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第42話 それぞれの休日

 プレアデスはヌージィガ、赤い月、青い月、白い月をフェルミ通商条約機構及びジェミ軍事同盟の支配下から武力的に解放した。

 

 解放戦は国際的には「過激派によるテロ」として見做されたが、その後の外交努力によって先住民族による自治権が認められた。


 他文明による統治、赤い月の王の崩御、そしてソウコウらによる解放という経験を経て、この星系の中心は赤い月から母星であるヌージィガに移った。

 

 文明の名称も「ヌージィガ連星文明」(通称:ヌージィガ人)と改名し、皇帝を中心とした立憲君主制国家となった。その初代皇帝を務めるのは、青い月の王だったセーヤだ。

 

 この人事に関しては当初ソウコウが有力視されたのだが、本人が頑なに拒否したため周囲が折れ、結果次点で有力視されていたセーヤが務めることになった。


 セーヤはソウコウが面倒事から逃げたと考えている。





 プレアデスはヌージィガのドックに停泊している。

 乗員は久々の里帰りを楽しんでいた。

 吉川は留守番だ。

 


 

 サトシはユカ、アルデ、サーシャ、ユウナと街に買い物に出かけた。

 

 どこの世界でも女性は可愛い物を見る事が好きらしい。今回はユカとユウナにヌージィガ様式の服を見繕うことが目的だ。

 とは言え、目的以外の行動もついついやってしまうのはどこの女性も変わらないなとサトシは思った。

 

 一行は今、ヌージィガの南部料理のレストランに入店している。

 表通りに面したこの店の、小鳥の看板をユカとアルデが気に入ったのだ。

 

 店はブッフェ式で、各々好きな食べ物を持ってくるスタイルだ。

 サトシは陸貝と木の実のオイル焼きとサラダ、数種の穀物の炊いたものを持ってきた。

 女性陣はワイワイしながらそれぞれいろんなものを少しずつ更に乗せて席に戻ってきた。

 

 サトシは賑やかなガールズトークの中、場違い感を感じながらフォークで陸貝を剥いている。

 

 ふと、ユウナが無邪気にこう言った。

 

「みんなサトシとエッチしたんでしょ? サトシは誰が一番気持ちよかったの?」

 

 場が一瞬で凍りつくとともに、ユカとアルデはほぼ同時に同じ言葉を発した。

 

「「みんなって?」」

 

 サーシャは顔を真っ赤にして俯く。

 

 その様子を見てユカとアルデは瞬時に「理解」し、その「理解」する様をサトシはひしひしと感じた。

 手が滑って剥いてた陸貝が床に落ちる。

 その陸貝を踏みつけながらアルデが尋ねる。

 

「サトシよ……いつの話じゃ?」

 

「前の戦争の時で、二人きりで移動してた時だって。

 あと、この前サーシャの中に飛び込んだ時もだよ」

 

 ユウナが代わりに即答した。

 ちなみに、前の戦争のときというのはアルデと肉体関係を持った後の時期だ。

 アルデの顔に分かりやすく怒りがこみ上げている。それはユカも同様だった。

 

「えっと……、この話はやめにしないか……?」

 

 サトシは上ずった声でユウナを制止しようとした。

 しかし、ユウナは思ったことをそのまま話す。

 

「でも、無理矢理したのは良くなかったよ。サーシャ傷ついてるからね」

 

 サーシャは尚の事俯く。


「「はぁ!? 最低」」

 

 ユカとアルデは、自分が愛した男の非道なエピソードを聞き、ドン引きだ。

 

「ユウナさん、もうそれくらいに……」

 

 サーシャは消え入りそうな声でユウナを止めた。

 

「ん? もしかして内緒にしたかったの?」

 

 秘密とか内緒とかと言った概念がないパシィ人のユウナにはたまにこう言った失言がある。

 

 今回の失言は非常にサトシ的にはまずかった。

 拠り所なく食べた陸貝は泥のような味に感じた。

  


 

