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「もう一回自己紹介するけど、あたしはラシェル・バートン。フランス生まれよ」
特に断る事も無く木製のベッドに腰掛けると、足を組む。
リジー達が下に降り、部屋に入る扉の音を聞いた後、二人はアキラに用意された部屋へ入った。
置いて行ってくれた松明の光に照らされた石畳の床は綺麗な平面を保っており、かなりこだわってこの家自体が作られている事が伺えた。
アキラはこの時を待っていた。
この世界の人には自分の事を理解して貰うのは恐らくだが難しく、そんな五里霧中の中、同じ境遇の情報源に巡り合えたのだ。
喉から手が出るほどに相手の話を聞いておきたい。
「アキラ・シモザキだ。日本生まれ日本育ち」
ベットに向く形で背中を預け、ラシェルを見つめる。
「こんなに来て早々、俺と同じ世界から来た人間と合えるとは思ってなかったよ」
「それはお互い様だね。あたしなんてそもそも自分以外この世界に来てるなんて思ってなかったしさ」
「あぁ、それは俺が聞いたからさ、自分の事を女神だという人物に」
本人は自分の事を女神と言っていた。
現実離れの出来事に相手の言葉を鵜呑みにしていたが、今となっては女神だったのか悪魔だったのか。
どちらにせよ今更で、確認のしようが無い。
「あたしもそうだったよ、いやー美味しかったよあのカレーは」
「カレー?女神がカレーを出してたのか?」
「そうだよ?中々にカッコいい感じの女店主でさ、無愛想だけどストイックなオーラが出てるって感じかな」
正直気になっていた部分ではあった。
ラシェルは何を目的に、いや何故ここにいるのか?
アキラがこちらに来た理由と、ラシェルの来たであろう理由がどうもマッチしないような気がしていたのだ。
「なぁ、ラシェルは何でこの世界に来たんだ?」
「えっ?そりゃまだカレーが無い世界があってカレーの素晴らしさを広めるチャンスだって聞いたから」
あぁなんてこった。
こいつも俺もまるで詐欺の常套手段のような言葉でこの世界に来たのか。
詐欺に引っかかる奴なんて馬鹿だろって思っていたが浮かれていると本当にわからない物なんだな。
「あたしはカレーに人生をかけるって決めてたんだ、素晴らしさをいろんな人に教えると。そんな中まだカレーの存在すら知らない世界があるって言うじゃないか。そんな不幸な話は無いって、だから来る事にしたんだ。知らない食べ物でも、まぁあたしのカレーを食べれば誰だってハマる事間違い無しで…」
「俺はCDショップの店員だった、しかも結構な年の女性だ」
アキラは長くなりそうな熱い話を言葉で遮ると、自身の話を続けた。
「高架下の古びたCDショップ。そこで女店主をやっていた老婆が女神と名乗った」
「あれ?私の時は若い女の人だったかな、自分と同い年位の」
「同い年だったって? そういえば年を聞いてすまないがラシェルは今何歳なんだ?」
転生前に女神は言った、サービスで好きな年齢で転生させてあげるよと。
「あーアキラも若返らせてもらったの? あたしの前の世界での実年齢は21歳だよ、ただこっちに来る時に18歳にしてもらったけど」
転生前後でそんなに差が無かった。
しゃべり方からして元々若いだろうとは思っていたが。
「俺は前の世界では30歳だった、今後の事も考えてこっちでは20歳にして貰ったが」
なるべく若い方がより長い期間、メタル布教活動が出来る。
かといって若すぎると活動に支障の出る恐れがある、その辺りも考慮して20歳でお願いをした。
眉唾ものではあったがこの世界に転生した時、心なしか体が軽く、かつ手にあったタコが無くなっていたので体の変化があった事だけは理解できた。
「おぉー偉い盛ったねー。東洋人は年をとっても若く見えるっていうけど本当に若い年齢だったんだね」
「まぁ考え方はおっさんだが体は元気なほうが今後良いからな」
「そういえばアキラは何しに来たの?見た感じツーリングかサーフィン?」
この辺海無さそうだからやっぱツーリングかなと勝手に納得しようとしている。
「何処をどう見たらそうなるんだよ、俺はこれだこれ!」
置いていたインフィー君からアンプ内蔵型ギター、アキラ命名「ペグノン君」を取り出すと演奏ポーズを決める。
「え?大道芸人?そういえばアキラとそっくりな恰好した芸人が日本にいたよね。なんだっけ、うぃんたーずだったっけ?」
「違うわ!ってかなんか日本に変な所で詳しいな。メタラーだよメタラー」
「暫く日本に住んでたからねー、厳密には直前まで。メタラー?あのギュイーンとかピロピローってやる音楽の?」
「なんか馬鹿にされてる気がするがおおむね正解だ」
「えー、なんか違わない?特に格好が。あたしも良くフェスとかに行ってたけどもっとこう……」
そんなことを言うと白黒の円形デザインを持ったギタリストに怒られるぞと思いつつも
「まぁまてまぁまて、これを着ればそれっぽくなるから」
再度インフィー君に手を入れイメージを膨らませると、そこから一張羅の革ジャンを取り出した。
本革の【俺にしては】かなり高かったそれを羽織ると、先ほどと同じようにポーズを決める。
うん、これぞメタラーっぽい恰好だ。
「なっ?っぽくなっただろ?」
「いやー、それはちょっと無理なんじゃないかなー」
ケラケラと笑いながら手を上下に振る。
「だってどう見てもバイク乗りにしか見えないよ、どちらかというと映画に出てくる戦闘機パイロットって言ってくれたほうがまだマシかな」
あたしのジャケットとそんな変わんないじゃんと、襟を持って見せてくる。
何処となく向こうの方が高そうなのが少し悔しく感じた。
「あー!なんでそう見えないのかわかったよ!アレだよアレ!」
ラシェルは手のひらで三角形を作るとアキラの顔に当たる位の位置まで持ってくると、
「トゲトゲ!そう……革ジャンに無駄についてるトゲトゲが無いんだ!」
アキラが着ているのはシンプルなダブルジャケットで、ジッパーは細々付いていると言えどその他はせいぜいボタンだけ。
割とその辺でも着て歩いている人がいるようなありふれたデザインだ。
実際こういうジャケットでステージに上がっているアーティストも多いのだが、余り詳しくない人にとってはメタル、もしくはパンク=ゴテゴテのジャケットっという印象なのだろう。
「まぁそのジャケットにトゲトゲが着いてたら、それっぽく見えるかもねー」
何だか会ってそんなに時間も経ってないのだが散々な評価をされてしまった。
明日にでも町の装飾屋を探して付けてもらうかなどと考えたが、どちらもこの世界の通貨などを持っていない為、リジーにでも借りないと難しいかもしれない。
どちらにせよ生きていく為に資金調達を考えなくては。
「とにかく!俺はこの世界にメタルを広げに来たんだ、お前のカレーと似たような理由で。そのために来る時に女神に色々と特典を貰ったんだ」




