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重苦しい扉を開けるとたどり着いた頃より時間が経ったこともあり、一層寒さが厳しくなっていた。

メタルらしからぬと言われたジャケットを着、多少かじかむ手を擦りながら歩くと目を引く石像の前に到着する。

まるで北欧メタルのジャケットに採用されそうな恰好で設置されており、周囲の荒廃具合も相まって物悲しさを一層醸し出していた。


「なんか指から魔法を出しそうな雰囲気だな」


まるでストレッチをするかの如く膝を曲げ、片方へ重心を預けており、右腕を高々と上げている。

左手が何かを支えるように腹の横に置いてあり、思わず手にギター(スプー君)を持たせてみる。

うーん、結構しっくりくるじゃないか。


遊んでる場合じゃないなと石像に渡したギター(スプー君)を持ち戻すと、無限袋(インフィー君)からアンプ内蔵式ギターのペグノン君を取り出す。

近所迷惑になると言われたものの、この広さがあれば多少なら大丈夫だろう。


目の前の石像に再度目をやる。

お前がこの世界の聴衆(オーディエンス)第1号だ。

心なしか石像の表情が引き締まったように感じ、真剣な眼差しでこちらを見つめているような気がする。

向こうも真剣にこちらのメッセージを受け取る心構えが出来たようだ。


ボリュームレベルを少し上げ、仁王立ちでストラップを短めにする。

ほぼ胸の位置までボディを上げると、ジーンズのポケットからピックを取り出し弦に添えた。


「聞いてくれ、翠玉剣(エメラルドソード)


右手が弦を激しく振動させ、リフを響かせる。

他のパートが流れていないのが残念ではあるが、アキラの頭の中では完成形として流れており心は悪しき者を撃つ剣を求める旅に出ていた。

艶のあるメロディを奏でていると、何処からともなく激しいドラム音が聞こえてきた。

ドラムヘッドやリムを叩く音ではない、何か金属の物を叩くような甲高い音である。

ミクスチャーメタルのドラマーかパーカッショニストでも現れたのだろうか?

激しくヘッドバンギングをしながら弾いているせいもあり、どういった助っ人が現れたかも確認はできないがアキラは曲の世界観に没頭し、引き続ける。


険しい道をただひたすら進む。

生きとし生けるものの為、危険な魔物の住む谷を越える。

悪しき者を打ち倒すべく、世界を救うべく剣を探す旅。

栄光に向けての道が、宇宙の魂に導かれて開かれていく。

アキラは歩く、何処までも続くこの道を。


最後の一音を奏で終えると、周囲が静まり返り、発せられた汗が顔から地面へと垂れる音が聞こえた。

下を向いたまま、微動だにしないアキラは内から湧き上がる恍惚に体を委ねていた。

いやいや、なかなかどうして。

やっぱりメタルは最高だ、演奏後にこんなにすがすがしい気分にさせてくれる。


体の冷えもどこへやら、今すぐにでもジャケットを脱ぎたいほどに体は火照っている。

きっと聴衆(オーディエンス)も感動に打ちひしがれているだろう、石像だけど。


うつ向いていた顔を上げ、涙しているであろう石像に目をやる。

そこには予想を遥かに超える形で聴衆(オーディエンス)反応(レスポンス)を返してくれていた

なんと石像は感動の余り、大剣へと変化を遂げてアキラの前に浮いていたのだ。


何てことだ、メタルは石像の姿すら変えてしまうのか。

アキラは自分の好きな物の尊さに身震いを起こした。

感銘を受けると人は変わるとよく言う、それは人に限らずすべての物に適用されるという事を初めて体現できた。


緑色に輝く大剣はありがとうと言わんばかりの輝きを放った後、霧のように消えていった。

大剣が消えた後には、蛇が脱皮したような外皮らしき、大剣が変化の際に脱ぎ捨てた粉々に砕けた石が周囲に散らばっていた。


しばらく固まっていたアキラはその脱皮された石を手に取るとまた新しい汗が体から発せられた。


(うん、これはやばいな)


現実逃避は止めにしよう、未来を見つめよう。


自分がしてしまったんだろうな。

消えてしまった、理由はどうあれ人様の家の石像を亡き者にしてしまった。

どのような扱いを受けていた物とも言えど、持ち主から怒られることは避けられないだろう。


アキラは気が付いてしまった。

どう見ても脱皮したと思われる面積に会わない程、石の屑が周囲に散乱しており指先や顔の破片が散らかっているが、破片の一部は鋭利な刃物で切られたような切り口をしており、切られた片側を探せばぴったりと元通りになりそうな気がする


何だかとても嫌な予感がした。

アキラは再度ギターを構えると、仁王立ちのまま先ほどと同じ翠玉剣(エメラルドソード)を演奏し始める。

ヘッドバンギングはしない、先ほどの石像の亡骸に聞かせるつもりで集中する。


リフを始めて早々に空間に歪みが生じ、先ほどの大剣がそこから姿を現した。

緑色に輝く刃は切れ味の鋭さを感じさせ、佇むだけでも周囲の風を切っているのではないかと錯覚させる。

正面を見据えたまま演奏を継続すると、大剣が体を自ずと振り回し石屑を切り刻む。

その姿は砂城を蹴り崩す子供のような振る舞いで、更地にする勢いで刃身を打ち付けていた。

そのまま演奏を続け楽曲が終えると、またも大剣は霧のように姿を消した。

砂山と化した元石像を残して。

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