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見ていろと、アキラは無限袋から先ほどの戦いで壊れたギターのスプー君を取り出す。
ネックと本体が分離し、本体は一部が割れて無残な形となっていた。
アキラが【戻れ】と強く念じるとスプー君から眩い光が発せられ、瞬く間に破損する前の状態に戻った。
「例えばこんな感じの能力をだ」
【復元能力】
もし機材が現地で破損や盗難をされてしまった場合、それを直す等の技術があるかが疑わしかった。
その為、女神にはそうした事態に陥る前の状態に戻す、復元能力を求めた。
今回使ったのは実は2回目で正直戻るかどうか少し不安ではあった。
バイクのロブ君にも同等の力を使ったのだが、小傷などの外装の損傷は戻ったものの燃料は戻らなかった。
もしかすると消費した物については戻らないのかも知れない。
ギターの弦などももしかしたら内容によっては戻らないかも知れないので完全だと思わないようにしないと。
「やっぱりアキラもそれをお願いしたんだね」
じつはあたしも、っと先ほど使用した刃物を袋から取り出すと手に持ったままそれを見つめる。
布で拭いてはいたがまだ血が微かに残ったそれは光を放つと、未使用かと思えるほどの綺麗な刀身に変わった。
「あたしもこいつらが無いと何も出来ないからね。ねぇねぇ、他にはどんなのお願いしたの?5つ出来たじゃん」
そこは共通なのか。
アキラの時も女神は5つの特典と話していた。
先ほどのようにやりとりによっては増えたり減ったりがあるのかと思ったが同じ5つなのでこの部分にかんしては決まっている事なのかも知れない。
「【ずっと演奏し続けられる体力】【演奏レベル向上の為の器用さ】【作曲能力を高めるためのセンス】、それとさっきの能力と無限袋さ」
どれも自分の望む高みには必要な物だ。
「そうなんだ、あたしは【どんなものでも調理して皆を幸せにする能力】【何を味見しても死なない強い体】【持ち物の修復】【なんでも入れれる袋】【ドラッグストア用品の調達】」
なるほどなるほど、確かに納得のチョイスだ。
うん、後半はかなり毛並みが変わって……
「え?【ドラッグストア用品の調達】って何よ?」
「あー、あたしって化粧品とか合わないと直ぐに肌荒れするからさ。なるべく同じものを使わないといけないと思ってたんだけどこの世界にそれが売ってるのかなーって。それでその女神?女将?に会う前にドラッグストアに寄っててさ、これだ!って思って」
ラシェルが目を閉じると、正面に光の塊が生まれ消失と共にレトルトカレーが転がり落ちた。
「ドラッグストアにありそうかも?って思いながら念じると意外と何でも出てくるんだよ。カレー用のスパイスも出てくるから安心して作る事が出来るよね」
ただ体が疲れるから1日に何回もは出来ないんだーと、落ちたレトルトカレーを手に取り袋に放り込んだ。
いや、考えようによってはこいつは天才かもしれない。
唯一惜しかったのはもっと大規模に言わなかった事だ、前世界のすべての物を、いや欲張りすぎか、せめてホームセンターで売ってるものを調達できるとか・・・・。
何処のドラッグストアを基準にしてるのか不明だがホームセンター級のもあったりするし、個人的にはそうであってほしいな。
「でさでさ、さっき言いそびれたんだけど。今あたし【どんなものでも調理して皆を幸せにする能力】って言ったよね?」
「あぁ、そのおかげでプロの料理人並みの実力を得たのか?」
「違う違う、【皆を幸せにする】ってとこ」
「それは良く言う所の【料理は愛情!!】的な事じゃないのか?」
「そうそう。それって何ていうのかな、まじないとか偽薬効果みたいなものだと思ってたんだけどこの世界では現実になるみたいで」
「え、どういう事だ?」
料理は愛情が現実になる?
どこかの俳優みたいに美味しくなれと祈ると本当にうま味が変わるとかそういった類か?
「最初にエンヤを倒したって話だけど、その前に自分で作っていたカレーを食べてたんだよね。まぁそしたらあのちっこいのが一緒に走ってきてその流れで倒したんだけど。その時今までの自分とは思えない程の体の動きをしたんだ」
ベッドから立ち上がり、シャドーボクシングならぬシャドーフェンシングで空間を突く動きを始める。
対象を仕留めたのかレイピアを立てると針先にフッと息を吹きかける。
「エアにも同じものを食べさせたんだけど【なんだか力が凄く湧いてくる!】って急に元気になったよ。その後はアキラも知っての通りだけど」
元気になった結果エンヤ共々吹っ飛ばされたと。
確かに町に帰る前に残りを貰った時、元気になった気もしたがそれは割と好物のカレーを食べれたからだと思い特に気にもしなかった。
「女神も言ってたんだ、とにかくこの世界は危険だから、あなたに身を守る力を与えます。それはあなたが最も心の拠り所しているものですって」
似たような事を自分も言われた。
それがスプー君とかで殴るといった力かと思っていたが先ほどの戦いでその思いが霧散してしまった。
その程度の能力だったのか、それとも使い方を間違ったのか……
「あたしの拠り所は料理だからさ、だから多分料理がなにかの力を与えてくれたんじゃないかな」
「なるほどな、確かにこの世界には魔法があるからそういった効果が存在する事は否定できない」
「でしょ?で、何が言いたいかと言うとさ、多分アキラにもその能力があると思うんだ」
「残念ながら俺の力は大した事なかったよ、エンヤへの攻撃は通用しなかった」
手に持ったギターを大振りする。
「攻撃?それは違うんじゃないかな。アキラってこの世界に音楽を広めに来たんだよね?そしたら拠り所に何か影響を与える効果があるんじゃない」
アキラの目からウロコが落ちた。
確かに。
よくよく考えるとこの世界にきてまだ1度も音楽らしい事をしていない。
逃げたり戦ったりに必死でそんな余裕が無かったのは確かだが俺はいったいここに何をしに来たんだ。
俺が求めているのは冒険活劇ではない、全国プロモーションツアーだ。
それ位に自分の中での優先順位最頂点のものを今まで置いていたとは、本当に恥ずかしい限りだ。
ラシェルの中での頂点では本人曰くだが能力向上効果があった、それならば自分の頂点にも何かしらの効果はあるはず。
メタルを聞くとテンションが上がったりする、もしかするとラシェルと同様能力向上系かも知れない。
ちょうど今日は練習しようと思っていたところだ。
「ありがとうラシェル、すまないが俺は今から練習をしようと思うんだ。また詳しい話は明日でもいいかな?」
「オッケー、じゃああたしもそろそろ寝るね」
また明日と手を振ると扉を開け、颯爽と部屋を出ていく。
「あ、そうだ」
部屋を出る前に振り向くと、
「夜の練習は近所迷惑だから外でやってね」
ウィンクを終えると優しく扉が閉められた。
流石にアンプに通さなければ音は小さいと思うけど……
どちらにせよ場合によっては他の人の睡眠を妨げてしまうかもしれない。
ちょうど良いことに目の前に広大な庭が存在している、そこでやろう。
アキラはスプー君を持ったまま部屋を出ると、階段を音をたてないように降りて行った。




