向も念じないと無理なのかー。
いや、無理だろ。
演奏に集中しつつ移動にも集中しろだなんて出来るわけなかろう。
何処に車を運転しつつ、ギターを弾く奴がいるのか。
かのロックの大御所ですら自動運転中の車に乗ってても両手を広げるだけだと言うのに。
振り子のように左右に揺れながら空を飛んだ後、降り方に悩み、同じく念じることで何とか大地に立つ。
演奏はまだ中盤に差し掛かる所だったが気になった事があり、降りる事にしたのだ。
今回自分が演奏しているパートはギターだったが、この曲には途中他のパートのソロ部分がある。
そのソロ部分はどうなるのか?
もしかするとその部分だけ効力が発揮されないかもしれない。
また同じ曲を弾くと同じように垂直に浮き上がり、少し浮いた所で停止を念じる。
ダンクシュートにはまだ少し足りない程度に浮いた状態を維持すると、演奏を継続し問題の節まで演奏を進める。
まずベースソロ、頭の中でソロを流しながらギターのパートを弾き続ける。
要所要所の決めのみの音だが体は浮いている、状態は継続された。
次にドラムソロ、頭の中でソロを流しながらギターのパートを弾き続ける。
先ほどのベースソロよりも更に音数は少なかったが継続された。
どうやら演奏を止めない限りは演奏停止と判断されないようだ。
「この曲は迂闊にやれないな……」
こんな複雑な事をやらないといけないのに、もし飛行中に魔物に襲われたとしたらとても対応できるとは思えない。
ゲームではキャラクターが簡単に魔法を使って空を飛んだり、リジーもそうだが、している裏では頭で色々考えて飛んでいるという事なのか。
RPGなどで良くある街から街への移動魔法なんてボタン一つで楽勝だなおい、と思ってたけど反省します、すみません。
全世界の感覚ではあるが、夜が明けるまではまだ時間があるように思う。
日の出までの時間、リジーたちが起きるまでに色々試しておかなくては。
これも特典の効果だろうか、昔と違い今なら徹夜の練習もまったく苦なく出来そうに思える。
再度ペグノン君のチューニングを弄ると、更地になった地面に向かって荒々しくパフォーマンスを再開した。