 

 ベリアルは一年ぶりに魔界に戻った。


「魔王、お帰りなさいませ……」


 腹心のガープがベリアルを迎えた。


「変わりはなかったか?」


「えぇ、何も……」


 ガープが答える。しかし彼は一瞬目を逸らした。


「ガープ……、もう一回聞くぜ? 変わりはなかったか?」


 ガープは震え始めた。


「申し訳ございません……一つ、しかし重大なことが……」


「ほぉ、何だ? 言ってみろ」


「アスタロト様が目覚めました……」


「ぅぇぇ? マジで?」


「マジです……」


 アスタロトはベリアルの許嫁いいなずけで、同じく魔族だ。

 その性格は我儘で、それでいてベリアル並みの戦闘能力を持つ。

 戯れで人間を殲滅しようとしたため、ベリアルの父にして先代の魔王ダムーが百年前に眠りの呪いをかけていたはずだった。

 

 なお、先代魔王のダムーは人間と戦争状態にはなったものの、非戦闘員の殺戮までは手を出していない。

 

「……で、アスタロトは今何処に?」

 

「その……、魔王の後ろに」

 

「久しぶりね、ベリアル」

 

 ベリアルが振り返る。そこには長い銀髪を一つに束ねた少女が腰に手を当てて立っていた。

 大きな赤い瞳は真っ直ぐにベリアルを捉えている。

 

「ア……アスタロト……」

 

 ベリアルは最早しどろもどろだ。

 

「百年分の退屈を解消してもらうから」

 

 アスタロトはそう言うとにっこりと微笑み、舌なめずりをした。

 

 

 

 

 アイラは赤い月の実家に帰宅した。

 なぜか西野もついてきている。アイラはこの男の考えが未だによくわからない。

 それもそのはずだ。当の西野自身、訳がわかってない。

 

「アイラ、只今帰参しました」

 

「アイラ、よく帰ってきた。努めご苦労だったな」

 

 アイラの姉ターナが出迎える。

 

「して、この殿方は?」

 

「ぷ……プレアデスの乗員の西野です」

 

 西野は緊張して声が裏返ってしまった。

 

「ほぅ……」

 

 ターナは好奇の目で西野を見た。

 

「アイラはこの殿方と交際しているのか?」

 

「いいえ、違います」

 

 キッパリと答えるアイラに西野は肩を落とした。

 

「そうか、なら私が好きにして良いな?」

 

「ご随意に」

 

 ターナは西野に目をやり、優しく語りかけた。

 

「西野とやら、今夜は私の部屋で寝ると良い」

 

「え?」

 

 なお、この日まで西野は童貞だった。

 

  

 

 

 ソウコウは「死者の丘」と呼ばれる国営の墓地に来ていた。

 ここにはソウコウの父親と兄、それに過去の冒険で命を落とした沢山の仲間たちが葬られている。

 

 ヌージィガでは、死んだ者たちはこの死者の丘に魂が集うと言い伝えられていた。

 

 ソウコウは過去の冒険を一つ一つ思い出す。

 先代魔王を封印するための冒険、

 赤い月との戦争、

 ジェミ軍事同盟との戦い、

 フェルミからの独立戦争

 それらすべての戦いで散っていった者たちの命の重みを噛み締めるように振り返る。

 

「俺はもっと強くならなくちゃ……」

 

 言葉に出さず、心の中で呟いた。

 

 強い風が丘を駆け抜ける。

 墓碑が風を切り、悲鳴のような音を上げる。

 

 

 

 

 それぞれがそれぞれの過ごし方で、数日間の休暇を過ごし、休暇が明けた。

 

 

 乗員たちはリフレッシュし、サトシ、ベリアル、西野はやつれている。

 

 

「さて、次の行動はどうするかなっと」

 

 ソウコウは上を向いて目を瞑る。

 

 運命に導かれるまま、旅は続く。

 きっとこの旅に終わりはないんだろう。

 

 無限に続く世界がある限り。

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